第41話 コタンタン町.2
買い物を満喫して船に戻ると甲板で食事の準備をしていた
夕日を見ながらの夕食との趣向である
甲板では焚火台に焚火が焚かれている
海面に炎が映りこみユラユラとオレンジ色の波が漂う
夕日が空を茜色に染める
なかなか粋な事をするものだと感心する
テーブルには見知らぬおっさんが3人ほど座っていた
邪魔してはいけないと会釈をして船室に向かうとする
「待ちたまえ、こちらに」
カール王子が俺達を呼ぶ
アン王女の隣に座るマイケルがニヤリと笑うのが見える
俺はアリサさんを見る
アリサさんは俺を見る
「えっ?私?」
人差し指で自分を指して驚くアリサさん
「いや、マサト君ですよ」
カール王子が笑う
アリサさんに笑顔で見送られてカール王子の下に向かう
アン王女の後ろ、うり坊を抱いた執事の隣に並ぶとする
「こちらに」
カール王子がテーブルの反対側のアン王女の向かいの席を指さす
見知らぬおっさんたちの後ろを回り込んで指定の席の後ろに立つ
「座りたまえ」
カール王子がナプキンで口元を拭いている
「いや、すいませんが」
カール王子にアン王女にマイケルに見知らぬおっさん3人である
見知らぬおっさん3人も身分が高そうなのでる、テーブルに着きたくないと思う
「構わない」
「彼らに話を聞かせて欲しい」
「さまよえる幽霊船の話だ」
カール王子は遠慮していると思ったのだろう、嫌なのであるのだが
「はい、失礼します」
仕方がないので座るとする
座るとすぐに紅茶が置かれる、気の利いたメイド娘である
貿易会館の爺さんに聞いた話をするとする
「有名な噂なのではないのですか?」
俺は噂を聞いたのだがと考える
「いや、さまよえる幽霊船の話は知っているのだが」
「この町に入港したとの噂は聞いていなかった」
黒髪に白髪の入ったダンディ髭の紳士が話す、この町の名主と紹介された
「うちの若い連中から幽霊船を見たとの報告は受けていたのじゃが」
「さまよえる幽霊船とまでは認識していなかったようじゃ」
勲章の付いた軍服に頭の禿げあがった爺さんである、海軍の提督だそうだ
白く長いアゴ髭をいじっている
「港に怪しい幽霊船が停泊しているのを見たとの話は聞いてはいる」
獅子の顔にオレンジのタテガミ、ライオンの獣人族の着ぐるみ系である
冒険者ギルド支部長と紹介された
「そうか、では生贄が必要って事だな」
ライオンが呟く
「レオン、言い方がよろしくない」
ライオンを紳士の名主がたしなめる
「しかし、本当の事じゃな」
提督の爺さんも口が悪そうである
しばしの沈黙である
カール王子は黙ってお茶を飲んでいる
アン王女は暇なのだろう、ソワソワしている
マイケルはお菓子のお代わりをメイド娘に催促である
レオンは腕を組んで考え中のようである
紳士の名主はお菓子をつまんでお茶をすする
提督のじいさんはコックリコックリしている
「お前ら考えてんのか?」
レオンが周りを見て口を開く
「この町に不要な乙女は居ないものでね」
紳士の名主がティーカップを静かに置く
「ん?うむ、海軍にもおらんな」
提督の爺さんも目を覚ましたようである
「しかし、冒険者ギルドには居るようじゃな?」
提督の爺さんの目の奥が光る
テンプレとはいえ、たまには要職についている平凡な爺も見てみたいものである
「いるとは言えないが」
「条件次第で要求を呑むかもしれない奴ならいる」
レオンが腕を組んで考え込む
「条件とは?」
「そこまで悩むのなら金ではないのだろ?」
紳士の名主が問いかける
「ああ、魔熊の討伐だ」
ライオンが説明する
魔の森の近くの冒険者村に1か月前に魔熊が現れたと
魔熊に襲われた2つの冒険者村が壊滅したと
雷を纏ったランクCの熊であると
襲われた最初の村の出身の冒険者の娘だという
村の仇であり、両親と弟の仇であるという
冒険者ギルドとしても依頼を出してはいるがそれ以上はできないと
この町の冒険者をかき集めても勝てないだろうと話す
話を聞いてみな黙る
「勝てないのならダメだろう}
紳士の名主が呆れたようにいう
「冒険者だけならダメなのじゃろ?」
「お前さんは」
「海兵と王子の騎士団と町の自警団も含めれば勝てると言いたいのじゃろ?」
提督の爺さんが付けたす
「ああ、しかし…だいぶ死ぬぞ」
「生娘を1人調達する為にそこまでできないだろ?」
ライオンが再び考え込む
みな黙り込む
「マサト君、何かないかな」
カール王子がこちらをチラリとみる
「いやいや、無いでしょ?」
「何処からだろうと生贄を選ぶのは嫌ですからね」
「どうせ討伐しなければならないなら魔熊の案ですが」
「結局、生贄ですよね?」
おれはカール王子と別れて陸路で王都を目指せばいいわけで
無理にかかわる必要がない気がする
「結局は生贄じゃが、自ら進んでなる生贄じゃな」
提督の爺さんが呟く
「しかし、討伐に犠牲者が出るぞ?」
ライオンが低い声を漏らす
「自ら町の為に犠牲になって貰うのならば」
「この町にいる者も同様に犠牲になる覚悟が必要なのかもしれませんね」
紳士の名主が呟き、自ら頷いている
どうやら決定のようである
カール王子は黙ってお茶を飲んでいるだけである
貨物室に戻り先ほどの話をする
「魔熊の討伐で生贄の娘って、当然だけど彼女の事よね?」
アリサさんがアイリちゃんの髪をとかしながら話す
「流れではそうだよね」
調合の本を見ながら答える
「マサト様はどうするんですか?」
アリサさんに髪をとかされながらアイリちゃんが聞いてくる
「考えていないけど討伐に参加させられると思うよ」
美肌とか潤いとかお肌のケアが無いかとペラペラと調合の本をめくる
ふと、視線を感じる
顔をあげるとミリアちゃんが俺を見ている
じーっと見ている
「マサトさんは…何とか出来ないですか?」
ミリアちゃんが見ている
「うん」
「その」
「何か考えてみるよ」
「期待しないでね」
前向きに検討してみることにする
夜食はチーズづくしであった
カマンベールにポン・レヴェックにリヴァロにヌシャテルにブルサンである
リンゴ酒とリンゴのシードルとワインでいただくとする
しかし、幽霊船の除霊ってどうやればいいのかと考える
幽霊って何だろう?
いつものように3人に教育されたアリサさんは痙攣しつつ恍惚の表情で横たわる
アイリちゃんもピクピク体を震わせながら疲れたように眠る
ミリアちゃんは俺の腕を枕に俺を見ている
「彼女は生贄になる事を承諾すると思います」
「彼女は仇が討てるなら何でもすると思います」
「覚悟していると思います」
「でも、きっと…怖いんです」
ミリアちゃんが呟く
「うん、考えるよ」
俺は、ミリアちゃんを抱きしめる
ミリアちゃんは小さくうなずく
朝はアイリちゃんに起こされる
左手はお約束のモニュポヨン、アリサさんのモニュポヨン掛布団も健在である
アリサさんをどかして共同浴場に向かうとする
中央広場の南側の一角に共同浴場がある
太い柱がグルっと建物を囲む神殿調の建物に三角屋根全て白い石造りである
脱衣所で裸になり荷物と引き換えに番号札を貰う
体を洗い湯船に浸かる
が
大混雑である
早々に出ることにする
公衆浴場の前でフルーツ果汁入りミルクを正しい作法でグイっと行く
見渡すと人人人人で人だらけである
ミリアちゃん達と合流して教会に向かう
中央広場の共同浴場の隣に石造り4階建て相当の教会
三角屋根の鐘楼に3つの鐘、教会には治療院も併設されている
礼拝堂には2列の長椅子が並べられている
教会も人だらけである
礼拝堂から離れて治療院を抜けて裏庭に出ると小さな小屋が有る
やはり孤児院は有るのだなと思う
こちらの孤児院は人も獣人も一緒のようである
礼拝堂に戻ってから、みなで朝市に向かう
朝市は中央広場に開かれている
簡素な店舗に荷車や露店を広げる者もいる
しかし品物が少ない
買い漁られた後なのだろうと考える
それでは船に戻ってデサジューノである
クロワッサンにデニッシュにミルクコーヒーをいただく
今日は2食目のメリエンダ・メディアのボカディージョも一緒にいただく
食後にアリサ観光ツアーである
軍港の先の岬に要塞化された砦がある
その砦にさらに7階建て相当の灯台が立っている、下から見たら10階相当である
アリサさんが交渉して要塞内を通り灯台まで案内してもらう
カール王子様様である
更には灯台の最上部まで案内してもらう
太陽が輝き何処までも続く水平線である
視界全てが海と空である
360度見渡す限り平らである
雲が奥行きを感じさせてくれる
この世界も丸いんだなとあらためて思う
絶景である
灯台を降りると案内人が交代した
案内人に連れられて砦の上を歩く
砲台を巡り海を挟んだ国との戦争の歴史を話してくれる
蛮族の襲来の歴史も話してくれる、歴史の勉強である
異世界で史跡めぐりのガイドされるとか予想しなかったのでなかなか楽しい
砦の中に入り順路も終わり出口に出るかと思っていたのだが
出口にならずに提督の爺さんの部屋に案内された
「楽しかったかね?」
提督の爺さんが聞いてくる
「はい、許可していただき有難うございます」
アリサさんがいち早く答える
「そうかそうか」
「そいつはよかった」
ニコニコの提督の爺さんである
「座ってお茶にするが良い」
ソファーを指し示す
「失礼します」
軍服を着た青年がお茶とお菓子を持ってくる
カップとお皿をカチャカチャカチャとテーブルの上に置く
「失礼しました」
軍服の青年は扉から出て行く
「遠慮せんでもいい」
提督の爺さんが食べるように促す
「では、遠慮なくいただきます」
アリサさんがソファーに座りお茶をいただく
ミリアちゃんとアイリちゃんもソファーに座る
「マサト君と言ったかね?」
「どうしたのかな?」
提督の爺さんが俺を見る
「御用は何でしょう?」
提督の部屋を眺めながら質問する
提督の爺さんは大きな机の向こうに座っている
ソファーは大きな机の手前にある、一人用が2つと長めのソファーが1つである
長めのソファーにミリアちゃんとアイリちゃんとアリサさんが座っている
壁には幾つものメダルと戦艦の絵が飾られている
全長1メートルの帆船の模型も飾られている精巧なモデルである
「特に用などありはせんよ」
「ちょっと話をしてみたかったんじゃ」
「カール王子と親し気であったのでな」
ジロリとひとにらみされるのである
とりあえず大イノシシからの話をダイジェストでするとする
「ほう、アン王女のツテかね」
アゴ髭を触りながらほっほっほっである
「ツテという程のモノでもないですね」
「報酬の一環で同行中です」
ヤレヤレである
「ふむふむ、報酬目当てかね?」
提督の爺さんが聞いてくる
「当然ですね、はやく大金を貰って引き上げたいくらいです」
ジェスチャーを入れてお道化て見せる
ココからも早く引き上げたいです、はい
「普通は、そうであるのだろうよ」
アゴ髭をいじりつつ俺を見る
「何か?」
何を言いたいのかわからない
お金が欲しい、報酬目的以外に何が在るのだろうかと
「普通の相手では金銭の報酬は当然じゃな」
「しかしの」
「カール王子を相手にはちと足りないじゃろ?」
「ほれ、王族じゃぞ?」
「普通は爵位か仕官を望むものじゃろ?」
提督の爺さんがげっへっへっと笑う
トカゲかよと
つか、そこまで邪推するのかと
「はあ」
「もしかしたらですが、そう思わない者も世の中には居るのかもしれません」
「一人くらいは、ですが」
半分呆れるのである
見てる分には良いけど人を見透かそうとするキャラって嫌だよね
「確かにな、居ない事は無いじゃろう」
ほっほっほっほっである
「もう、いいですかね?」
嫌そうな顔で聞いてみる
「そうじゃな」
「次回はお嬢ちゃん方とお話をしてみたいのう」
ほっほっほっほっである
「では、失礼します」
「皆行くよ」
扉に向かうのである
3人は提督の爺さんにお礼を言って退室する
砦を出て港を歩く
気が付いたのだが漁船が出れないのだから漁の水揚げも無いのである
港に停泊したままの漁船を見て事の深刻さを感じる
貿易船も出航できずに留まっている
腐る物は下ろして売るのだろう荷下ろしの光景も見える
港を並ぶ船を見ると他人ごとではない事に感じてくる
港のサロンで一休みする
朝にメリエンダ・メディアを済ましたつもりだったのだがキニシナイ
一口サイズの野菜のガレットを紅茶でいただく
しかし、幽霊船をどうするか思いつかない幽霊は聖職者の領域だと思う
ターンアンデットなんてどうやるのかと
思い浮かばない
1階のカウンターの噂の爺さんを探したが”close”の札が掛かっていた
ミリアちゃんがずっと気にしているようなので冒険者ギルドに向かう
冒険者ギルドは多くの人が集まっていた
エリックが居たので聞いてみる
「これは?」
エリックの正面にまわり声を掛けてみる
「ん?あんたか」
つまらなそうに俺を見る
「この騒ぎは何です?」
もう一度聞いてみる
「ああ、魔熊の討伐の招集が掛けられたんだよ」
「この町にいる冒険者は新人も含めて強制参加だ」
「あんた達も来て早々ついてないな」
エリックは疲れたように話す
「これから討伐に行くの?」
エリックに質問する
「そんな訳ないだろ、7日後の早朝からだよ」
「詳しい事はカウンターに聞きな」
「俺はもういくよ」
エリックは人波から外れて仲間と合流する
アリサさんとアイリちゃんが冒険者ギルドとは反対側の建物の傍にいた
ミリアちゃんが居ない
しばらくするとミリアちゃんが告知を読みながら戻ってくる
カウンターで配っていた告知だそうだ
”魔熊討伐緊急招集”
7日後の早朝から魔熊の討伐部隊の編制すると
冒険者ギルドに所属の者は強制参加とと
報酬は討伐後に金貨1枚が支払われると
討伐に貢献したものは報奨金もでると
カール王子も協力する王国との合同作戦であると
騎士団と海兵と町の自警団も参加すると
書いてある
ミリアちゃんは食い入るように見ている、やる気十分である
冒険者ギルドの窓の向こう
レオンに向かってしきりに頭を下げている深紅の女性が見える
笑顔のように見える
了承したのかと
そうだよな、と納得するが納得できない気持ちがある
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