第19話 駅馬車.4
駅馬車は夜遅くに町に着いた、みな疲れきっていた
宿は駅馬車提携の宿を手配してくれた、個室を借りて早速ベットに入る
横のベットを見ると何故かルイーズがまだいた
もう、どうでもよくなって寝ることにする
俺の傍らにはアイリちゃんがいる、クンクンとペロペロしてくれる
頭をナデナデしながら眠りにつく
夜中にふと目が覚めた、誰かが起きる気配
そしてジーっと見られている気配、怖くて隣のベットを振り向け無い
また誰かが死ぬのかな、とか思った
それくらい怖かった
じっとりと背中が汗ばむ…気が付いたら寝ていた
朝はアイリちゃんに起こされる、朝食は食堂で取る
朝食はベーコンと野菜のスープとライ麦パンである、ここもかと
朝食を取っていると司祭が下りてくる、寝ていないようで目の下にクマがある
クレアさんは持ち直したようだが、お腹の赤ちゃんは駄目だったらしい
しかし旅はできそうに無いので治療院に司祭が連れて行くそうだ
あのボディで妊娠していたのかと、知らなかった
ディバインさんは吹き飛ばされたときに打ちどころが悪かったらしく
夜中に倒れてそのまま息を引き取ったと言っていた
バックさんとウイルコックさんの骨折は治るのに数か月は掛るだろうと言っていた
しかし他の人達は軽症なので大丈夫であると
馬車は半壊だったが徹夜で作業するらしいので出発の延期は無いだろうと言っていた
酷い旅であったと言っていた
司祭が部屋に戻ってから、お茶を飲みながら話をする
「当初は王都まで考えてたけど、この町に少し泊まってみない?」
ここはブレオテより大きい街道町である
「マサトさんが、よければどこでも」
「マサト様の行く所ならどこでもいくです」
何とも嬉しい事を言ってくれる
「じゃーお風呂行って教会行って、それからギルドに行こう」
街道の町、ローズバーグ
木と石造りの3階建ての建物に石畳の道と人口の水路の町
町の中央にはダンジョンがあり、傍には4階当て相当の教会と治療院が建ち並ぶ
100年前に発生したダンジョンを中心に町が栄えていった
バラの花びらの形のように町の区画が増設されていったので薔薇の町である
経済もダンジョンを中心に栄えており、この町で一生を終える冒険者も少なくない
町の中心部に冒険者用の施設が多いため、別名は冒険者の町という
公衆浴場は町の中心部寄りにあり多くの冒険者の姿が見える
太い柱が建物を囲う、神殿をかたどったような建物
左が女湯でミリアちゃんとアイリちゃんとルイーズが一緒に入っていった
右が男湯で脱衣所に入る、先に脱衣所で裸になり荷物をカウンターに預ける
荷物を預けるときにお金を払う、番号の入ったネックレスと手拭いを渡される
中には硬い石鹸と水桶があり、脛ほどの高さの湯船から湯を取り体を流す
石鹸で頭から足の先まで洗いお湯で流す、湯船に浸かりホッとする
男湯と女湯を仕切る塀の上からお湯が流れてくる、滝の演出であろう
当然に滝に近ければ熱く、遠ければ温くなるのである
湯船は広く滝に近づくにつれ深くなっており、離れるほど浅くなる
階段状の湯船を下りる、座ると肩まで浸かれる丁度いい深さの場所を探して座る
男湯と女湯が湯船で繋がっているようだが潜っても見えない
ふぅ~やはり湯船だよねぇ
湯船を出てお水とお湯を混ぜて温いくらいのお湯にしてかぶり体を冷やす
出口の手前で水で冷やした手拭いで体の水分を拭き取り手拭いを固く絞る
手拭いとネックレスを渡して荷物を返してもらう
鞄の中から手拭いを出して水気を完全に拭き取り下着を付け服を着る
外に出てフルーツ果汁入りミルクを正しい作法で一気に飲む
あとから湧き出る汗を手拭いで拭き取りながら朝の風に吹かれる
あぁ…気持ちがいい
涼んでいるとミリアちゃんとアイリちゃんとルイーズが出てきた
ミリアちゃんがフルーツ果汁入りミルクの飲み方の作法をルイーズに教えている
3人で並んでフルーツ果汁入りミルクを正しい作法で一気に飲み干す
3人とも朝の風に吹かれてご満悦である
教会に向かい聖堂で祈りを捧げる
こちらの教会は4階建て相当の高さの鐘塔を持つ教会、鐘の数も3つある
入り口は大きく開かれておりこの世界の神のシンボルが掲げられている
聖堂の中には左右に椅子が並んでおり、座りながら祈りを捧げている人達がいる
奥には祭壇と権杖を持ち祭服を身に纏った神の像が安置されている
取り囲む色とりどりのステンドガラスは神話を物語っていた
聖堂内には多くの人々が朝の祈りを捧げている
長椅子に3人並んで座り祈りを捧げる
なぜルイーズが一緒かというとルイーズに案内してもらっているのである
公衆浴場も教会も冒険者ギルドもルイーズ無しには場所がわからないのである
仕方ないのである
祈りが終わり冒険者ギルドに向かう
冒険者ギルドはそれなりの大きさであった、町役場ほどの広さである
カウンターには職員が忙しそうに動き回り、冒険者もそれなりに多い
こんなもんだよな、なんて思ったりしてみた
ルイーズはミリアちゃんの手を引いてカウンターに入っていく…職員は止めない
えーソッチかよと、思いました
奥の扉の前でこちらを手招きするルイーズ
大きくため息を付いてカウンターに入っていく
「ちょっと待っててなの」
「座っててなの」
ギルド長用の椅子に飛び乗り書類を一枚一枚確認するルイーズ
「はい」
ソファーに座る
ミリアちゃんがアワワアワワしてるので隣に座らせる
アイリちゃんは椅子の後ろに立とうとするので右側のクッションを叩く
ちょっと嬉しそうに俺の右側に座る
職員の女性が飲み物をテーブルに置いて退出していく
その際にルイーズが一言二言、職員の女性と何か話していた
お茶をすすりながらどうするかと考える
ルイーズが向かいのソファーに座る
「それでは、ご挨拶なの」
「この町の冒険者ギルド支部長をしているルイーズなの」
「よろしくなの」
ぺこりと挨拶するルイーズ、だがいまだにミリアちゃんがアワワアワワしている
「ミリアは頭が固いの、柔軟性が無いの」
「仕方ないの、ちょっと失礼するの」
ルイーズはソファーから降りると奥の部屋に入っていく
しばらくすると青い目、青い髪の内巻きワンカールにしたワンレンボブの女性が出てくる
30歳位であろうか細面の顔に赤い唇が印象的な女性、装飾の入った礼装のローブ姿である
ローブとはいえ凹凸が見受けられない、スレンダー系なのであろう
「ミリア、こっちなら大丈夫?」
「なんで同じ名前で目の色も髪の色も一緒なのに気が付かないのかしら?」
「ホントに石頭よね」
ニッコリ微笑む
「だって、普通は気が付かないわよ」
「そんな」
「あの」
「むりよ」
ミリアちゃん、いまだに混乱中のようです
「あら、2人は何か気が付いていたみたいよ?」
「マサト君なんて、私の事を凄く警戒してたんだから」
「アイリちゃんも注意してたわよね?」
ニッコリ微笑む
「いえ、はい…です」
アイリちゃんも恐縮している
「失礼します」
職員の女性が入室してミリアちゃんとアイリちゃんの前に書類を置く
冒険者ギルドの登録用紙である
「名前だけでいいわ」
ルイーズがニッコリ微笑みながら指示する
「え?あの?」
「え?」
戸惑うミリアちゃんとアイリちゃん
「いいから、言われたように書きなさい」
ニッコリ微笑みながら書類を指さす
「はい」
慌てて書類に名前を書く2人である
「マサト君はギルド証を出して、更新するわ」
ニッコリ微笑む
言われたように冒険者ギルド証のネックレスを外す
ネックレスと書類を職員の女性が持って部屋を退出する
「どうしたの?」
「取って食べたりはしないわよ?」
ニッコリ微笑みながら静かにティーカップを置く
「はあ、何と言っていいか…何も思いつかないです」
心境をそのまま語る
「そうね」
「最初はミリアの新しいパーティメンバーを見るだけの予定だったのよ」
「そしたら”あの噂”でしょ?」
「大麦畑のダンジョンはたちまち大人気で領主まで出てくる」
「でも、おかしいと思わない?」
「ミリアに仲間ができて、商人が噂を流がして人が増える」
「そしてカミーユが領主を連れてくる」
「出来すぎでしょ?」
「カミーユに聞いても要領を得ないから、キャラバンで情報収集したのよ」
「そしたら”獣人の奴隷を買った冒険者が魔法の武器と取引をした”と言うじゃない?」
「そして…その獣人はアイリちゃんで、冒険者はマサト君でしょ?」
「すべては貴方から始まっているのよね、マサト君」
ティーカップをもてあそびながらニッコリ微笑む
「えーっと」
「ミリアとのパーティはネイサンさんに紹介されて」
「アイリは可愛かったので衝動買いで」
「噂は商人の勘違いで」
「領主はカミーユさんが噂を利用したわけで」
「すべては巡り合わせとしか…はい」
ありのまま事実を語る
隣で顔を赤らめてにへへと笑うアイリちゃんが可愛い
「そうね、駅馬車でも変な事はしていなかったようですしね」
「でも、魔法のアイテムの出所は気になるわ」
「剣と槍もそうだけど…特にポーチの方が気になるわ」
ニッコリ微笑む
「これは師匠の物でして…はい」
「剣と槍の魔法の付加は師匠の技でありまして、触媒がないのでもう出来ないです」
考えていた言い訳を使う、これで良いだろ
「それは触媒が有ればできるって事?」
ニッコリ微笑む
「はい、ですがモノは分からないです…加工済みしか知らないので」
完璧です、完璧な言い訳です
「あの、ルイーズさん…いいですか?」
ミリアちゃんが、言いにくそうに尋ねる
「いいわよ」
ニッコリとミリアちゃんに微笑む
「盗賊の頭目なんですけど、わざと逃がしたんですよね?」
「逃がしたせいで死んだ人が出ました」
「なぜですか、何故逃がしたんですか?」
ミリアちゃんが膝の上で拳を強く握る
アイリちゃんもしょぼーんとする
「死んだ人には悪かったと思っているわ」
「でも、死んだのは本人の油断と実力不足よね?」
「護衛をやっている以上は負うリスクの1つよ」
ニッコリ微笑む
「でも、逃がさなければ死にませんでした」
下を向いたまま、強く握る拳の色が白さを増す
静寂が流れる
ルイーズの目的は何であろうかと考える
盗賊の依頼主はルイーズだったのかと、だから逃がしたのかと
狙いは俺のポーチだったのかと
しかし
ポーチが狙いならいつでも簡単に奪えただろう、盗賊を雇う意味がない
俺を試すにしてもやりすぎである
わからない
「そうね、私が浅慮だったわ…ごめんなさい」
ティーカップを置き、伏し目がちに謝罪をする
「失礼します」
職員の女性がギルド証を持って入ってくる
俺達の前に1つずつ並べる
受け取り、確認する…ランクがDとなっていた
「これは?」
Dは熟練に相当する、まだ早い気がする
2人のも見るとミリアちゃんもDでアイリちゃんはEだった
「カミーユと話して決めたことよ」
「ずいぶん評価されてるわね」
ニッコリ微笑む
「ありがとうございます」
「以上、ですかね」
早く切り上げてここから出たいものである
「そうね、今日の所は…いいわ」
ニッコリ微笑む
場の空気を考えたのであろう、終わらせてくれるようである
「では、これからお願いします」
ミリアちゃんをソファーから立たせて早々に退出する
「ここにもダンジョンは有るわ、楽しんでいってね」
ルイーズさんがニッコリ微笑む
扉を出てダンジョン情報の張り紙を見る
見ている間にミリアちゃんが囲まれている
大麦畑のダンジョンの乙女とか女神とか姫騎士とか言われている
男からも女からも囲まれている、アイドル状態である
アイリちゃんはアワワしているミリアちゃんに抱きしめられて逃げられない
これはヤバい、このパターンはもめるパターンである
遠巻きにガラの悪い連中が睨んでいる
カウンターの奥の扉をノックして開ける
髪をかき上げながら書類仕事をしているルイーズさんが顔をあげる
「あら?どうしたの?」
「はい、ミリアちゃんが面倒ごとに巻き込まれるので助けて欲しくて」
扉の外を指さす
「何事なの?」
扉から顔を出すルイーズさん
「大麦畑のダンジョンで人気が出たみたいで、ガラの悪いのに絡まれます」
テンプレの話をする
「絡まれていないわよ?」
「大人気じゃない?」
何言ってんのー?みたいな顔をされる
「どきなっ!」
「キャッ」
ガラの悪い連中がファンを押しのけて、ファンの子が倒れる
テンプレの展開が始まる…予定調和過ぎて劇を見ているようである
「あら、本当に始まったわね?」
「なんでわかったの?」
軽く驚いた様子で俺の顔を見る
「お約束じゃないですか」
「はやく、お願いします」
「後でまた絡まれるので、もう絡らんで来ないようにお願いします」
ササッとやっちゃってください先生な気分です
「あなたたち、やめなさい」
ルイーズさんが女教師のように叫び、静粛にさせる
これは良いかもと考える…眼鏡のオプションを希望する
静まり返る室内、ルイーズさんが注目される
アワワのミリアちゃんと抱きしめられて苦しそうなアイリちゃんが見える
ルイーズさんがこちらをチラリとみる…ので、ボソボソをセリフを伝える
「ミリアは大麦畑のダンジョンのキャンペーンガールとして依頼を受けた」
「これは領主様と冒険者ギルドとの協力キャンペーンの一環である」
「そしてこのキャンペーンは現在も続いている」
「キャンペーンの邪魔をするという事は冒険者ギルドに弓を引くと同義である」
「延いては領主様に刃向かうという事でもある」
「各々は誤解されるような行動は慎むように」
「?」
驚いた顔で俺の顔を見るルイーズさん
「ありがとうございます、これで大丈夫でしょう」
満足である
「まあ、いいけど…知らないわよ?」
「でもキャンペーンガールって何かしら?」
呟きながら部屋に戻っていく
ミリアちゃん達はというと、ガラの悪い連中は居なくなっていた
代わりにファンの輪が増えてアイリちゃんが潰されていた
職員の女性に宿を聞いたら冒険者ギルド提携宿を教えてもらえた
まずは宿に向かう
「みなさん、すいませんがミリアさんは長旅で疲れています」
「とうぶんはこの町に滞在しますので今日はこれくらいでお願いします」
ジャーマネ気分である
アワワアワワなミリアちゃんとキューっとなってるアイリちゃんを回収する
ファンからは嫌われるが絡まれるよりはマシである
2人を連れて宿に向かうとする
宿屋「木工職人の魂亭」
木と石造りの3階建ての建物で1階は食堂で2階と3階が宿屋になっている
1階の食堂には木工製品がずらりと並んでいた、販売もしていると言っていた
古今東西の獣を模った彫刻である、リアルな迫力がある職人の技物である
「すいません、冒険者ギルドから紹介されまして」
食堂で働く兎獣人族のコスプレ系の女の子に話しかける
腰まである白いストレートの長い髪に頭の上のウサギの耳、赤い瞳にピンクの唇
控えめな胸元、麻のブラウスの上に黒のチョッキを着て黒の蝶ネクタイを付けている
黒いラッフル・スカートから覗く白い足、白い靴下に黒い靴…脚線美が素晴らしい
「いらっしゃいませ」
「泊まる方のギルド証をお見せください」
淡々と静かに話す
「3人で個室でお願いします」
3人でギルド証を見せる
「個室は2人部屋と4人部屋があります」
「2人部屋は銀貨3枚、4人部屋は銀貨6枚となります」
「4人部屋でよろしいでしょうか?」
「2人部屋に3人泊まることはできますか?」
「可能ですが備品は2人分の用意となります」
「もうひと方の分は別料金となります」
「備品の内訳は?」
「2人部屋には獣蝋燭1本と毛布2枚と水差し1つと水桶1つ付きます」
「それ以外は別料金となります」
「十分です」
「では2人部屋を10日お願いします」
「ありがとうございます」
「お部屋にご案内いたします」
お辞儀をしてからカウンターの内側に回り棚から出した備品を渡される
アイリちゃんに水桶を渡しミリアちゃんに毛布を渡す
「荷物は?」
村人の服3人組である、武器防具も身に着けていない
3人ともバックパックを背負っているが少ないと思ったのであろう
「足りないものは買いそろえようと思っています」
「いいお店をご存知ですか?」
「武器防具道具などすべてダンジョンのまわりの店で揃えられます」
「1階の食堂は朝昼夜と営業しております」
「お弁当は前の日の夜までに注文をお願いします」
「井戸は裏庭に有りますのでご自由にお使いください」
「こちらのお部屋になります」
話しながら階段を上り、3階の一番奥の部屋に案内される
荷物を置いて窓を開ける、窓の向こうにはローズバーグの街並みが広がる
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