第38話 モルレー城.1
城壁の門を抜けると幾つかの建物が見える
領主の館は石造りの3階建ての青い屋根、こちらに見える窓はおよそ16窓であろうか
その他には兵舎であろう石造りの階建て緑の屋根の長方形の建物が2棟
他にも馬屋や納屋や倉庫のような建物まで見える
訓練場の様なグラウンドも見える、競技場ぐらいの広さであろうか
幾つかの団体が整列している、演習に出かけるのだろうか
海側の城壁には大砲が設置されている、撃ち下ろしに適した地形なのだろう
これは実用の要塞と言えるのではないかと思う
馬車は青い屋根の館の前に止まり、馬車の後ろに乗っていた男が扉を開けてくれる
ドアの開け閉め担当なのだろうか?
俺達を下ろすと扉を開けてくれた男を乗せて馬車は走り去っていく
館の扉の前まで行くと、自然に扉が開く
執事服の若者が招き入れてくれる
「いらっしゃいませ」
「ご案内いたしますのでこちらに」
イケメン執事を先頭に2階への階段を上る
中央の扉の前で止まりノックする
扉が開き白髪の執事が俺達を招き入れる
イケメン執事は一礼して扉の向こうに消える
中に入ると細長いテーブルの一番奥にカール王子が座っている
その手前にはアン王女、その横にはマイケルまで座っている
アン王女の向かいには金髪巻き毛の軍服の男が座っている
壁にはメイドが控え、うり坊を抱いた執事もいる
白髪の執事は巻き毛軍服の後ろに控える
「すわりたまえ」
カール王子が促す
テーブルのこちら側にはフェイさんが既に座っている
「ご招待ありがとうございます」
アリサさんが答えて俺達も着席する
堅苦しく息苦しい会食が進む、マイケルもおとなしい
食後のデザートになった辺りでカール王子が口を開く
「君たちにやって貰いたいことが有る」
「何なりとお申し付けください」
アリサさんが即答する
「うん、モルレー城を落としてもらいたい」
「え?城ですか?」
アリサさんが戸惑う
「そう、マサト君どうだろうか?」
「いや、無理でしょ」
即答である
巻き毛軍服とフェイさんがピクっと反応する
「失礼しました、無理です」
「いい」
「君達だけで城攻めをやらせるわけではない」
「説明はジャンの方から聞いてくれ」
「ジャン=セーケ=ヘールバールだ公爵の爵位を頂いている」
「昨日モルレー城がダートモール王国の兵によって落とされたと連絡があった」
「傭兵たちと協力して奪還してもらいたい」
「以上だ」
「正規の軍ないし兵ないし騎士団とかは?」
「ない、君達と傭兵団のみだ」
「敵の戦力は?」
「不明だ、少ないという事はないだろう」
「出発はいつの予定ですか?」
「今すぐだ」
「勝てる要素が見当たらないんですが?」
「それを勝つようにするのが君の仕事だ」
「はあ」
「必要なものが有るなら行ってくれ」
「大量の兵をください」
「無理だ」
「大砲と弾と火薬を有るだけください」
「無理だ」
「艦隊を有るだけ貸してください」
「無理だ」
「すっごい魔法の武器を貸してください」
「そんなものは、ない」
「じゃー有るだけの食料とワインをください」
「そんなものをどうするんだ?」
「包囲戦でもするつもりか?」
「戦力もわからんのに?」
「モルレー城は北側が海だぞ、海軍無くして包囲は出来ない」
「どうやって攻略するつもりなんだ?」
「説明できません」
「縛りがキツ過ぎです、何も出せないなら他を当たってください」
「俺は提案はしましたよ」
「いいじゃないか、食料とワインでやってくれるというんだ」
「やって貰おう」
カール王子が口を出してくる
「しかし、カール」
「ダメ元なんだろ?」
「そう言ってたじゃないか」
「やらせてみよう」
「よかろう、食料とワインは蔵を解放しよう好きなだけ持っていけ」
「部隊は揃えてある、すぐにでも出発したまえ」
「私も同行します」
ずっと睨んでいたフェイさんが立ち上がる
「お断りします」
答えると、フェイさんが凄い目で睨んできます
「こいつは信用できません、逃げる気です」
「食料とワインを持って寝返る気です」
フェイさんはバンバンとテーブルを叩く
「そうだな、お目付け役がいるな」
「同行を許そう」
巻き毛軍服が許可しやがる
城内のグラウンドに獣人が勢ぞろいである
傭兵部隊は3部隊120人の獣人族で構成されていた
着ぐるみ系とコスプレ系、男も女も混ぜこぜである
これだけの数をそろえると壮観である、怖いくらいである
当然だが壇上からの演説は辞退する
第一部隊が狼人族のラヴァルの部隊
第二部隊は熊人族のベドラの部隊
第三部隊が蜥蜴人族のバランムの部隊
顔見せもそこそこに最初の命令を伝える
ありったけの馬に馬車にありったけの食料とワインを積み込む
モルレー城へ行軍の開始である
馬車は丘を越え林を抜けて森を抜ける、モルレー城への街道を進む
傭兵団は隊列を組み馬車を走らせていく
俺達は領主の馬車で後ろから付いていく優雅なものです
さてさて、行軍中の馬車の中で軍議です
「始めまして、指揮を任されましたマサトです」
「ラヴァルだ作戦を聞きたい」
「ベドラだ、気に入らねえ作戦には参加する気はない」
「バランムだ、生きて帰れるのか?」
「誰も死なない作戦を考えるつもりですが」
「情報不足ですので先行の部隊に情報収集してもらいたいです」
「どなたかお願いできませんか?」
「うちの部隊の鼻の利く奴らを出そう」
ラヴァルが答える
「いや、情報ならうちだな」
「馬を幾つか借りる」
バランムがも答える
「バランムさん、もし見つかっても戦わないで逃げてくださいね」
「もし捕まっても情報は話して構わないです」
「いっそのこと寝返って貰っても構わないです」
「命を大事にいきましょう」
「ホントにいいのか?」
ラヴァルが聞いてくる
「情報収集で戦闘しても意味無いです」
「与える情報なんて傭兵が食料とワイン担いでやってくるだけですし」
「寝返りと言っておけばその場で殺されることは無いでしょう」
「命を大事にです」
「そいつは助かる、むやみに仲間を失いたくないからな」
バランムが笑う
「それで、作戦は?」
ベドラが俺を睨む
「情報が入らないとまだ決まらないです」
「では、これにて解散で」
ラヴァルとベドラとバランムが馬車から降りる
黙って聞いていたフェイさんが睨んでくる
「お前は真面目にやる気がないのか?」
「与えられた任務を遂行する意識がないのか?」
「真面目にやれ」
また、フェイさんのお説教です
うなずきながら、話を誤魔化して荷台の荷物の整理をしていると
マイケルと目が合う
「ウキ」
右手を上げて「よう」みたいな感じである
マイケルをどかすと奥からアン王女が出てくる
黙って右手を上げてマイケルの真似をする
「アン王女、来たらダメですよ」
アン王女を荷物の奥から持ち出す
「だってつまらないんですもの」
「わたしも行くわ、めいれいよ」
腰に手を当てて胸を張ります
「フェイさん」
1人で怒りを爆発させているフェイさんに声を掛けます
「なによ、だいたいあなたはm」
フェイさんの目の前にアン王女を置く
アン王女が無言で手をあげる
フェイさんの目が点になる
「では、後はお二人で話し合いください」
お辞儀をしてそそくさと馬車を下りる
端によって最後尾の領主の馬車を待つ
傭兵部隊の獣人が興味深げに俺を見ながら通り過ぎていく
馬車の反対側をあるくチンピラ4人組が見える
彼らも参加しているのかと
「マサト君どうするの?」
馬車に戻るとアリサさんが聞いてくる
「どうするも何もないでしょ」
「断れないんだし」
「じゃー食料とワインは?」
「何か作戦が有るんじゃないの?」
「いや、最悪はみんなで逃げるのに使おうかと」
「本気なの?」
「完全に俺達を使い捨てだからねえ」
「おれは城を攻める知識なんて無いし」
「傭兵の人達にいきなり好かれる魅力も無いからね」
「いきなり少数部隊を渡されて城なんか落とせるわけないでしょ?」
「俺の作戦は命を大事にだよ」
「傭兵たちも?」
「そう、傭兵たちも」
「同じ使い捨ての仲間だし」
「逃げるならみんなで逃げますよ」
「そのための全ての馬と馬車と食料ですよ」
「マサトさんらしいです」
ミリアちゃんが笑い出す
「ありがとうです」
アイリちゃんも嬉しそうです
とりあえず情報を待つことにしましょう
道の途中で夕食の準備で野営となる
この人数で野営できる広場なんか無いので天下の往来でそのまま休憩
戦時行動なので前からくる奴も後ろからくる奴も捕まえます
食事は持ってきた馬車から自由に取って食べるように言ったのだが
各部隊の指揮のもとに秩序ある夕食である
統率取れてるのね
食事を取りながら馬車で軍議を再開する
「先行の人達はどれくらいで到着します?」
「そうだな、そろそろ到着じゃないか?」
バランムが答える
「じゃーもしかしたら夜通し進んだら本隊も朝には到着する?」
「そうだな、城の兵が寝ているうちに仕掛けられるな」
ラヴァルが答える
「チャンスじゃねーか」
「まさかこんなに早く来るとは思ってねーだろ?」
ベドラが話す
「普通は援軍はどれくらいで到着するもんなの?」
聞いてみる
「おめーは何も知らねえんだな」
「編成から始めて武器防具に食料に野営用の準備など含めて出発に2日3日かかるな」
「さらに城攻めなら兵站持った後発が後ろから続いてくる」
「騎士団のなんぞ使ったら倍の日数は掛る」
「お前みたいなド素人は初めてだよ」
「着の身着のまま武器防具と食料だけ持って行軍なんか、傭兵でもやらねえ」
ベドラが笑い出す
「王子と領主に追い出されたんですよ」
「では、夜も進んで朝に先行の部隊に情報貰って考えよう」
「おいおい、行き当たりばったり過ぎるだろ」
「部隊の配置ぐらいは考えろよ」
ラヴァルが突っ込んでする
「そうはいっても君らの部隊が何が得意か知らないし」
「地形も知らないんですよね」
「俺の部隊は機動力重視だ、どんな敵も突破して見せる」
ラヴァルが自慢げに話す
「俺ん所は何でもぶち壊すぜ、俺達に壊せねえモノはねえ」
ベドラが負けずに吠える
「俺ん所はなんだ、情報とか暗殺とか支援とかか?」
バランムが疑問形ではなす
「なんだそりゃ?」
ベドラが笑う
「いや、ラヴァルとベドラん所と比べられたうちの利点なんかねえよ」
「弱小傭兵団の集まりだからな」
バランムがすねる
「すねるなよバランム、お前らにゃいつも助けられてる」
ラヴァルがフォローする
「じゃー最初にベドラが好きな位置に陣取る」
「次にラヴァルがいい感じの所に陣取る」
「最後にバランムがイケてる場所に陣取る」
「そんで情報きいてどうするか考えるのでどう?」
「どうって言われても何も変わってねえだろ」
「俺の邪魔しないのは良い心がけだがな」
ベドラが高笑い
「実際に命張るのは俺達だ、今までの様にやりゃいいのさ」
ラヴァルも笑い出す
「それじゃー俺んとこは先にでるぜ、状況に合わせるから連絡はいらねえ」
バランムは真面目である
「おねがいします」
「おう、頼んだぞ」
「あてにしてるぜ」
「バランムさん、言い忘れていたけどヤバそうなら全軍で逃げるよ」
「えっ?」
バランムが一瞬固まってラヴァルとベドラを見る
2人は何も言わない
「あいよ、そんときゃ上手く逃げるよ」
バランムが闇に消えて行く
「今のはマジなのか?」
ラヴァルが聞いてくる
「無駄に死ぬくらいなら逃げるでしょ?」
「馬と馬車と食料とワインは全部持ってきた、結構逃げれると思うよ」
「全軍でなのか?」
「お前達だけの方が逃げやすいぞ」
さらにラヴァルが聞いてくる
「どうせ逃げるならみんな一緒でしょ?」
「それに、どうなるかは明日にならないとわからない」
「ここで考えても仕方ないって」
「ちげえねえ」
ベドラが笑う
バランムの部隊が編成して先に出る
次にベドラの部隊が編制して進む
ラヴァルの部隊が馬車を担当して俺達と進む
夜通しの行軍である、ザッザッザッガラガラガラと進軍する
領主の馬車に乗り込んで見るとアン王女が座っていた
「なんでまだアン王女が居るのフェイさん?」
「これから夜間行軍して朝には戦闘ですよ?」
「馬あげますから早く帰ってください」
「そんなことを言って我々だけ返して逃げる気なんだろ?」
フェイさんが頑なに俺を信じようとしない
「そんなことしませんって」
「帰らないと戦闘に巻き込まれて危険ですよ?」
「ウキキキッキ」
マイケルが力こぶを作る
「マイケル、君は大丈夫なのは知ってるから」
「アン王女様、付てくるならどうなっても知りませんよ?」
「わたしは大丈夫よマイケルが居るから」
「それにずっと退屈だったから戻る気はないわ」
「戻るならフェイだけ戻りなさい」
アン王女は来る気満々です
「私は戻る気はありません」
「こいつを見張る必要があります」
フェイさんは腕を組んで頬を膨らましてプィッである
しかし俺はなんでこんなに嫌われているんだろう?
謎である
空がしらじらと開けてきたころにモルレー城が見えてきた
行軍が止まり先頭に呼ばれる
バランムがラヴァルとベドラと何やら話している
「バランムさんどうしたの?」
「まずい状況?」
「いやそれが、先行の連中と合流して話を聞いた所やつらぐっすり寝ているらしい」
バランムが困ったように話す
「そんな訳がねえだろ?」
ラヴァルが否定する
「罠だな」
「そいつは裏切ったんじゃねえのか?」
ベドラが聞いてくる
「俺もそう思ったんで別の奴に見に行かせてる」
「だからちょっと待ってくれ」
バランムは頭を抱える
「それで、最初の人は何て言ってたの?」
「それが奴らは蔵のワイン飲んで酔いつぶれて眠ってるって言ってんだ」
「本当ならまたとないチャンスだが、罠かもしれねえ」
バランムがお手上げのジェスチャーをする
「じゃー次の人達が戻ってきてホントなら突入してください」
「俺は馬車で先に城に向かってみます」
「おいおいそりゃあぶねえだろ?」
「罠なら殺されるぞ」
ラヴァルが止めてくる
「女の子ばかりの冒険者パーティで馬車に食料とワイン」
「大丈夫でsy」
「いや」
「やっぱりやめた」
「みなさんの後ろから付いていきます」
俺達がわざわざ危険を冒す必要はないな
「それが賢明だな」
ベドラが笑う
「じゃー突入するにしても馬車の荷台を下ろしてベドラの部隊が乗ってくれ」
「城まで一気に走って大暴れだ」
「ラヴァルの部隊は外から皆殺しで」
「バランムの部隊は良い感じによろしく」
「うちの扱い簡単だなおい」
バランムが不満を口にする
「いや、信頼の証ですよ」
「信じてます」
「おう、そうだぜお前らが居るから気楽に暴れられるってもんだ」
ベドラが笑う
「お前達の支援を当てにしてるぜ」
ラヴァルも笑う
「まあ、いいけどよ」
バランムも笑う
知らせが来るまで戦闘準備を整えて待機である
領主の馬車に戻るとする
御者台にはうり坊を抱いた執事が座っている
ミリアちゃんとアイリちゃんは武器と防具を装備して外に居た
アリサさんもローブに帽子の魔術師スタイルである
アン王女はマイケルを抱いてキャビンの中で座っている
キャビンの中にはフェイさんの姿も見える
「どうだったの?」
アリサさんが聞いてくる
「城内は酔いつぶれているとの報告でした」
「別の部隊が確認に言ってので戻り待ちです」
「酔いつぶれてるって、そんなことあるの?」
アリサさんがさらに聞いてくる
「普通は無いですよね、だから再確認です」
「酔いつぶれていたらラッキーなんですけどね」
「それで」
「戦闘になっても前には出ないでくださいね」
「俺とアリサさんは回復要員です」
「命は大事にです」
3人に念を押す
「わかったわ」
アリサさんはうふふと笑う
ミリアちゃんとアイリちゃんもうなずく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます