第2話 承
アスファルトのじっとりとした熱を感じながら、僕は必死に千咲を走って追いかけた。
初めは早足だった千咲も、僕が近づくにつれてだんだんと早く遠ざかるようになり、早足から駆け足に、駆け足から全力疾走に変わった。
肺が痛い。心臓が悲鳴をあげている。
千咲の艶やかなポニーテールが風に煽られて上下にたなびく。中学校からずっと陸上部に所属していた彼女の足はついていけないくらい速い。
「待って!」
さらにスピードを上げて僕を突き放そうとする千咲を僕は大声で呼び止める。
千咲はすぐに足を止めて、僕の方を感情の伴わない瞳で見つめる。
乱れた心臓と息を整えながら、僕は千咲の目を見て口を開いた。
「あの__」
その時だった。
凄まじい絶叫が、悲鳴が、怒声が聞こえたかと思うと、千咲の感情の伴わない瞳に、焦りと驚愕が浮かんだ。
そして、彼女は手を伸ばすと、僕を真後ろに突き飛ばした。
「うわぁ?!」
ありえないくらい情けない声が漏れて、無様に尻餅をつく。
その瞬間。
ガガガガガガガガ!
ゴシャッッ!!
金属の擦れ合う、凄まじい轟音。
数秒遅れてから、僕は、目の前のそれを認識した。
自動車だ。黒色の。
自動車が、歩道に突っ込んで来たのだ。彼女を巻き込んで。
歩道の人間を守ることのできなかった、ひしゃげたガードレール。ばらばらに砕けた、車のフロントガラス。
嘘だ。
視線を、下に向ける。
ありえない方向に曲がった、千咲の足。アスファルトを濡らす、真っ赤な液体。
嘘だ。嘘だ。
周りの制止を無視して、彼女に駆け寄る。
まだ体温を残した、千咲の体。……痛みを訴える悲鳴も、助けを求める声も、あげない、彼女。
嘘だ嘘だ嘘だ!!
事実を認識したくない脳とは裏腹に、本能はそれを理解していた。
千咲が、死んでしまったことを。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
僕は、絶叫した
周りの悲鳴と僕の声が、やたらと耳に残る。
心が、ぽっかりと大穴の空いてしまった心が、完全に砕け散った。
____気がつくと、僕は駅の前の噴水のそばに、立っていた。
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