第39話 モルレー城.2


準備が整い全軍隠れて森に林に岩陰に、川の中に海の中に待機する


バランムの情報により、本当に酔いつぶれていることがわかった


ならば、突入である



モルレー城は半分海にせり出したような外観の要塞である


高く厚い城壁は海からの砲撃に耐えられるように作られている


城壁の上には砲台もあり海からの侵入を阻む


陸からの入り口は鉄柵のある城門のみである、堅牢なたたずまいの要塞


なんで落とされたのか不思議である



馬車を走らせ開いている城門から突入するベドラの部隊


クマにサイにゾウにゴリラにワニにバッファローなどなどベドラの部隊は重量級である


馬車を下りて城内に突入する


酔いつぶれている兵士を蹂躙する、酔いつぶれていなくても踏みつぶしていく



ラヴァルの部隊は風の様に走る、辛うじて起きていた哨戒任務の兵士を切り裂く


オオカミにライオンにキツネにウマにシカになどなどラヴァルの部隊は機動力重視である


酔いつぶれて寝ている者も容赦なく切り裂いていく



バランムの部隊は暗躍し姿を隠し敵を殺す、起きていても寝ていても殺す


トカゲにワシにネズミにネコにイヌにサルにヒツジなどなどバランムの部隊は軽量級である


隠れてかわして暗躍して活躍する、船に残っている敵も見つけ出し殺す



馬車から下ろした食料とワインを拡張ポーチで回収してから城に向かう


城の外は死屍累々、城の中も死屍累々そして係留されている船の外も中も死屍累々


負傷者は俺とアリサさんで回復していく


ミリアちゃんはアリサさんの護衛、アイリちゃんが俺の護衛である



俺の後ろを付いて城をのぼって行くアン王女とマイケルとフェイさんである


こんな残酷シーンをアン王女に見せていいかフェイさんに聞いたのだが


アン王女がいいといったのでOKらしい



モルレー城は城と言っても要塞である、王座が有るわけではない


しかし、偉い奴はだいたい高い所に居るものである


最上階の良さげな部屋に勲章が沢山付いた軍服がつぶれていた



「たいしたことはなかったな、押したら潰れちまった」


ベドラが高笑いである



「マサト様。あそこに」


クンクンしてアイリちゃんが指さす



「ベドラさん、あそこだって」


ベラムを突いて呼ぶ



「ん?おらよっ」


体の背面から壁に激突する、嫌な音がした



紋章の旗と壁の隙間に隠れていた何かは壁の一部となった


クマが鉄山靠かよと



「捕虜とかいらないものなの?」



「いらねえだろ?」


キョトンとした顔で答えるベドラである



アン王女はチョロチョロ走り回っている、マイケルが付いていく


フェイさんはいまだに俺を睨んでいる



「ありえない」


「こんなことはあり得ない」


「おかしいだろ、戦争しているのに蔵の酒飲んで寝ているだと?」


「ありえない、絶対にありえない」


信じられないと呟き、俺を睨む



「でも、そうなんだから仕方がないです」


「現実を受け入れましょう」



死者重傷者無しの軽症者のみの完全勝利である


敵とはいえ死者を埋葬する、司祭が居ないので後日に冥福を祈るとする


蘇生や死霊化しないように焼くようである


やはり死霊化が有るのかとちょっと驚いた


船は拡張ポーチに1つしまって後は沈めます、もったいないけど沈めます


城内に敵兵が残っていないかの捜索と埋葬を部隊ごとに交代で行う


蔵にポーチから食料とワインを出して傭兵部隊に振舞うとする


敵の二の舞は嫌だから、酒量は管理します



旗がないので馬車の幌に描かれていた紋章を城に掲げる



さて、勝利のお祭りが始まります



城の中庭でベドラの部隊が大騒ぎである


樽のままワインを飲み干し肉にかぶりつく、勝利に酔っている


ラヴァルの部隊は節度を持ち食事とワインで勝利を祝う


バランムの部隊は可哀そうに交代で食事を取ってから見張りである



「それで、敵の後続はどうするつもりだ?」


ラヴァルが聞いてくる



「後続だろうが増援だろうが倒せばいい」


ベドラが吠える



「来るとしたら海だが、こちらは海戦はできない」


バランムが頭を掻いている



「モルレー城が奪い返されたとわかる様に紋章を掲げて船を沈めたから」


「引き上げてくれることを祈るしかないかな?」


おれも食事をしながら話す



いちおう軍議である


城の中庭で焚火を囲んで食事をしながら話している


フェイさんは俺を睨みながら食事している、まだ信用してない


俺の後ろではミリアちゃん達が焚火を囲んでいる



「モルレー城を奪還したことはすでにバランムさんの部隊が報告に走っている」


「でも、俺達が馬と馬車と食事を全部持ってきてるからね」


「後続の部隊がいつ来るかわからない、それまで籠城戦になるかも?」



「俺達は海での戦いは出来ないからな」


ラヴァルがワインをあおる



「きたら殺る、それでいいじゃねーか」


ベドラもワインをあおる



「範囲を広げて見張り立てたほうがいいな」


バランムがワインを舐める



「じゃー頼むぜ」


ラヴァルがニヤリとする



「ああ、頼んだぜ」


ベドラもニヤリとする



「くそっ、言うんじゃなかったぜ」


バランム立ち上がり自分の部隊にの方に向かって歩いていく



「まあ、来るとしても早朝だろう」


ラヴァルが呟く



「ああ、日が昇る前だろうな」


ベドラが嬉しそうである



「それじゃ、それくらいで全部隊準備で」


尻馬に乗ることにする



「簡単に言いやがる」


ラヴァルが笑う



「いいじゃねーか、グダグダ五月蠅い奴よりはいい」


ベドラが高笑いです



「なんだなんだ、楽しそうだな」


バランムが戻ってきてワインを舐める



「夜明け前に戦闘準備って話だ」


ラヴァルが説明する



「念のためですよ、念のため」


「では、夜襲の警戒も忘れずに各部隊よろしくです」


「解散」


食器とマグカップを持って立ち上がる




焚火を中心にミリアちゃんとアリサさんが並んで座って話をしている


その向かいにアイリちゃんとアン王女とマイケルが並んで座って食事している


傭兵団の獣人がアイリちゃんに声を掛けて肉を渡しているのを見かけた



「アイリ、まさかナンパ?」


アイリちゃんに聞く



「いえ、もっと食べて筋肉つけろと言われました」


恥ずかしそうに話すアイリちゃん



「そうなんだ」


「あと、知り合いの人が居たら気にせずに話に行ってもいいからね」


「夜明け前に敵の援軍が来るかもしれにからそれだけ注意してね」



「はい、ありがとうです」


「ではいってきます」


アイリちゃんは嬉しそうに立ち上がって出かけて行く


入れ替わりにフェイさんがアン王女の隣に座る



俺はミリアちゃんの隣に座ると反対側にアリサさんがやってくる



「なんの話だったの?」


アリサさんが聞いてくる



「相手の後続が到着するとしたら早ければ今日の日中だったと思うんですよ」


「でも、来なかったわけで」


「来なかった理由が”後続がまだ到着していない”とか」


「”城が取り戻された事に気が付いて引き返した”なら問題が無いのですが」


「再度城を攻めてくるタイミングを見ていたら嫌じゃないですか」


「で、来るとしたら夜明け前だろうと話になりまして」


「夜襲を警戒しつつ、夜明け前の戦闘の準備をするとなったわけです」


「こっちの後続はいつ来るかもわかりませんからね」


アリサさんに説明する



「そうねの、今日はゆっくり寝れないのね」


残念そうなアリサさんです



「いや、何かあったら起こしてくれるでしょ」


「部屋で寝てていいと思うよ」


お茶をすすりながら答える



アイリちゃんはと見ると獣人の方々と楽し気に会話していた


両親を知っている人がいればいいのだがと思う




夜明け前にアイリちゃんに起こされる


左手はお約束のモニュポヨン、しばし堪能してからモニュポヨン掛布団をどかす


アリサさんは幸せそうな寝顔である


ミリアちゃんとアイリちゃんは既に装備を整えている


燻製肉とライ麦パンとワインがテーブルに並んでいる


魔導コンロを出して燻製肉のスライスを焼く


ライ麦パンもスライスして燻製肉を乗せる、ポーチからレタスとチーズも出す


やかんを火にかけて煮出し茶を温める、リンゴとオレンジも出しておく


朝食を食べているとアリサさんも起き出して、支度をする


恥ずかしそうな顔でこちらをチラチラ見ながら毛布に包まってゴソゴソしている



アイリちゃんの耳がピクピク動いてクンクンしている


城内が騒がしくなる


扉がバタンと開きバランムが顔を出す



「船影だ、12はある」


バランムが告げる



「了解です」


バランムの後ろに付いて城壁にあがる



城壁にはラヴァルとベドラがすでにいた


日も明けきっていないのでよくは見えないが船の影のようなものが見える


しかし遠い、水平線の船なぞよく見えない


コスプレ系鳥人族が状況を教えてくれる



「船影は12だね、大型の船が2中型が4小型が6だね」


この暗さで見えるからフクロウなのかもしれない



「兵士を下ろさないで船体さらすとは、舐められてるな」


ラヴァルが呟く



「こっちには船がねーからな」


「降りて来たら皆殺しにしてやる」


ベドラが喉を鳴らす



「どうする?」


バランムが聞いてくる



「船の接岸地点に陣を張ったら大砲で撃たれるでしょ?」


「城内に居るしかないでしょ」


「ところで大砲撃てる人居る?」


足元の大砲を眺める



「うちには居ないな」


ラヴァルが答える



「俺んとこも居ねえよ」


ベドラが大砲に片足を乗せる



「大砲撃つには訓練が居るからな」


「いきなりできる奴なんていないぜ」


バランムは大砲の砲身を覗き込む



「なら、城の中で大人しくするしかないでしょ」


「いっそのこと城内で迎え撃てば大砲を気にしなくていいでしょ」


「ベドラの部隊が城内で迎え撃つ」


「ラヴァルの部隊は城の外から挟み撃ち」


「バランムの部隊は出来るなら回り込んで船の始末」


「出来ないならラヴァルに合流」


「戦闘は大砲の射程外か城壁の影で行う」


「あとの指揮はよろしく、な感じで」


いちおう提案しておく



「それでいいんじゃねえか?」


ラヴァルが賛同する



「ああ、いいだろう」


ベドラも賛同する



「まあ、やってみるよ」


バランムも賛同のようです



「それと、命大事には継続なので無理はしないように」


「ヤバそうなら城を放棄して全軍撤退です」


「城壁壊してでも逃げましょう」


「以上です」



「りょうかい」


ラヴァルが自分の部下に指示しに行く



「おうよ」


ベドラも城内に戻る



「わかったよ」


バランムは部下に指示を出してここに残る



「あんた変わってるな」


「命大事にとか逃げるとか言い出す奴はいままで居なかったぜ」


バランムが話しかけてくる



「んーおれ、軍人じゃないしね」


「指揮もやらさせているだけだから」


「それに誰も死にたくないでしょ?」


船影を見ながら答える



「そうか、そうだな」


バランムが呟く



日も登り夜も白々と明けてくる、船影も次第に明らかになってくる


俺の目でも船の数が確認できるようになってきた


確かに12隻の船が見える


大きい船に中くらいの船に小さな船


小さな船は小さいとはいえそれなりの大きさであろう


大きな船は近くまで来たらどれほどの大きさになるのかと思う


大型船は何人ぐらい乗れるんだろうと考える



バランムが部下から報告を受けている



「どうやら心配は要らないようだ、味方の船だとさ」


バランムが安堵の声を漏らす



「この距離でわかるの?」


親指の爪ほどの大きさに見える船を睨み見る



「うちにはタカの鳥人族が居るからな」


バランムは自慢げに話す



「じゃー警戒は解除で迎え入れましょうか」


戦闘が無くてよかったよかった



桟橋に船が次々と係留される


大きな船は4本マストの60メートル級のキャラック船であった


兵士の輸送に使われているようである、船内から次々と兵士が現れる


中型の船は3本マストの30メートルから級のキャラック船


大砲が積んであり戦闘艦のようである、物資を下ろしている


小型の船は2本マストの20メートル級のキャラベル船である


船列の中にはカール王子のニーニャ号の姿も見える



アン王女とマイケルはフェイさんに連れられている


カール王子を出迎えの為に桟橋に向かっているようである


アン王女の足取りは重そうである



ベドラの部隊は戦闘が無くても食事にワインと忙しそうである


ラヴァルの部隊もブラブラと自由な感じである


バランムの部隊はいまだに警戒の為に走り回っている


入港の手伝いをしているのもバランムの部隊である


損な役回りである




勲章が沢山付いた軍服がつぶれていた最上階の良さげな部屋


カール王子と巻き毛軍服が並んでいる


カール王子に怒られたのであろうアン王女はしょぼーんな顔をしている


アン王女に抱かれたマイケルは知らん顔している


うり坊を抱いた執事も乗船していたようでアン王女の傍に立っている


フェイさんもカール王子に怒られたようで俺に逆恨みの視線を向けている



「マサト君、よくやってくれた」


「他に類を見ない素晴らしい功績だ」


「王家はこの功績に必ず酬いる事だろう」


カール王子はニッコニコである



「素晴らしい功績であった、私からも礼を言う」


巻き毛軍服も唸ってます



「傭兵部隊の功績が大きいです」


「獣人だからを言わず、人と同様に重く用すべきだと思います」


意見として伝えておく



「考えておこう」


巻き毛軍服が何やら睨んでくる



「では、指揮権を引き継いでマサト君は出発の準備をしてくれ」


「僕たちはこれから出航するよ」


カール王子が話す



「わかりました」


用も済んだし帰るのかなと考える



「では、以上だ」


カール王子の言葉で部屋に戻る



部屋に戻っても準備といえるほどの事もなく中庭に降りる


中庭には傭兵の部隊が整列していた


ラヴァルが全体に何やら指示しておりベドラが傍らに立っている


バランムの部隊は門の外で馬と馬車の準備をしている



「戻るんですか?」


ラヴァルに声を掛ける



「おお、これからガエルに戻る」


「褒賞は向こうでくれるってよ」


ラヴァルが話す



「ここで渡しゃーいいのにめんどくせえ」


ベドラが鼻を鳴らしている



「では、気おつけて」



「あんたらもな、楽しかったぜ」


ラヴァンが言う



「じゃあな、次は戦いを教えてやるよ」


ベドラが笑う



桟橋に向かう途中にバランムに声を掛ける


バランムは自分の部隊の指揮をして馬と馬車の準備をしている



「ご苦労さん。また何処かで」



「おう、また何処かでな」


バランムが右手を挙げて軽く手を振る



アイリちゃんも別れの挨拶をしている


獣人の輪の中にはチンピラ4人組の姿も見える


桟橋に向かう


ニーニャ号が見える


マイケルがマストに登っている、ロープを使って飛び移っている


その動きを甲板の上で手を伸ばして見ているアン王女の姿も見える


傍らにはうり坊を抱いた執事も立っている


フェイさんは桟橋に残っている、ギリギリまで乗りたくないようだ


アイリちゃんを待ちながら、桟橋から城の壁を眺める


何とかなって良かったと考える



後ろからカール王子に声を掛けられる



「マサト君、褒美の希望は有るかい?」


カール王子が笑顔で声を掛けてくる



「そろそろ開放してもらうのがいいかもしれませんね」


苦笑いである



「それは、無理だろう」


「功績を残したからね、諦めて付き合ってくれ」


カール王子が笑う



「実際の所、目的は何ですかね?」


聞いてみる



「目的?」


質問を返してくる



「ええ、自分らを連れ歩く目的です」


「無いですよね?」


「今回の城奪還の指揮の話もおかしいですよね?」


「何故なんですかね?」



「実は、僕にもわからないんだよね」


「ただ、何かが…違和感とでもいうのかな?」


「違うんだ、何かが君は違うんだ…それが気になるんだよね」


カール王子がお手上げのジェスチャーをする



「はあ、オチは辺境の田舎者だと思いますよ」


とりあえず濁しておく


転生者でスゥパァチート持ちだからね、そりゃ違うかと納得である


王族は魔法に秀でているとか、カール王子は特に魔法の才能が有るとか


関係あるのかもしれないとか考える



アイリちゃんも別れの挨拶が終わったようでこちらにやってきた


桟橋に向かいニーニャ号に乗り込む



さて、出航である






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