3. 少女と少年
初めはまごついていた少年だっだが、彼女の持つ柔らかい雰囲気と笑顔に誘われて、次第に打ち解けていった。
少女の話す言葉は少年のそれと同じようでいて、しかし昔訛りがかなり強く、ときどき分からない単語もあった。
「何て言ったの?それってどういう意味?」
話を逐一遮って尋ねる少年に、しかし少女は嫌な顔ひとつすることなく、身振りや絵を交えて丁寧に語りかけてくれた。
歌も聴かせてくれた。それは少年がよく知っている歌だった。村のお祭りで先祖の霊に捧げる歌。少年の村、その周辺の村でも恐らく知らない者は居ないだろうと思われるほど、この地では広く知られた歌だった。
しかし彼女によると、この歌は隠れて歌わなければならないのだそうだ。何のことを言ってるのかよく分からない。分からないがしかし、自虐的な雰囲気を纏いながら伏し目がちに笑う彼女を見て、少年は悲しい気持ちになった。思わず力んで、
「僕もその歌知ってるよ!僕だけじゃなくて、村のみんなが知ってる!」
と声を張ってしまっていた。
少年の言葉に、少女はキョトンとした表情をして首を傾げた。
「村のお祭りとかで歌うんだ。月の神様にお仕えしてた昔の人のことをお祀りするんだよ。この辺りの村は、みんな歌うんじゃないかなぁ。隣の姉ちゃんの結婚式でも歌ったよ!」
それを聞くと、少女は急に膝を抱えて俯いてしまった。
「…どうしたの?」
少年が近寄ると、藪から棒に抱きすくめられる。少年の頭を掻き抱き、慈しむように撫で回すその表情は、とても幸せそうに微笑んでいるように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます