第66話~復活!聖なる草原

 次の日の21日の目覚めの刻にINした私は、テントから出ました。もう既にいつもの如く、テントの中にユージさんはいません。

 外に出ると立っているユージさんが振り向きました。


 「おはよう。見て。凄いよ」


 ユージさんに言われ、ユージさんの横で壮大な風景を見渡します。

 朝もやが辺り一面に広がり、虹の刻とはまた違った神秘さがあって綺麗。


 「凄い。綺麗」

 「うん。馬が走り回っている姿を見てみたいね」


 頷くとユージさんがそう言うので、力強くもう一度頷く。

 この草原を走り回る馬たちを早く見てみたい


 私は、魔石を握りしめ、早速魔法陣描きを始めます。

 そしてようやく、二時間程で描き終わりました。やり切った感がありますが、まだこれからです。


 ユージさん達が描き終わった魔法陣に粘土を運んでいる間に、私は魔法陣をリンクさせる為に、それぞれの魔法陣に接触する様にリンク用の魔法陣を描く。

 これで二つの魔法陣はリンクされました。これが連携用魔法陣。


 と、まだありました。

 杭のてっぺんに魔法陣を描く事です。

 これを忘れて窯に入れてしまうと、残りの杭も手書きになります……。


 こういう物に描くのも慣れてきて30分程で描き終わり、全ての準備が整いました。

 私は緊張気味で、魔法陣が描かれた杭を窯の中に置きます。


 「後は五分後だね」

 「うん」


 ユージさんの声に私は頷きました。

 五分ってこんなに長かったでしょうか?

 ドキドキして見守っている中五分後、スーッと窯の魔法陣の光が上に駆け上りました!

 そうすると、やや遅れて大きな魔法陣にも光が駆け上がる。


 私達は、窯ではなく大きな魔法陣へ走り寄った。そして、見事に粘土から変化を遂げた千個の杭を見上げる。


 す、凄いです!

 数えていないけど、千個あるはずです。正確には999個ですが!

 魔法陣の鏡を作ったり手間はあったけど、これを千個作る事を思えば、苦労とは言えないです。


 私は窯で出来上がった杭を手に取り、そして千個のうちの一つを手に取って、比べてみる。

 一寸違えず同じ物です!


 「やったぁ! 大成功!」

 「さすがソレイユさん。今回も楽しそうだったし」


 あ、やっぱり見学していたのね。


 「凄いです! 一気に千個も作るなんて! さすが錬金術師様です!」


 バジーくんも驚いています。


 「触ってもいいですか?」

 「うん。いいよ」


 私がいいよと頷くと、バジーくんはそっと杭を手にする。


 「何これ。凄く軽い!」


 だよね。見た目だとずっしりしている様に見えるけど、何故か粘土の時より軽い。


 「後はこの杭を地面に埋めるんだったよね?」

 「うん」


 ユージさんの言葉に私は頷く。

 本には、魔法陣の面を上にして杭は地面に打ち付け埋めると書いてあった。

 この方法で、千個の杭で草原を囲うと結界の完成です!


 うん? 打ち付ける? 打ち付けるですって!! どうやって?!

 今更気が付いた。作るだけではだめじゃない。


 「ユージさん、どうやって杭を打ち付けようか……」

 「あ!」


 ユージさんもそこまで気が付かなかったみたい。

 千個の杭をどうやって作ろうかで頭がいっぱいだったもんね。

 それに千個を埋めるって凄い大変じゃない? 数が半端ないだけじゃなくて範囲が広すぎる。

 それも頭から抜けていたわ!


 「兎に角一旦、前の結界の杭を見に行こう」

 「それならこっち」


 ユージさんの意見にバジーくんは、一番近い朽ちた杭が埋まっている場所へ案内してくれました。

 魔法陣が描かれた杭が見える。ボロボロだとは思いますが……これを抜いて打ち込むとなると……先が見えなくてめまいがしそうです。


 「参ったね……。この内側に打つとしても……。千個あるし、打ち付ける道具もないね」


 ユージさんも困ってそう零す。

 そしてユージさんは顔を上げ、草原を見渡す。


 「これを一本ずつ打ち付けて行くのは現実的じゃないね。他に方法ないか探ろう。例えばだけど、魔法陣で埋まっている杭と作った杭を交換するとか……」


 交換……作ったのと入れ替える?

 千本打ち込むより魔法陣を描く方が断然いい!


 「いいね! 私、本で探してみる!」


 ユージさんの案により早速、本で探してみるとありました。

 ただ問題は、交換する物も囲わなくてはいけない事です……。

 それをどうするか。


 「あったんだけど……。交換する物どうし魔法陣の中に置くみたいなの。魔法陣自体は小さく描いても、写す場所として草原を囲わないといけないみたい……」

 「わかった。それは僕がするよ。今回は、最後まで魔法陣を描いて写した後に魔力を注ごう。広大過ぎてなぞるのは不可能に近いからね」


 鏡を使って魔法陣を写すって事だろうユージさんの意見に頷くも、不安になる。

 

 「どうやって円を描くの?」

 「何か所かの杭の場所を聞いて、中心を決めて君がやったようにやってみる。ロープでは無理だけど、これ使ってみるよ」


 ユージさんは、自分のリュックから旗がついた長さ15センチ程の棒とデジタル時計のようなものを見せてくれた。


 「これは立てたこの旗がついた棒からの距離を測る物なんだ。正確な丸じゃないけど、旗からの距離を確認しながら鏡の棒で円を描くよ」


 凄い大変そう。

 タッタカ走って線を引けなさそうだし、大変だよね。でも今はそれしか方法がない。


 「ありがとう。お願いします」


 私はそうユージさんに言った。

 そういう事で、ユージさんは複写先の魔法陣を指定する円を描き、私は魔法陣に魔力を供給する為のオーブの作成と交換の為の魔法陣を描く事になりました。


 まず粘土作りから。大量に作ったばっかりだけど全部杭になったからオーブの分は作らなくてはならない。

 粘土を作り終えたらそれで魔石を包み、丸くして窯の魔法陣に置く。

 今回はこの前のオーブより大きく作った。お花畑より魔法陣がかなり大きいからね。

 おかげで魔石がほとんどなくなりました……。


 今度は、草原に複写する魔法陣の作成です。

 それが完成すると、私が作った杭の方の魔法陣の作成です。

 これは、作った杭の横に作る事にした。


 頑張って大きく描きました! 積み上げるとしても千個の杭を置かないといけないからね。

 やっぱりある程度大きいと模様を描くのが大変で、五時間も掛かってしまいました。失敗しては書き直して、下書きに凄く時間がかかったのです。


 この魔法陣に千個の杭を移動させる。

 バジーくんも手伝ってくれて、大きな布袋をバジーくんが持っていたので、それに入れて運び二時間程で終わりました。杭が軽くてよかったです。

 でもユージさんと別れて八時間程経ちましたが、まだ戻ってきません。


 『ユージさん、大丈夫? こっちは用意できました』


 私は心配になり、以心伝心でユージさんに話しかけました。


 『終わったの? ご苦労様。こっちもゴールが見えて来たよ。もうちょっと待っていて!』

 『うん』


 ユージさんは、書き始めの所にも目印になる物を立て、線を描いているようです。

 以心伝心から一時間後、ユージさんが戻ってきました。


 「お待たせ。はい」

 「ありがとう。お疲れ様」


 戻って来たユージさんは、私に鏡を手渡してくれた。

 今度は私の番です。

 鏡を魔法陣の前に立てると鏡の面に一瞬光が走る。そして草原が淡く輝く。

 魔法陣が描かれた証拠です。今回も成功です!


 「草原の魔法陣に魔力を注げば、それで終わり?」


 ユージさんの質問に私は頷く。

 両方の魔法陣が発動すれば交換されるはず。

 千本の杭が積み上げてある魔法陣は、描いた時に発動状態になっている。

 後は草原に魔力を注げばいいはず。


 私達は草原の中心――魔法陣の中心に向かった。

 移動方法は、ユージさんに抱っこされてユージさんが全力で疾走です。

 一時間程でつけるかもとユージさんが駆ける。


 中心には、ユージさんが立てた旗のついた棒がさしてあって、それを抜くと代わりに杖を立てた。

 前回同様にユージさんが抑えている杖の上に、私がオーブを乗せる。


 乗せたオーブは見る間に小さくなっていく。

 そして、さあっと草原に強い風が吹いた!


 私達は、今度は埋まっている杭を見に行きました。

 杭は、私が作った杭に代わっています!

 もちろん私が作った千個の杭が積み上がっていた所には、ボロボロに朽ち果てた杭になっていました。

 大成功です!


 後はバジーさんが抜いた所に、一本だけどけておいた杭を差し込むだけです。

 杭の抜いた穴にユージさんが杭を差し込み、踏んで最後まで土の中に埋め込みました。

 そうすると、杭から七色の光が天に向かって走る。

 私達は、草原に足を踏み入れて確かめると、ぬかるんでいません!

 これも大成功です!


 「結界張られたみたいだね」

 「うん……」


 何か信じられません。

 この広大な草原に結界を張り直したなんて。


 「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げてバジー君はお礼を言いました。


 「成功してよかった!」

 「久しぶりに役に立った感があったよ」


 ユージさんが満足そうに言う。

 いつも凄く役に立ってるし、助かってます!


 「100年しか効果ないけど……。今度はもっといい結界が張れる様に腕に磨きをかけるね!」

 「うん。また100年度に会えるのを楽しみにしています!」


 と、バジーくんは返してきました。

 100年以上の寿命があるらしい。まあケモミミ族じゃないプレイヤーも長生きするんだからおかしくないのかもしれないかな……。


 私達は、ここを聖なる草原を名付けました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る