UNEPISODE02 武芸十八般

 どーん……ぱぁん!


 どーん……ぱぁん!


 どんどんどんどん!ぱんぱんぱん!ぱららららら……



 夏祭りの日であった、と、思って頂きたい。

 花火が照らす、夜の河川敷、橋下であった。夏の蒸し暑い空気を、花火の音が震わせていた。



 男がいた。


 太い男であった。ただ太いのではない。力が、太いのであった。


 首が太い。胴が太い。胸が太い。腕が太い。足が太い。


 筋肉で太いのだ。分厚いのだ。大きいのだ。硬いのだ。


 質量があるのだ。


 筋肉の質量が、強さの質量があるのだ。


 見るからに、人を殴り殺すのに長けた、男盛りの野太い男であった。



「牙真流空手の、山垣達介だな」


 その前に、立ちはだかる男がいた。まだ年若い、目方は、今そう読んだ相手の三分の二を少し超えたほどか。


「十八般流だ。……仇討ちに来た」

「ほう。十八般流」


 山垣達介には、その名に覚えがあった。十八般流武術。武芸十八般、柔術に武器術までを伝えるとの流儀。


 ……男が武術で立ち合い殺した相手の流派であった。


「いいぜ。……前の時は、何処が十八般だか分からなかったからな。唯の柔術との違い、今度こそ見せてくれるのかい」


 花火の音と光が人の耳目を奪っている。この騒ぎは後しばらく続く。そして、夜の河川敷、橋下。


 邪魔の入る気配は無かった。


 山垣達介は獣のように笑った。


 十八般流の若者は、氷のような無表情で告げた。


「ああ、見せてやる。これが十八般流」



 どんどんどんどん!ぱんぱんぱん!



「……砲術だ」



 花火の音と光と火薬の匂いに紛れて、橋に仕掛けられていた何丁もの仕掛け火縄銃・抱え大筒が、山垣達介を蜂の巣にして殺した。避ける余地の無い十字砲火であった。


 武芸十八般。数え方には諸説があるが、その中には、砲術が含まれている。



 鍛えた筋肉を、鉛玉は容易く貫通する。歴史に証明されたとおり、山垣達介は至極あっさりと死んだ。



 無論、十八般流の男も、後日逮捕された。



 物語の約束が崩れた、現実の武等かくの如しであった。

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