3. 少女と少年

初めはまごついていた少年だっだが、彼女の持つ柔らかい雰囲気と笑顔に誘われて、次第に打ち解けていった。

少女の話す言葉は少年のそれと同じようでいて、しかし昔訛りがかなり強く、ときどき分からない単語もあった。

「何て言ったの?それってどういう意味?」

話を逐一遮って尋ねる少年に、しかし少女は嫌な顔ひとつすることなく、身振りや絵を交えて丁寧に語りかけてくれた。


歌も聴かせてくれた。それは少年がよく知っている歌だった。村のお祭りで先祖の霊に捧げる歌。少年の村、その周辺の村でも恐らく知らない者は居ないだろうと思われるほど、この地では広く知られた歌だった。

しかし彼女によると、この歌は隠れて歌わなければならないのだそうだ。何のことを言ってるのかよく分からない。分からないがしかし、自虐的な雰囲気を纏いながら伏し目がちに笑う彼女を見て、少年は悲しい気持ちになった。思わず力んで、

「僕もその歌知ってるよ!僕だけじゃなくて、村のみんなが知ってる!」

と声を張ってしまっていた。

少年の言葉に、少女はキョトンとした表情をして首を傾げた。

「村のお祭りとかで歌うんだ。月の神様にお仕えしてた昔の人のことをお祀りするんだよ。この辺りの村は、みんな歌うんじゃないかなぁ。隣の姉ちゃんの結婚式でも歌ったよ!」

それを聞くと、少女は急に膝を抱えて俯いてしまった。

「…どうしたの?」

少年が近寄ると、藪から棒に抱きすくめられる。少年の頭を掻き抱き、慈しむように撫で回すその表情は、とても幸せそうに微笑んでいるように思えた。

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