第2話 初めての戦闘、そして人の集う場所


 冒険には危険がつきものだ。そして今、その危険に直面している。

斧を構え、目前の敵に注意を向ける。

低くうなり声をあげる、草原と似た緑色の毛を持つ獣。


「その、見逃してはくれないかね」


なんて、声をかけても獣に通じるわけもなく。



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グラスファング/動物Lv.3


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視界に台座で見たような光の文字が浮かんだ。

グラスファング、それがこの獣の種の名前か


「!くぅ…重い」


ずっと睨み合っていたのにしびれを切らしたグラスファングが飛びかかってきた、それを斧でガードをする。

しかしこのままでは、押し倒されてしまう。全体重をかけグラスファングを地面に押し付け、蹴りを入れ

斧を無理やり引きはがす。そしてそのままの勢いで、斧を振り下ろしたが、グラスファングの動きも早い。

脳めがけて振り下ろした斧は、回避したグラスファングの背に入った。


「ギャンッ」


「君、結構固いっね!」


だが、そこそこのダメージは入ったようで、グラスファングは尻尾を巻いて逃走した。


「あ、まて!」


いや、あの獣 だろ速すぎるだろ、絶対間に合わない。


「ぐぅ、これでも…くらえっ」


とっさに投げた斧は、弧を描き、グラスファングの脳天に吸い込まれるように刺さった。


「おぉう、ラッキー」


草に紛れて見失う前に、グラスファングが倒れた場所に向かう。


「あれ、ここだよなぁ」


投げた斧は見つかったが、倒したフォレストファングの姿が見当たらない。


「逃げられたのか?いや、でも頭に直撃してたしなぁ」


そのまま、足元をを見回すと、草に同化していたがフォレストファングのものと同じ緑色の毛皮と、牙がいくつか転がっている。


「……死体は残らないのか?どうなっている」


疑問に思いつつ、毛皮と牙を回収する。



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草原狼の毛皮(素材)/レア度1


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草原狼の牙(素材)/レア度1


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また光の文字が表れる。


「素材、ね。ん?」


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未定/人間Lv.2


スキル/【戦斧の心得Lv.2】【視力強化Lv.2】

    【投擲Lv.1】【脚力強化Lv.1】


称号/【知を得た者】


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すてーたす、の数字が上がていた。これは自分の力を示しているものなのかもしれない。

それに新しいものも増えている。戦闘は結構積極的にやったほうがいいのかもしれない。


とにかく難去った 今は、街を目指そう。

 途中、ネズミやウサギを狩りつつ、街へ向かう。

拾った素材は多少の資金にはなるだろう。


「やっと、人のいる場所に来たな」


 町まであともう少し、ここから見える街は、高い壁に囲まれ、オレンジレンガの屋根の街並みが、迷路のように入り組んだ道を作っている。


「ここにもあるのか、あれもなんだろうなぁ」

 

 街の中心には、天まで伸びる白い塔。僕が目覚めた塔よりは一回り大きいだろうか。


「町に入ったら、情報収集だな」


 大きな門の前には、商人と思しき一団と、荷物の検査をしているのであろう番兵が幾人かいた。しばらくすると検査が終わったのか、商人たちは門の中へと入っていった。

その様子を眺めていると、こちらに気が付いた番兵の一人が、声をかけてきた。


「そこの方、入国をご希望ですか」


「あ、はい、そうです」


大きな町だと思ったが、国だったらしい。国だとしたら小さいか?


「入国の目的は?」


「これを買ってもらいたくて、あと観光ですかね」


「なるほど、旅人さんですか。ご職業をうかがっても?」


「?…旅人は職業ではないのですか?あ、その僕記憶が飛んでしまっていて、何も覚えていなくて……」


すると番兵は、少し悲しそうな顔をして


「これは、失礼しました。記憶がないというのはさぞ心細かったことでしょう。たまにいるのですよ、あなたのように、魔物などとの戦闘で記憶をなくされた冒険者などが。国に入られましたら、《火竜の酒場》に行くことをお勧めしますよ。そこで事情を話せば、今後の手助けをしてくれると思います」


番兵は懐から紙と筆記具を取り出し。何か書き始める。


「はい、汚くて申し訳ありませんがこれが地図です。そこの酒場は有名なので、迷ったら国の者に聞けばたどり着けるはずです。素材は、市場で買い取ってくれる人がいますので、言い値で買ってくれる人を探してください」


番兵から地図を受け取り、


「親切にありがとうございます」


「いえいえ、ではようこそカルゼンへ。わが国でゆっくりしていって下さい」


良い人だ。本当にいい人だ。状況が安定してきたら、この人にしっかりお礼をしにいこう。

この国はカルゼンというのか。ワクワクしてきた。

親切な番兵さんに手を振り、門をくぐる。


「わぁ、活気のある国だなぁ」


国の中は多くの人が、行き交い賑わっている。


「まずは市場に行くべきか、酒場を探すべきか」


お金を持っていないのに、酒場に行ってもいいのかという不安はあるが、まったく何もわからない状態で市場を見つけても、相場がわからないので、せっかく集めた毛皮たちが安く買われるのも嘆かわしい。


「うん、酒場に行こう」


番兵さんにもらった地図のおかげで、迷いそうになりつつも何とか酒場にたどり着く。


「昼間なのに、もうこんなに人が」


酒場にはすでに、大騒ぎするものや、酔いつぶれたものまでいる。


「いらっしゃい。なに飲む?」


カウンターの向こうの、気の強そうな女性から声をかけられた。

店主だろうか。


「あの、番兵さんにここを教えてもらって……」


彼女にここまでの経緯を話した。


「うーむ、気づいたら塔の中で目覚めて、記憶も何もなかったと……。戦闘で頭打ったり、変なもん食べて記憶飛んだ冒険者がいるのは見たことあるんだがねぇ。なにが起きたかわからないけど、うちはそんな奴らに仕事を見つける支援をしている。少し待ってな」


と言って、カウンターの下から小袋と、ガラス製の薄い板を取り出した。


「袋の中身が、銀貨10枚。これで、まともな装備としばらくの生活費だ。しばらくの間はうちの宿舎を使っていいから、1か月は金はとらないが、それ以降はいただくよ。そしてこの板は、身分証明書みたいなものだ。《リスィペ》というらしいが、由来はわからん。どこの国の言語でもないらしい」


「リスィペは、証という意味で……ん?」


なぜ知っているんだ。


「そうなのか?まぁ全国共通のものだから遠出しても使えるよ。再発行にはまたお金がかかるから注意しな。塔へ入るための通行証でもあるから大事にするんだよ。あぁ、そうそうそれでステータスを自由に表示できるってのもつたえとくよ」


ステータスも見れるのか。


「便利ですね」


銀貨とリスィペを受け取る。


「……塔には何があるんですか?」


「あぁ、あなたのいた塔には何もいなかったのだっけ」


店主はカウンターから出てきて、隣に座った。


「えぇっと、塔の中にはモンスターが大量に沸いていて、その素材を求めて冒険者たちが塔のモンスターに挑むの。上の階層に行くほど敵は強くなるから、初めのうちは上にはいかないことね、モンスターの素材は売ってもいいし、鍛冶屋に持って行って加工してもらうのも手よ。それと塔の最上階にはボスがいるようだけど、この国ではまだ討伐者はいないから、それを目標にあなたも頑張ってみたら?」


ボスか、いつか僕でも倒せるだろうか。


『その先へ上がれ』


「……その先って?」


「ん?そんなことは言ってないわよ」


空耳だろうか、それとも酒場の誰かの声だろうか。


「あぁ、ところで塔の中にモンスターがいるのに、国の住民は危険ではないのですか?」


「質問が多いねぇ、塔からはモンスターは出てこないよ、理由はわからないがね。塔を守っているのではないかと言う奴もいたねぇ。実際塔は謎だらけでよくわからない。危険も多いがそれに見合うお宝があったりもするけどね」


塔のことは、ほとんど解明されていないのか。そもそも興味のない人のが多いのかもしれない。


「ありがとうございました。準備ができたら僕も向ってみます」


「気を付けるんだよ……ところで、自己紹介がまだだったな。私は、パメラ。あんたは?」


「あの、記憶がないのでその……」


「記憶がなくても、名前くらいならステータスに書いてあるだろう。一番左上のやつだ。ちなみに真ん中が種族、右が職業だ」


もう一度ステータスをリスィペで確認してみる。


「未定って書かれてますけど」


「ほぉん、ミテイか。宿舎の部屋の鍵は渡しておくよ。場所はここのすぐ裏手だから。さて、そろそろ仕事に戻ろうかね」


「あ、ありがとうございます」


勘違いされてしまった。鍵を受け取り、もう一度ステータスを眺めてみる。


「……あれ?」



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ミテイ/人間Lv.2


スキル/【戦斧の心得Lv.2】【視力強化Lv.2】

    【投擲Lv.2】【脚力強化Lv.1】


称号/【知を得た者】


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名前がミテイに変わっている。まぁ名前がないままなのも込めるしこれからはミテイと名乗るしかないか。

それと、狩りで斧を投げまくってたせいか、投擲のレベルが上がっていた。


「次は市場か」


酒場を出て、人が多そうなところを目指してあるき始める。


「……ぬあぁ、パメラさんに道を聞いておくべきだったなぁ。塔の話ですかっり忘れていた」


気づけば、完全に迷子だ。

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物書きは、白き塔から夢を見る。 えふお @fooo23

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