第22話 ローズバーグ.3


トーマス司祭とノーマさんと別れて町を歩く



結婚式は夜だと言っていた、成功するのだろうか?


成功してもしなくてもあの店はもう閉店だろうと


もうあのパスタは食べられなくなるのかと、残念である



さてさて、なるようになるでしょう冒険者ギルドに向かうとする




冒険者ギルドのカウンターはお昼休みの札が掛かっていた


冒険者も疎らで掲示板を見たり張り紙を見たり雑談していた


出直そうと入り口に向かうとルイーズさんが幼女の姿で入ってきた


手には買い出しに行っていたのであろうパンの入ったバスケットを持っていた



「あら?冒険者ギルドに御用なの?」


「丁度良いの、付いてくるの」


カウンターに入り奥の部屋に入っていく



「ソファーでくつろぐの」


「今お茶を入れるの」


魔導コンロを使ってやかんにお湯を沸かしてお茶置入れている


手慣れたものである



「失礼して食べながらお話しするの」


「今日は何の用なの?」


おれの前ににマグカップを置き、可愛らしいマグカップを片手にパンをかじっている



「魔物とかの図鑑とか有れば見せてもらえばと思いまして」


「ダンジョンについての詳しい情報とかもあればと」


お茶をすすりながら会話をする



「わかったの、後で案内させるの」


「特別なの、普通は見せないものなの」


「貴重な物なの、大切に扱ってほしいの」


モグモグとゴクゴクとしている



「ありがとうです」


「それで、丁度良かったというのは?」


恩を売っているつもりなのかと



「そうなの、あなた商人に目を付けられているの」


「数日前に町に来たキャラバンがあなたの情報を集めているの」


「ミリアのついでに集めている風を装っているけど確実なの」


「わたしと初めて会った広場のキャラバンなの」


「奴隷と魔法の武器の売買で揉めたの?」


モグモグとゴクゴクしながら聞いてくる



「いや、揉めてないですが」


「考えられるとしたら、魔法の武器の出所ですかね?」


他に思い当たらない



「もしかしたらなの」


「魔法の武器じゃなく魔法の鞄が目当てだと思うの」


「魔法の武器と防具はダンジョンの深い所で出るの」


「理由は解明されていないの」


「古代の遺物かダンジョンなら古代の技術だと思うの」


「長い間飲まれていた武器や防具が魔力を帯びたかしたのかもしれないの」


「そんな説もあるの」


「でも付加される魔法は4大魔法だけなの」


「何でも入る鞄なんて今まで存在しないの」


「あなたは気にしないで使いまくっていたの、私の前でも使っていたの」


「商人の狙いはそれかもしれないの」


「悪い商人からしたら殺してでも奪う価値のあるお宝なの」


「わたしの見立てでは盗賊を雇ったのはそのキャラバンなの」


「盗賊の頭目は逃がすことを条件にキャラバンの依頼だと証言したの」


「でも逃げる時に暴れたの」


「暴れないで復讐もしないとの約束は反故にされたの」


「だから証言も逃げるための嘘かもしれないの」


「真実は不明なの」


「でもキャラバンがあなたの情報を集めているのはホントなの」


「ミリアが目立っている間は一緒に居れば人の目があるから安全なの」


「気を付けるの、人目の少ないダンジョン内は特に気を付けるの」


「以上なの」


「遺言を書いておくといいの」


「マサト君が死んだら鞄をルイーズに譲ると書くといいの」


「…冗談なの」


一気にしゃべって最後にサラッと恐ろしいこと言ったぞ



ルイーズは素知らぬ顔で服に着いたパンくずを摘まんでいる



「そうでしたか、ありがとうございます」


「気を付けます」


笑えない、笑えない



「冗談は置いといてなの」


「鞄を借りたいの」


「とても興味があるの」


「研究してみたいの」


「伝説の空間魔法かもしれないの」


「あなたの師匠にもあってみたいの」


「でも旅には付いて行けないの」


「お願いなの」


「お願いなの」


両手を顔の前で組んで俺に祈りを捧げる幼女の姿なんだが


純粋さをまったく感じないのである



「キャラバンを何とかしてくれるなら、この町にいる間は貸す位はいいですが」


「あげませんよ、師匠に怒られるので」


黄色のポーチから鞄をだしてゴソゴソと中身を入れ替える



「もちろん、キャラバンはまかしてなの」


「鞄♪鞄♪」


手を伸ばして催促する



「ちゃんと返してくださいね」


黄色のポーチを渡して、鞄を肩にかける



「なんてことなの」


「そっちも魔法の鞄なの」


「幾つ持ってるの?」


「それならコッチは頂戴なの」


こっちの鞄にも気が付いたようである



「いやいや貸すだけですよ、あげません」


「ちゃんと返してもらいます」



「ケチなの」


黄色のポーチを大事そうに撫でながら、中を見てニヤニヤしている



「まあいいの、付いてくるの」


黄色のポーチの腰紐を肩から掛けて長さを調整しながら外に出る、嬉しそうである


職員の女性に話しかけて、書庫に案内してもらう



書庫は3畳くらいの空間で本棚と小さい机と椅子しかなかった


壁に置かれた本棚には動物図鑑に魔物図鑑に植物図鑑などなど置いてあった



肩掛け鞄の中の青色ポーチから水筒とマグカップを取り出して長期戦の構えである


順番に読んでいくことにしよう



読んでいて、本が欲しくなる


コピーできたらと考える


コピー


ニヤリである



目に付いた物はすべてコピーを作る



部屋を出るころには日も暮れかかっていた


ルイーズさんが大人の格好で胸元にフリルをふんだんに使った紫のドレスを着ていた


職員の女性に髪型や服装をチェックしてもらっている


しかし、その装いに黄色の紐の革のポーチは無いだろうと思う



「ポーチは預かりましょうか?」



「大丈夫よ、これは持っていたいの」


ルイーズさんはポーチを抱きしめる



「デートに邪魔でしょう?」


「明日の朝にでも持ってきますよ」



「大丈夫よ、今日は取引のある商店の娘さんの結婚式なのよ」


「仕事で参加するだけだから」



「カプレーティ商会の娘さんですか?」



「あら、知ってるの?」



「娘さんの方をですが」


「あー、ちょっと時間いいですか?」



「あら、何かしら?」


奥の部屋に入る




お昼のノーマさんの話をする



「あら、それは貸しになるんじゃないかしら?」


ポーチをナデナデしながらニッコリ嬉しそうである



「いえいえ、貸しているのはこちらですよ?」


「そもそも俺には関係ない話ですし、俺が問題にされることは何もありません」


「もし問題になったとしても、ポーチを返してもらって町を出ればいいだけです」」


「町を出なくていいように協力してもらえれば助かります」



「仕方ないわね、私は何もしないし何も知らないわ」


「これで良いでしょ?」


「それでは行くわね」


ポーチを肩にかけて颯爽と歩き出す



さてと帰って飯とするかな、ミリアちゃんとアイリちゃんが恋しいものである



宿屋「木工職人の魂亭」


宿に戻るとミリアちゃんとアイリちゃんがドレスを着せられていた


ミリアちゃんの胸には小さめのドレスに胸を無理やり入れようと頑張っている


苦戦する委員長と図書委員が部屋に居た



アイリちゃんはベルト付きハイウエストワンピースを着てクルクル回っている


よほど嬉しいのだろう、尻尾も高速で振られている


嬉しそうにニヘヘと笑うアイリちゃんをべた褒めしながらナデナデする



「アイリちゃん、もしかして結婚式に行くのかな」



「はい、レベッカさんのお姉さんの結婚式なんです」


「でも、なんでわかったんです?」


ナデナデされながら俺の方を振り向く



「何となくね」



ミリアちゃんの胸をドレスに押し込んで、委員長と図書委員は息切れしていた


胸はドレスに無理やり押し込まれ、表面張力に揺らぐ水みたいになってる


ストールで胸元を隠しているがつついたら飛び出してきそうである



「ミリアちゃんもアイリちゃんも凄く可愛いよ」



「ありがとうごさいます」


「ありがとうです」


2人ともテレテレで可愛いです



「マサトさん、行ってきてもいいですか?」


ミリアちゃんのお願いです、当然OKです



「もちろんいいけど…ハヤクカエッテキテネ」


結婚式は大荒れになるんだが、どうしようかと



アイリちゃんは首を傾げていたけど委員長と図書委員に引っ張られて出っていった




おれも中央広場の教会に向かうとしよう



教会は人だかりである、関係者はすでに中に入っており警備の騎士団も来ている


外は野次馬の人だかりであり委員長パーティの少年ABCDの姿も見える


治療院の方に回りトーマス司祭を呼んでもらう



「おや、マサトさん来てくれたんですか?」


トーマス司祭が緊張気味で出迎えてくれる



「ええ、まあ…心配になりまして」



「計画は誓いの時に」


ボソボソと耳もとで話す



「男の方は?」



「私の部屋です、みなが帰ったら霊安室に行きます」


「朝まで隠れて駅馬車に乗って町を出る計画です」



「なるほど」




パイプオルガンが鳴り響く


純白のドレスに金の刺繍、純白のレースのベールを纏い赤い絨毯を祭壇に進むノーマさん


エスコートの父親が祭壇の前でノーマさんを見送る


領主の3男の横に並ぶノーマさん、すでに覚悟を決めたのであろう瞳に躊躇いは無い


ロレンス司祭の神への言葉と結ばれる2人への説教も終わり、誓いの言葉へと続く


誓いの言葉が交わされるべき所でノーマさんは沈黙を貫く



静寂が流れる



領主の3男の顔は引きつり、会場はザワザワと騒がしくなる


突如ノーマさんがその場で崩れ落ち、礼拝堂に女性の悲鳴が響き渡る


警護に当たっていた騎士団が礼拝堂に雪崩込み中も外も騒然となる


ロレンス司祭はノーマさんの傍らに座り、治療魔法を詠唱している


トーマス司祭は騎士団と共に場の鎮静化に努めていた



ミリアちゃんとアイリちゃんと委員長と図書委員は騎士に促され外に連れ出される


ルイーズさんは祭壇に来ようとしていたが俺の姿を見つけて外に足を向ける



関係者は締め出され領主の3男は騎士団に連れられて何処かに行ってしまった


礼拝堂内にはロレンス司祭とトーマス司祭とノーマさんのお父さんが残る


おれは下男としてトーマス司祭の傍らに残る



父親は悲しんでいた、領主との親戚関係が築けなくなったことに


父親は悲しんでいた、この婚姻の為に使った金貨が無駄になったことに


父親は悲しんでいた、親不孝な娘を持ったことに


クズである



「あとは任せた」


この一言を残しノーマさんの父親は礼拝堂を出て行った、肩を落として



残ったのは司祭2人と下男の俺である…司祭2人が俺を見る


必然的に俺がノーマさんを運ぶ形になり、風魔法のフライを使う


霊安室に向かうとする




霊安室は治療院の地下にあり冷たく寒かった


霊安室には棺桶が幾つも並んでおりその一つにノーマさんを寝かせる


ココで帰ると勘違いした2人が自殺祭りを始めるので残る事にする


ロレンス司祭は礼拝堂に戻り、トーマス司祭がハワードを呼びに行く



結構な時間がたってからハワードはトーマス司祭さんに連れられてやってきた


霊安室に入るなり棺桶で寝ているノーマさんにすがりつく


ノーマさんが死んでいるとうろたえてる、泣きわめき叫ぶ


ノーマさんの死を憐れみ、自分の境遇を嘆く


自分も死ぬと叫びナイフを取り出して自殺を図ろうとする



(ショック)



ハワードに精神魔法のショックを使い気絶させる


ノーマさんから陰になる位置に転がし、両手両足を縛りさるぐつわを噛ませる


一連の作業を淡々とこなす


トーマスさんが呆けているので水筒からお茶を入れたマグカップを渡す


次はノーマさんが起きるのを待つばかりである


その間の暇つぶしに外の状況を聞く



「さきほど騎士団の聴取が終わって皆家に帰りました」


「領主の3男も名主の館に行きました」


「ここまでは順調です」


トーマス司祭はソワソワする



無理もない、若い二人の旅路だからね




錬金と調合の本を読み終わる頃にノーマさんが覚醒する


ゆっくりと瞼を開けて瞳だけを動かして周りを確認している



「気分はどうですか?」


トーマス司祭が声を掛ける



「はい…式は?」


頭を手で抑えながら上体を起こすノーマさん



「まずは飲んでください」


水筒からマグカップにお茶置入れてノーマさんに渡す



ノーマさんはカップを受け取りトーマス司祭の説明を聞いている



「ありがとうございました」


「それで、ハワードは?」


キョロキョロと恋人の姿を探すノーマさんである



「あっ、いま起こすのでお待ちください」


ノーマさんの陰に隠していたハワードの拘束を解く


顔をビビビッとひっぱたいて起こす


意識を取り戻したハワードがノーマノーマと泣き叫ぶ



「ノーマ、愛しのノーマ」



「ああ、ハワード私はココよ」



ノーマさんとハワード、熱い抱擁を交わす…恋人達の再会である


茶番を見ているようである




ロレンス司祭がやってきて夜が明けてた事を告げる


ノーマさんとハワードは2人の司祭に感謝の言葉を述べる


ロレンス司祭とトーマス司祭は2人への祝福と旅の安全を神に祈る


2人はロレンス司祭が持ってきた外套に身を包み荷物を受け取る


俺が流れで、駅馬車まで送ることになった



駅馬車は準備中である、馬を繋げて郵便物や飼料や水樽を積んでいる


乗客らしき人達もチラホラと集まってきた



その中にトーマス司祭がクレアさんとやって来るのが見える


ノーマさんとハワードには素知らぬ顔でクレアさんと会話している



「クレアさんもう平気ですか?」


「トーマス司祭も久しぶりです」


笑顔で挨拶です



「あんたは…駅馬車で」


そういえば面識はあまりなかった



「久しぶりですマサトさん」


「クレアも回復して今日一緒に出立します」


呼び捨てですよ、なるほど



ソワソワしてたのはこっちの理由かと



「そうですか、お幸せになってください」



「いや、あの…ありがとうです」


「いや…あたし達は」


照れるトーマス司祭とクレアさん


野暮は良くないと早々に離れる



ノーマさんとハワードは外套で顔を隠している、実に怪しい


顔を隠してイチャイチャしている2人に変わり切符を御者に見せてキャビンに乗せる


無事に2人を駅馬車に乗り込ませてこれで一安心です



ふと、両腕に柔らかい感覚


見るとミリアちゃんとアイリちゃんであった



「あれ?どうしたの?」


驚いて尋ねる



「どうしたのじゃないですよ」


「マサト様、見つけたです」


「部屋に戻ったらマサトさんいないし」


「いなかったです」


「すっごく探したんですよ」


「そうです、探したです」


「礼拝堂でニオイが途切れてるってアイリちゃんがいうし」


「教会で凄い事件が起きたんです」


「教会は立ち入り禁止になりましたし」


「教会に居た人はみんな事情を聞かれて大変だったんです」


「それでやっと帰って」


「いったい何処で何やってたんですか?」


激おこプンプンのミリアちゃんである


途中でアイリちゃんは馬車をジーっと見てクンクンしている



「いや、後でちゃんと話すよ」



「知ってるニオイの人が乗ってます」


馬車を指さすアイリちゃん



駅馬車が走り出す


窓の向こうで手を振るトーマス司祭とクレアさん


窓から顔を出して手を振るクレアさんとハワード


ミリアちゃんとアイリちゃんも気が付いて手を振り返す



「ありがとう!」


フードを取り、笑顔のノーマさんが叫ぶ


純白のベールが朝日に輝き、ブーケが空に舞う




宿に戻って朝食を食べながら事の顛末を話し始める


ミリアちゃんとアイリちゃんは目をキラキラさせて話を聞いていた


いつの世も恋愛物語は女の子に人気である



「レベッカちゃんに話しても大丈夫かな?」


ミリアちゃんが悩んでいる


アイリちゃんも腕を組んでお悩みのポーズを取っている



「大丈夫だと思う、最初は妹さんに協力してもらうと考えてたみたいだから」


「結局は俺が手伝って話は聞いてなかったようだけどね」


「ごめん、昼まで寝かして…今日も休みでお願い」


眠くなったきた、欠伸をする



ミリアちゃんとアイリちゃんを置いて部屋に戻り寝るとする




ミリアちゃんとアイリちゃんが戻ったのは夜になってからであった


2人は傷だらけの埃だらけで服もボロボロになっていた


食堂で夕食とお湯を貰い体を拭って着替えさせる


残りそうな傷は魔法で癒し、それ以外はオリーブの軟膏を塗る


一緒に夕食を取りながら2人の話を聞く



話を聞いた委員長と委員長のお父さんが揉めに揉めて大変であったと


委員長も家を出ると、その前に懲らしめるために狂言誘拐を演じると言い出したと


しかし、委員長の父親を恨む連中にホントに誘拐されてしまったと


委員長を助ける為にミリアちゃんとアイリちゃんと委員長パーティが走りまわったと


委員長のお父さんも娘を助けるために奔走していたがだいぶ空回りしていたと


でも、最後には委員長も無事に救出し委員長のお父さんも改心してくれたと


とんだドタバタになってしまったと疲れたように話してくれた



今日は本当にお疲れだったようで俺に体重を預けて寝息をたてる二人である


スッキリとした気分と2人の重みに満足しながら眠りにつく






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