第35話 ガエル町.3


冒険者ギルドは町の大きさに比べて小さかった


ブレオテ町クラスの小さい役場である


商人ギルドの会館に間借りをする形である


冒険者は居ない、カウンターの中には2人程女性職員が暇そうにしている


奥の開いた扉からお茶をすする冒険者ギルド支部長の姿も見える


依頼掲示板にはドブ掃除や港の労働者の募集くらいしかなかった


この町の周辺にはダンジョンは無いようである


依頼も少ないので冒険者が寄り付かないのだろう


張り紙には他の町のダンジョン情報の他には傭兵募集位しかなかった



「何にもないですね」


アリサさんに話しかける



「そ、そうね」


アリサさんはモジモジとクネクネしている



なんとなく商人ギルドの方を見に行く


商人ギルドの掲示板は依頼票ではなく、売り買いの値段が並んでいる


絹に木綿に麻の値段、品質は全て上中下の3種類のようである


その他には香辛料に食材に鉱石に木材に皮などなど色々書かれている


変動相場制なのだろうと思う


商人も悪くないと思ったが、素材集めと売買が面倒なので止めることにする


手軽に素材が手に入るならぜひともやりたいものである


いや、コピーで良いのかと考える…万能である



カウンターを見ると木の格子が付いた窓の向こうに職員の姿が見える


いかにも経理な眼鏡の青年が座っている



「すいません、お話を聞いても?」


眼鏡の青年に話しかける



「はい、ご用は何でしょう?」


やはりイケメンである、眼鏡のイケメンでる



「ギルドについて教えてもらいたいです」



「商人ギルドに入会希望の方ですか?」



「検討中です」



「では、お待ちください」



しばらく品物の取引値掲示板を眺める


欲しいものを原価で買うだけでも得なんじゃないかと考える


アリサさんがそーっと腕を組んでくる



「うわっ、びっくりした」


ビクっと離れる



「あっ」


しょぼーんな顔をするアリサさん



アリサさんの腕を取って俺の腕に回す


アリサさんは嬉しそうに腕を組みおっぱいを押し付けてくる



「商人になるの?」


アリサさんが聞いてくる



「それも良いかなと」


「商人ギルドの説明次第だけどね」



「でも商人も大変よ?」


「馬車も船も維持費が掛かるし、店舗は高いわ」


「品物が思うように売れない事も多いらしいわよ」


「タニアさんとサーニャさんのお店と取引でもするつもりなの?」


アリサさんが聞いてくる



「それも良いけど、気楽に商売できないかと」


「甘い事考えてみたり」


笑ってみる



「あら、マサト君は私が養ってあげても良いのよ」


「うふふ」


肌が接していると強気だなアリサさん



「それも良いけど、そゆのは腰を落ち着けてからだね」


アリサさんの手をポンポンと叩く


アリサさんは嬉しそうに体をすり寄せてくる



しばらく待つとカウンター横の扉から女性職員が出てくる



「お待たせしました、こちらにどうぞ」


薄いオレンジの髪を編み込んでアップでまとめたお姉さん


アリサさんほどではないが艶やかな胸とお尻、バランスの取れた肢体である


お尻を見ていたらアリサさんに背中をつねられた



説明してもらった内容をまとめると


商人ギルドに登録には担保と会費が必要であるとの事だった


担保は商人ギルドのランクにより金額が決まっている


会費は年に一度、商人ギルドに収めるとの事である



会費は収める金額により、商人ギルドでのランクが変わるらしい


より多くの金額を納めたほうがランクが上がる


要するに商人ギルドのランクをお金で買うのだ



ランクが高いと商人ギルドからの優遇を得られやすいと話してくれた


品物を高く買ってくれたり


品物を安く売ってくれたり


馬車のレンタルや販売


冒険者ギルドへの護衛や労働者、品物の依頼の代理


教会への契約の代行、契約での司祭の出張


その他、色々と優遇を得られる



店舗と家も優遇の1つである


自由民は領内に家を持てないが、商人は町中に店舗と家を持てる


月々の賃料を商人ギルドに収める必要があるが、持てるのである


そして、豪商ともなれば貴族の様なくらしも夢ではないのである



しかし優遇が得られるからといって無理にランクを上げると後がつらい


一度上げたランクは下げられないのである


上げたランクの会費を翌年からも払い続けなければならない



払えなければ商人ギルドから除名される


取引を停止され、担保も取られる


信用を失うのである



売買については基本的には自由である


商人ギルドを通さなくても売買して構わない


しかし商人ギルドを通さない売買に商人ギルドは関与しない


問題が発生しても自己責任となる



しかし他の国からの品物は必ず商人ギルドを経由させなければならない


商人ギルドを経由しない他国の商品は密輸となり処罰されるのである


港なら船から下ろす前に、陸路なら国境に入る前に検閲が入る



今回は登録を見送ることにする、必要になったらで良いだろう




アリサさんと港を歩く


貿易船は大きい、4本マスト60メートル級キャラック船が並んでいる


木箱を船から下ろしている、魔法も使わずクレーンなど無い労働者の力のみでる


凄い光景である、強化魔法でも使っているのかと思うくらいである



貿易船の船着き場の向こうは漁港である


桟橋では漁を終えた漁船の水揚げが行われている


船内のいけすから獲れたてピッチピチの魚を水桶に移して運んでいる


魚市場が併設されているようで朝の買い物で賑わっている


市場を覗くと多種多様な魚が並んでいる


干物も欲しいかなと思う、干物にご飯に味噌汁と漬物…ヨダレが出てくる



漁港の奥は軍港となっているので兵士が居て立入禁止であった


遠くから見るだけでも大中小と3種類の艦船が見える


大砲を積んでいる船も幾つか見える、やはり戦闘艦はカッコイイ



湾内はあらゆる大きさのあらゆる種類の船が行きかう


そして空にはカモメ、陸には猫である



休憩にアリサさんチェックのサロンに入る


港にある貿易会館の一室である、重厚な木造の室内に本棚と椅子とテーブル


本棚に有るのは貿易関係の資料のようである


アリサさんはリング状のシュー菓子を注文していた


ふんわりシュー生地にアーモンド風味のバタークリームに粉砂糖とチョコソース


コーヒーを飲みながら美味しそうに食べている


見てたら食べたくなったので同じものを注文する、とっても美味しかった



食後には町の南側にある緑の回廊と呼ばれる場所を散歩する


入り口には石造りの教会がある


2階建て相当の三角屋根の聖堂と4階建て相当の尖がり帽子の鐘楼


門の上にはイスタリア教の紋章ではなく女神の像が埋め込まれている


イスタリア教とは別の教会は初めてある



「アリサさん、この教会は?」


アリサさんに聞いてみる



「さあ、古い教会のようですね」


「入り口の上に埋め込まれている女神を信仰する教会のようですね」


「人を探して聞いてみますか?」


アリサさんも知らないらしい



「そうだね、聞いてみようか」


アリサさんと教会に入っていく



教会の中はカラフルな礼拝堂だった


中央の祭壇に大きな女神像が置かれているその左右に小さな男神と女神の像もある


柱や壁に多種多様な色で着色された木や花の浮き彫り細工が刻まれている


窓も円や三角や四角が組み合わされた幾何学的な文様で色付けされている


掃除をしている下男の男が居たので話を聞いてみる



「こちらは海の神の神殿となります」


「男神は外海を、女神は内海を司どっていらっしゃいます」


「この土地の古来の神様ですが、今はほとんど知られていません」


片目片手片足の下男が説明してくれる


昔は海賊船の船員だったのかな?


お礼を言って祭壇に向かいお布施をする、この先の航海の安全を祈るとする



教会を出て海の方に足を向ける


小道を進むと道端には花が咲いている、ピンクに黄色に赤など小さな花である


崖からの展望、青い空に白い雲で青い海で白い波である


古い城砦や建物の跡や難破船の残骸などが見える、それなりに見ごたえがある


更に小道を進むと浅く広い川を渡る、広く低い手摺の無い木のの橋である


橋を渡った先は木の板の小道になっており原生林の中を歩く


木の小道の下は湿地帯になっており木にはツタが絡まり苔が生えている


光と影で緑が鮮やかに感じる、風に揺れる葉の音も水の流れる音も心地いい


木の小道を進んでいくと原生林を抜けて牧草地帯に入る


牧草地帯は小道沿いに高さが2メートルくらいの石が一定間隔で幾つも立っている


その石の向こうは家畜が放し飼いになっている


牛に馬にヒツジが見える、牧羊犬が走っている…のどかである



緑の回廊ぐるりと一周して町の南側に戻る


アリサさんのお勧めのお昼を食べに行くとする


海老にカキにホタテにムール貝にカメの手にウニにカニの海鮮尽くしである


カーリックバター炒めにパスタにサラダにバタークリームにワイン蒸しである


バゲットもいただき、ワインで流し込んで気分も良くなる



食事の後はショッピング


帽子屋に洋服屋に下着屋に鞄屋に靴屋をまわる、アリサさんが楽しそうにお買い物である


あまり買わないように注意したが高級店である、お金は大丈夫なのかと心配になった


宝石屋には入らないから大丈夫だと思いたい



買い物を終えて宿に戻るとミリアちゃんとモニカちゃんが戻っていた


アイリちゃんはまだのようである


帰ってきてから食事にしようと先に風呂に入る


浴場でマッタリして戻って来るが、アイリちゃんはいまだに戻ってこない


先に夕食をいただくことにする


夕食を食べてお茶を飲んで待っていてもアイリちゃんが帰って来ない



これは事件の予感である



「ちょっと孤児院まで迎えに行ってきます」


声を掛けてソファーから立ち上げる



「わたしも行きます」


ミリアちゃんも立ち上がる



「では、アリサさんとモニカちゃんはお留守番しててね」


孤児院に向かうとする



孤児院は暗く、既にお眠の時間なのかもしれない


裏に回って司祭の部屋に向かう


司祭の部屋の窓板から明かりが漏れている、まだ起きているのだろう


小枝を拾ってカンカンと窓板を叩く


窓板が開いて司祭が顔をだす



「あなたは」


「今そちらに行きます」


窓板が閉まる



司祭が表に出てくる


孤児院から少し離れて畑に行く



「あの、アイリがまだ帰ってきていなくて」


司祭に聞くが、知っているようには思えない



「アイリは昼過ぎには帰りましたが」


「もしかして事件とか事故に」


司祭は心配そうに話す、演技ではなさそうだ



「あの…司祭様」


くろぶち着ぐるみ系犬人族の少年、ケント君である



「ケント起きていたんですか、小屋に戻りなさい」


司祭がケント君を小屋に連れて行こうとする



「司祭さん、ケント君の話を聞きましょう」


小屋を見ると子供達がこちらを覗いている




小屋に入ってケント君から話を聞く


子供達からはミリアちゃんがお話を聞いている



「ノアお姉ちゃんが居ないんです」


「アイリお姉ちゃんとずっと内緒話していて遊んでくれなくて」


「お休みの時間になったら、ノアお姉ちゃんが出て行ったんです」


ケント君が話してくれる



「そうですか、ケント教えてくれてありがとう」


司祭さんがケント君と話している



「ケント君、何処に行ったかまでは知らないよね?」



「僕わかるよ」



「協力してもらっても?」


司祭さんに聞いてみる



「しかし、あまり夜に外に出すのは」


司祭さんが渋い顔をする



「アイリちゃんとノアちゃんを探すだけですから」


司祭さんにお願いする



「わかりました、では私も行きます」


司祭さんも行くと言い出す



ケント君がクンクンと先頭に夜の街を歩く


月明かりの中街灯も無い、こちらの人達は夜目が利くと驚いたものだが


しかし最近では俺も気にならなくなってきた、目が慣れたのだろうかと思う


ケント君は港の倉庫の建物に入っていく、干物倉庫である


こんな魚臭い所までニオイをたどれる凄さに改めて感心する



倉庫の隅の方で動く気配がする


ミリアちゃんが警戒して俺の前にでる


司祭さんはケント君を抱える



「マサト様、何でここに?」


暗がりの中からアイリちゃんの声がする



「アイリちゃん大丈夫?ノアちゃんも一緒なの?」


アイリちゃんに聞く



「はい、一緒です」


アイリちゃんが答える



暗がりの中進むと、窓から月明かりが差しこみ部屋が少し明るい


アイリちゃんと黒猫人族のノアちゃんとイケメンのにいちゃんがいた



「ノア、何をしているんですか?」


「その人はいったい誰なんです?」


司祭さんがノアちゃんに詰め寄ります



「司祭さん落ち着いてください」


「ここは不法侵入ですよね?」


「小屋に戻りませんか?」


司祭さんを落ち着かせる



「それが、マサト様」


「この人は内緒にしないといけないです」


「アルトンさんはこの国の人じゃないです」


アイリちゃんが説明に困っている



「その先は私から説明ささていただきます」


アルトンさんが話し出す



アルトンさんは薄い金髪に藍色の瞳の白い肌のイケメンである


今は薄汚れてボロを着ているがである



アルトンさんはノースウェセックス王国の騎士であると話す


ダートモール王国との戦闘で捕虜になってしまったと


ノースウェセックス王国は捕虜の交換はしないし身代金も支払わない


そしてダートモール王国には奴隷制度がないために連れてこられたと


奴隷として売られる為に


昨日の夜中に島から教会の霊安室に連れてこられたが隙を見て逃げたと


脱走したのは10人ほどだが自分以外は捕まってしまったと



「奴隷制度の無い国外の人を奴隷に出来るんですか?」


司祭さんに聞いてみる



「本人がサインをすれば可能です」


司祭さんが答える



「死ぬか奴隷になるかの選択しかなかったですがね」


「わたしは生きて必ず国に帰ります」


「その為には何でもするつもりです」


アルトンさんが睨む



「しかし、違法性は無いんですよね?」


「アルトンさん自身がが密輸品で事件とはならないですよね?」


司祭さんに聞いてみる



「そうですね、アルトンさんは捕虜となり連れてこられただけですから」


「密輸品でもあれば商人ギルドで話をして名主か領主の介入も期待できますが」


「私達では残念ながら力になれないでしょう」


「アルトンさんは一刻も早く町を出て逃げたほうだ良いと思います」


「奴隷契約前なら逃げてしまえば捕まえる手段もないでしょう」


「私達には無事に国に帰れるのを祈るしかできません」


司祭が辛そうに話す



「私が連れてこられてきた船には品物もありました、島に隠してあるはずです」


アルトンさんが話す



「別に彼らが捕まってもアルトンさんには利が無いかと思いますが?」



「彼らの不正が明るみに出れば、仲間の奴隷契約も無効になりますよね?」


「助けられるのであれば助けたいのです」


アルトンさんがじっと見つめる



アルトンさんを司祭さんに匿ってもらう事にした


アイリちゃんは孤児院に残ると言う



宿に戻りアリサさんに内容を伝える


明日にでも領主の所に行ってもらうつもりである


カール王子経由でなら話もすんなり通る事だろう



ミリアちゃんはモニカちゃんとタニアさんとサーニャさんの所に行ってもらう


商人ギルドの偉い人と食事ができる程のツテが有るなら利用できないかと


ミリアちゃんにお願いする



アリサさんは報酬の前払いがお気に召したようでとても満足げに横たわる


俺は喘ぎつかれ汗ばんだミリアちゃんを抱きしめながら眠りにつく






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