第3話
由美さんとの美術館デートから三週間程経った頃イベントが開催された。今回は僕もバンドで出演する。会場で由美さんを見かけたので話しかけようと思ったけれど、有名なレコードショップから発行されている情報冊子を熱心に読んでいたので躊躇した。横から佐野が「行け、逝け!」と背中を押してくれたけれど、何かに熱中している由美さんは他の人の三倍近寄りがたい空気が出ている。
話しかけたい、けど話しかけづらい、どうしよう。うじうじモヤモヤしていたら、由美さんはイケメンと話していた。細身のお洒落なイケメンだ。確か彼は今日のライブに弾き語りで出演する。リハで聞いたが、かなり歌が上手かった。
イケメンの名前は小林君と云った。以前から名前はよく見かけるけれど、歌声を聞いたのは今日が初めてだった。隣の市でよく活動しているらしく、評価も高いようだった。
由美さんは小林君と親しげに話している。こう見たらあの二人、お似合いだな……。美女とイケメン、身長差も丁度良い具合だし。僕の心は一気に沈んだ。しかしライブに影響してはいけない。この絶望感をステージ上で吐き出せれば……。
ライブは、自分的にはそこそこ出来たのではないかと思った。メンバーからも「そこそこだったね」と似たようなコメントを貰った。悔しさが残りつつも少しホッとした。由美さんが小林君と話していてもやもやしていた、なんて事がバレたら「他人のせいに」している事になる。そうならなくて良かったと心底思った。
○
もやもやしているのも嫌なので、酒の力も借りて思い切って由美さんに聞いた。
「小林君と仲良いんですか?」余裕が無かったのだろう、ストレートに聞いてしまった。
「仲良いっていうか、小林君の歌声が好きでライブによく行くから」由美さんは答えた。
そうなんですか……と云っても後が続かない。曖昧な関係はよろしくない。
「僕、由美さんの事を女性として意識しています」云ってしまった。由美さんは一瞬、驚いた表情をした。そうだよな、そりゃそうだよな、いきなりすぎるよな。まだ一回デートしただけだし。すると次の瞬間、由美さんは思いもよらない言葉を発した。
「それ、何人に云ってるの? いつも沢山の女の子と話しているし遊んでいるみたいだし、信用出来ないよ」
あまりの衝撃に、僕は呆然としてしまった。
普段から人とコンタクトをとって、いつでもスムーズに会話が出来るようにしていたつもりだった。飲み会を頻繁に開いているのは確かだし、たまに女子が参加した時はテンションが上がってSNSに写真をアップしていた。あれが逆効果だったのか……。
その後どうなったかよく覚えていない。イベント終了間際に見かけた由美さんは誰かと愉しげに話していたが、さすがに話しかけられなかった。とりあえず打ち上げで浴びるように酒を飲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます