3. 巫女を取り巻く環境

神事は全て正室の生贄を中心として組み立てられており、この他に側室として十人程度、更にその下に生活を拘束されない「候補生」が数百人という規模で、巫女のピラミッドが構成されていた。尚、「生贄」とは側室以上の巫女のことを指し、候補生については単に「巫女」とされていた。巫女の居室は、正室となる生贄が神殿内に設けられた高い塔の頂(これは、主に最も近い場所という考え方に基づく)、側室の生贄は神殿内、そして候補生は寮、または自宅通いであった。


人生においてそれだけのコストを払う生贄には、相応の待遇が保証された。また、生贄を供出した家には国から特別手当が支給され、居住区画的にも優遇された地区に住まうことができた。生贄の任期は天寿を全うするまでの終身制。勤め上げることができた生贄は神殿で永代供養され、その家も優遇措置を受け続けることが出来た。一方、怪我や懲戒などにより生贄の任を全うできないと判断された巫女は、任を解かれて家に戻された(退職金めいたものは多少出たようである)。そのようなケースでは、供出家に支給される手当や優遇措置なども打ち切られ、家族は一般地区への移住を余儀なくされる。娘が生贄に採用された時点で親が仕事を辞めてしまい、その後解任によって一家が路頭に迷うなどの不幸話もあったようだ。


一方、一般の巫女(=候補生)は神学徒のような位置付けであった。巫女の中には学問を修めながらも神殿には上がらず、家業や別の職に就く者も少なからず居た。これは、候補生から生贄に昇格するための倍率が十倍以上であったことを考えれば当然と言える。

しかし結果はどうあれ、候補生は生贄という狭き門を目指して入門してきた者たちであり、そこには親兄弟の生活もかかっていた。そのため、生贄を目指す者たちは一家を挙げてこの過当競争に臨むのが常であった。

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