第3話 低レベルで高難易度クエストを

 神鳥とは、僕が知るパターンならストーリーの終盤に本格的に関わってくる存在だ。少なくとも中盤ぐらいから何かほのめかされる可能性があり、少なくともこんな序盤に存在が知れるものでもない。

 だからこそ僕は今、自分が言った仮説「ピースとその母親は神鳥で、今いるこの場所はかつて存在した神鳥を崇める施設」を信じたくなかった。

 しかしピースは僕の推理に対して首肯した。


「そっか。そっかぁ……」

「どうしました?」

「別に。ただせめてちゃんとした装備をした上で戦いたかったなって」


 僕のレベルはピースが憑依した状態でアリスを倒したことで14になっていた。その分身体能力も向上しているからそれなりの雑魚キャラにも勝てると思う。

 でも僕の今の装備は「布の服」に「ショートブレード」、「鉄の盾」だ。兜とか鎧とかなんて物はない。

 はっきりと言おう。僕にはもうこれ以上は無理かもしれない。

 今日1日だけでかなりの事をしたんじゃないかって思う。別に奴隷の価値云々に興味はないし、ただアリスがあの奴隷たちを助けるためにって言うから契約しただけだし……あ、提案したの僕だ。

 とりあえず無理だ。いやもう、本当に……する前に装備を整えてレベルを上げてくらいはしたい。


「……はぁ」


 ため息を吐いた僕は「ちょっと散策してくる」とピースに言ってそこから離れた。

 それにしても綺麗な所だ。まるでこれまでの間ずっと手入れされていたかのような状態のように綺麗で、普通にベッドも使えそうな感じだ。……………あれ?


(何だろう、この違和感)


 無我夢中で中に入って来たけど、周りが暗いということもあってあまりにも感じなかったこと。それは―――窓の外が瓦礫で埋まっているという事だ。ならば普通、こんな所は危険という事もあって放置される可能性が高く、状況が状況だけどここに長居するのは危険じゃないだろうか? 僕の予想が正しければここはちょっとした振動で大惨事になる可能性も―――


「―――お主が考えていることは起こりはせんよ」


 唐突に話しかけられたこともあって、僕は振り向くと同時にショートブレードを抜いた。


「ふむ。戦いに備える速度は遅いが、対応は良い。流石は異界人よのう。今はピースと言ったか、あの子鳥も中々の者を連れてきた」

「………誰ですか?」

「ん? ワシか? ワシはこの施設の管理者じゃよ」


 僕の顔は引き攣っているかもしれない。

 それもそのはず、目の前にいる存在はドラゴン幼女といった感なのだ。もしかしたら彼女は魔族なのかもしれない。


「……警戒をするのは良いが、どちらにしても今のお主ではワシには勝てんぞ?」

「そうですか? そういうのはやってみなきゃわからないでしょ?」


 随分と舐められたものだ。僕が目の前のドラゴン娘に劣るだと? なんて言えたらどれだけカッコいいか。


「虚勢を張らなくともよいぞ。お主のステータスとやらはワシの魔眼を持ってすれば見抜くことはできる。さっきも言ったがワシはここの管理人での。当然、お主が何故ここに導かれたも知っておる」


 たぶん、敵じゃないのは本当だ。アリスに向けられていた殺気の類を彼女からは感じない。


「じゃあ教えてよ。僕はピースに一体何をさせられるの?」

「さぁな。それは本人に聞け。とはいえお主があの怪鳥……いや、神鳥を殺すという事はないだろうな」

《そのつもりは毛頭ないですが、何をしているのですか……》


 ピースが呆れたような声を出した。ドラゴン娘が振り向くとピースに対して手を振った。


「なに、この男がどのような存在かを確かめたくての。召喚されたばかりとは言え、確かにセンスはあるとは思うが、こればかりはこやつがどんな動きをするかによるじゃろう。しかして―――」


 ドラゴン娘の姿が消えた。と認識した時に僕のあごに手が添えられていて頬にキスをされた。


《!?》

「中々良い男じゃのう。ワシは気に入ったぞい。もしこの戦いが終わったら、ワシと一緒に暮らさぬか?」


 突然の告白だった。一体僕はいつフラグを立てたのだろう?


「それは困るかな。嬉しいけど」

「そうか?」

《いやいや、何の話をしているんですか!?》


 本気で焦っているピース。僕とドラゴン娘の間に割って入る。ピースらしくないほど異質な気配を出しているけど、一体何かあったのだろうか?


《あなたはここの管理者で番人。それなのにこんなところにいて良いのですか!?》

「細かいことを言うな、ピース。なに、将来の夫と愛を深めようとしているだけだ」

《会ったばかりですよね!?》

「当然だ。とはいえ、優秀な雄を確保するのも雌の存在意義ではあるのでな」


 話がだんだんとこじれていくのがわかる。とりあえず僕は2人の間に割って入って止めた。


「とりあえず落ち着いて。……で、僕は君の試練に挑戦すれば良いのかな?」

「そういうことになる。なに、この試練を受けるだけでもかなりの糧となるじゃろう。……ま、今日はこれまでにしておいてやるか」


 そう言ってドラゴン娘は部屋を出た。僕は困った顔をしているけど、それはピースも同じだった。


《……もう聞いていると思いますが、あなたにはあなたの能力を上げるためにこの試練に受けていただきます》

「……ピースも来てくれるよね?」

《当然です。私もあなたと共に参ります》


 そう言ってもらえて正直助かる。だって僕はハッキリ言って雑魚だ。

 ピースがいるからこそレベルが上がったし、今はアリスがいるから多少の無茶ができる。……と、ここで一つ問題が浮上した。


「ところで、あの奴隷たちはどうするの?」

《ダークエルフは付いてきてもらいます。やはり戦力不足は否めませんから。それにここは元々孤児を保護することと神鳥に対して祈りを捧げていた場所。さらに管理人によって保障されています。教会から出ないように先ほどゴーレムを使って言っておきました》


 流石はピースだ。もし彼女がヒト型ならば手際が良さ過ぎて下手すれば求婚しているくらいだろう。……という冗談はともかく。

 アリスが来てくれるのは正直ありがたい。神鳥関連のクエストは基本的にはレベルが高い人間がいれば大体はいけると思うからだ。特にアリスのステータスはヤバい。むしろピースはアリスに憑依させるべきなのではと思ったほどだ。というのも、アリスは僕らと戦った時のように弓だけでなく、剣や補助魔法を得意としている。スキルもその辺りを中心で上げているようで魔術に関しては本当に簡単なものしか扱っていないのだ。本当、あの時彼女が僕の奴隷になってくれて良かったよ。たぶん本気で戦ったら1秒と持たない。


「失礼します」


 ドアがノックされ、少し申し訳なさそうに部屋に入ってくるアリス。装備は幸いすべて持って来られていたので彼女は捕まる前の状態そのものらしい。唯一、僕の奴隷である点を除けばだが。


《これで揃いましたね》

「!? お前は―――」

「え? ピースの事が見えているの?」

《ここは私たちの聖域ですからね。中にはユウヤ様のように認識できる存在もいますが、非常に稀です》

「そ、そうなんだ……」


 まぁ、問題はないかもしれない。


「それで、私にしてほしいこととは?」

《私たちと共にこのダンジョンを攻略してもらいたいのです》

「……何も頼まなくても、行使すれば良いのでは?」

「そんなことをしたら負けじゃないかなって思って。それに元々、君を奴隷にした理由は「僕が殺されないように」と「他の奴隷商関係者から奪われないようにする」ということだからそれ以外のことで君を縛る気はないよ」


 それ以外はむしろ、一般的な女の子の生活をしていてほしいくらいだ。え? 夜這いするだろ? 何を言っているんだ。ああいう品のあるっていうか、大事にしたい女の子とすることは純愛以外ありえない。


「そうですか。その言葉が嘘ではないことを祈ります」


 僕もぜひ、理性と戦い勝つと言いたかったけど深く探られたくなかったから黙っておいた。


「で、ピース。ここではどんな試練が行われるんだい?」

《わかりません。すべてはあの管理者「マリー・ドラゴニク」次第です》

「何!?」


 驚きを露わにしたのは他でもないアリスだった。


「相手はあのマリー・ドラゴニクだと?!」

《ご存知でしたか?》

「もちろん。あの竜種は1000年前から危険人物として恐れられている。それも強力な幻術使いとしてな」


 幻術使い。つまり僕らを惑わせるつもりだろう。


「つまり、その幻術を破れば僕らにも勝機がある?」

《無理ですね。幻術はあくまでもこの神殿を守るために使っているだけですから》

「………聞いた話では、故郷の竜の里では負け知らずだという話だ」

「……………僕ら、どうやってその化け物を倒そうか」


 幻術を使え、普通に戦っても強いって……やっぱりこれってもう少しレベルを上げないと無理なのでは……。

 そもそも手立てがないのだからどうすることもできない気がする。


「………ともかく、入るしかないでしょう………気は進みませんが」

《殺すことはしないでしょうしね》

「………そうだね」


 結局意味のないことだけど、僕らはそう区切って明日に備えて寝ることにした。






 目が覚めた僕が最初にしたことは、小石を集めて手ごろな袋に入れることだった。

 本来なら、対抗策がない状態での冒険は無謀でしかない。その自覚はあるからこうして小石を集めている。ま、袋もそこらにあったものだから気持ち的に嫌なんだけどね。


(……後で手を洗いに行こう)


 とは言え、これから挑む敵は強敵。ピースのおかげで死ぬことはないかもしれないけど、油断は禁物だ。……油断していなくても僕は負ける可能性高いし。

 だから、情けないけどアリスに戦闘を歩いてもらう。大人の女性ということもあって物凄く頼りになる気がする。ま、レベル差もあるしね。


(いつか恩返ししないとな)


 その恩返しは今はともかく、僕は目の前のことに集中した。

 入ってすぐは突き当りだった。左右に道が分かれているタイプだけど、僕は躊躇いなく小石を放った。


「何をしているんですか?」

「相手が幻術を仕掛けるなら道にも少しは細工されているって思ってね。で、実際その通りだ」


 目の前に道が現れる。でも、それが最短ルートだったようで昨日僕の前に現れたドラゴン娘「マリー・ドラゴニク」が姿を現す。


「意外じゃったのう。まさかピースやダークエルフではなく、人間の小僧が輪が幻術を見破るとはのう。で、何故こっちが正解じゃとわかった?」


 興味津々で僕に質問をするマリー・ドラゴニク。彼女の瞳はまるで少女のように輝いていた。


「幻術使いだから、もしかしたら最初はダンジョンを迷わせて罠にはめるんじゃないかなって。それで僕のレベルを測るんでしょ? もしくはアリスのレベルも、かな?」

「………なるほどのう」


 来る、と僕は直感した。理由としては予備動作として翼が開いたからだ。

 咄嗟に横に飛ぶけどそのスピードは誰も反応できなかったようで僕は思いっきり壁に叩きつけられた。


「これでしまいじゃ」

《ユウヤ様!?》


 壁があるにも関わらず無理矢理押された感触を味わった僕の意識はそのまま遠のいていった。






 ■■■






《マリー、あなたは―――》

「焦るな。まだ殺してはおらぬ。手っ取り早くレベルを上げるにはこれしか方法がないのでの―――っと」


 尻尾で突き出されたサーベルを受け止める。アリスはすぐさま後退するがマリーは容赦なく追撃する。


「ワシとしては、何故ダークエルフの娘がここにいるかは謎だがの」

《それは……》

「とはいえ、本来ならば効くはずの防衛魔法が効いていない。意外じゃが、本当に奴隷魔法で守られているようじゃな」


 心から驚きを露わにするマリー。それもある意味当然のことだった。

 この神殿はダークエルフだけでなく魔族や強い邪悪に反応防衛魔術が常時発動している。かつての人々はその魔術を効率よく行うように術式を建物全体に仕込んでいるのだ。そのためあらゆる魔物や魔族を拒み、入ればたちまち体内に宿る魔を破壊し尽くす。故にこの神殿を破壊するには魔族にとって至難だが最重要課題である。今回の魔王がまだ破壊に乗りきっていないのは、少し遊びが入っているからだ。

 だが例外として、奴隷として縛られているダークエルフはその効果がない。

 というのものダークエルフは元々気性の荒い魔族がエルフを襲い、いくつか捕らえて実験した時に生まれた種族だ。

 あらゆる能力を良いところを取った雑種。故に戦場に駆り出されることが多く、負けて生かされたダークエルフを奴隷にし、自分のボディガードとして使役する人間は一定数いるのだ。エルフの元々の魔法耐久力はもちろん、戦いによって成長した人による作品は数多く存在する。奴隷の首輪もその一つだ。


「しかしピース、本当にこの男で良いのか? こやつは奴隷を平然と使うぞ?」

《……それに関しては色々と訂正をしていただきたいですが―――》


 そんな時だった。

 ピースは何か異質な存在を感じた。だがマリーが仕込んだ魔術の効果によってその場から動くことはできず無防備にその気配を食らってしまう。


「何!?」


 そして驚いたのは他でもないマリーだった。

 当然だ。予定ではユウヤが立ち上がるにはもう少し時間が必要と考えており、少なくともアリスを倒すぐらいには時間がかかるとふんでいた。ダメージはそれなりに与えたがまだ倒すに至っていない。


「なるほど、これが伝説の剣に値するものか―――あれ? 意外と軽い」


 飾ってあった剣を取ったユウヤは驚いたような顔をして剣を抜いた。

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