2018.8.18ノラ漢文読みのアタマの中1

さて。

ライト風の序から漢文訓読3連発、

奇襲に近い内容をお送りしました。



『三国志後伝』を著した酉陽野史は、

『晋書』を繰りながら激しく妄想して

本作を作り上げてきた、ということを

よくよくご理解頂けたかと存じます。


次は序盤の戦で主役を張った齊萬年せいばんねんなどを

やってみっかと思わなくもありませんが、

ワンパターンになるのもよろしくない。


そんなわけで今回は違う感じにします。



ガチ漢文トーク。

またか。。。



漢文、それはすなわち漢字の羅列、

ぶっちゃけ、影印本とか一見お経。


そもそも、句読点がないのですよ。

つまり、文の始末も分かりません。


読めますかいな、そんなもん。



現在ではたいていの場合、標点本が

出版されておりますから安心です。


これは、お経に句読点を振ってあり、

固有名詞には傍線を引いてあったり、

大変に読みやすくなっております。


中華書局の二十四史とかが好例です。

字も印刷活字だから読みやすいです。


一方、

影印本は木版印刷写真を印刷したもの、

字は上手い場合も、下手な場合もあり。

略字に俗字が跳梁跋扈する

めくるめく読みにくさです。


ただ、

昔の書局の簡装本は、長く使うと本の

背表紙からパックリ二分する素敵仕様、

ソ●ータイマーと共に買い替え需要を

喚起する商売上手としても有名でした。


だから、長く読んだ本の背表紙は割れる。

これが読み込みのメルクマールなのです。


今は立派な製本なので、背は割れません。



「背表紙を割って出直して来い!」

これすなわち、

「基本史料の読み込みが甘い!」

という叱責にほかなりません。


まあ、さっき思いついたんですけどね。



最近はWebにも史料が盛りだくさん、

読んだり探したりが楽になりました。


昔は逐字索引をわざわざ作ったりして、

それが高値で取引されたりしてました。


今や全文検索なんかできて当然、

という環境になりつつあります。


メジャーな史料は。



こやつらをスラスラと読み下して

こういうアホ文を書いとります。


というのは大嘘で、

標点本であっても、

読めないものは読めないんですよ!


すみません、取り乱しました。



しかし、

亀の甲より年の功、

読書百遍、意自ずから通ず、

ということもございます。


つまり、

長らく読んだ者に見える景色は

まあまああったりなかったり。


そんなノラ漢文読みの読み方を

イッパツ公開してみっかねえ、

とゆーハナシですよ、奥さん!



前説は以上、以下に一文ずつやってみるよ。

当たり前ですけど、標点本ベースですから。



『晋書』孝惠帝紀 永平六年

秋八月,雍州刺史解系又為度元所破。秦雍氐、羌悉叛,推氐帥齊萬年僭號稱帝,圍涇陽。



以上、お経でした。

それでは、おもむろに読みます。

この文章の難易度は超簡単です。



最初に意味が通じる文に割ります。


秋八月、

時期な。


雍州刺史解系

主語な。


又為度元所破、

副詞と動詞と補語な。


秦雍氐、羌

主語な。


悉叛,

副詞と動詞な。


推氐帥齊萬年

動詞と目的語な。


僭號稱帝,

動詞と補語な。


圍涇陽。

動詞と目的語な。



以上はアタリ。

次に日本語化します。

見返すのダルいから、

継ぎ足していきます。


秋八月、

時期な。

秋八月、


雍州刺史解系

主語な。

雍州刺史の解系、


又為度元所破、

動詞と補語な。

又た、為る、度元の、所、破る、


秦雍氐、羌

主語な。

秦雍の氐、羌は


悉叛,

副詞と動詞な。

悉く叛く、


推氐帥齊萬年

動詞と目的語な。

推す、氐帥の齊萬年、


僭號稱帝,

動詞と補語な。

僭號す、稱す、帝を、


圍涇陽、

動詞と目的語な。

圍む、涇陽を、



以上で以下のような部品ができます。


秋八月、

雍州刺史の解系、

又た、為る、度元の、所、破る。


秦雍の氐、羌は

悉く叛く、

推す、氐帥の齊萬年、

僭號す、稱す、帝を、

圍む、涇陽を、


後は、バラバラの素材を並び替えます。

前が並べ替え前、後が並べ替え後です。


秋八月、

雍州刺史の解系、

又た、為る、度元の、所、破る。


秋八月、

雍州刺史の解系、

又た、度元の、破る。所、為る、


秦雍の氐、羌は

悉く叛く、

推す、氐帥の齊萬年、

僭號す、稱す、帝を、

圍む、涇陽を、


秦雍の氐、羌は

悉く叛く、

氐帥の齊萬年、推す、

僭號す、帝を、稱す、

涇陽を、圍む、



最後に、日本語風の助詞を補って

助動詞を整えると訓読文完成です。


秋八月、

雍州刺史の解系、

又た、度元の、破る。所、為る、


秋八月、雍州刺史の解系は又た度元の破る所と為る。


秦雍の氐、羌は

悉く叛く、

氐帥の齊萬年、推す、

僭號す、帝を、稱す、

涇陽を、圍む、


秦雍の氐、羌は悉く叛いて氐帥の齊萬年を推し、

僭號して帝を稱し、涇陽を圍む。


出来上がり。



要するに、

最初に分解した時点で

理解はほぼ完了します。


訓読はあえておこなっています。

なぜ?

すなわち自らの誤りを探すため、

訳の間違いは必ずや訓読の誤りに

現れるからなのです。


訓読すると、理解が及ばない場所を

自分で把握できる、これがミソです。



訓読したけど意味不明という方も

おられますが、だいたいは字義の

理解が誤っている、または曖昧。


これは、

面倒だけど辞書を引くしかない。

ここまでが初歩的なハナシです。


ヤバイのは次の段階、固有名詞。


漢字の羅列の中から固有名詞を特定する、

これはもう純粋に知識量が左右しますね。


行中書門下平章事とか、

都督中外諸軍事とか、

官職名や地名、人名、

時代が下るほど長くなる。


まあ、標点本なら解決します。

傍線が引かれてますからねえ。


さらに先には典故や避諱など、

イヤガラセみたいなのが続発。


漢文読みの苦悩は深まるばかり。


ちなみに。


典故は「分かるよね」とばかりに

故事を織り交ぜてくることです。


「高祖は百敗して九里山に楚を滅ぼす」、

誰やねん。そんで九里山ってどこやねん。

こんなんです。


避諱は、劉淵を劉元海と呼ぶのがそれ。


『晋書』は唐の編纂ですが建国者は李淵、

劉淵と同名でともに諱は淵、皇帝の諱を

呼ぶ、または書いて公表するのは不敬。


だから、淵字は読み替えられるのですよ。

知るか、そんなもん。



そういうわけで、漢文訓読とは言え、

脳内はなかなかに仕事をしているね、

ということがお伝えできれば幸いです。


あと、やっぱり知識量を求められます。


なので、底なし沼そのものの世界です。


変にハマらないように、ご注意下さい。


今日はこれまでとします。

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