第17話 駅馬車.2
ミリアちゃんの冒険者ギルドへ向かう足取りは重かった
立ち止まりため息を付き、フラフラを路地裏に吸い寄せられる
食堂から冒険者ギルドは街道を挟んで真向かいにある
なかなか前に進まない
「一緒にお願いしましょう」
扉の間で止まるミリアちゃんの背中を押す
「大丈夫です、待っててください…いってきます」
覚悟を決めてミリアちゃんはカウンターの奥の部屋に向かう
アイリちゃんとカウンター前のベンチに座ってまつ
しばらくして、扉が開く音に反応して扉を見る
カウンター奥の扉から放心状態のミリアちゃんがフラフラ出てくる
アイリちゃんが駆け寄りベンチに座らせる
「アイリさん、大丈夫ですか?」
心配そうなアイリちゃんである
ミリアちゃんは床の一点を見つめたまま動かない
「マサト君、こちらに」
扉の奥からカミーユさんの声が聞こえる
「いつれいします」
部屋の中に入り扉を閉める
「ミリアから聞かせてもらった、マサト君はどうするつもりかね?」
カミーユさんが書類を片付けて俺をジロリと睨む
「一緒にやっていこうと思っています」
なんて答えていいかわからない
「君は師の下に戻るのでは無いのですか?」
「一緒に師の下に戻り、その後も別れるつもりはありません」
「魔の森の向こう、見知らぬ土地でミリアを守れるのかね?」
「収入は安定しない旅暮らしは考えているよりも過酷なものだよ?」
「君自身も旅慣れているようには見えないが?」
「この町から出たことのないミリアを連れて行けるのかね?」
「冒険者とは何となくやっていけると考えるよりも過酷な世界だよ」
「君はやり続けて行くことが出来るのかい?」
カミーユさんが静かに俺に質問を投げる
答えに困る
スゥパァチートありますとは言えないし…言いたくない
しかし、スゥパァチートが無ければ何も無いのも事実である
「ふむ…もう一度ミリアと話し合いたまえ」
「以上だ」
カミーユさんにバッサリである
何も言えずに扉を出る、ミリアちゃんの横に座り考える
俺は何処の誰で何者なんだろうと
俺は何処から来て何処に行こうとしているんだと
転生者、使命は無いと言われた
では、俺は何?
人の種では無いとも言われた
俺の存在理由は何?
何もわからない
ギルドの女性職員に促されて宿に戻る、もう夕刻である
アイリちゃんが心配そうに見ている
宿屋「あの夏の熊街道亭」
宿の部屋で3人で夕食を取る、アイリちゃんが準備してくれた
夕食は何を食べたのか覚えていない
言葉もない…というか何も考えられない
何も話さないままベットに入り3人で寝る
ミリアちゃんもずっと考えているのだろう、何も話さない
アイリちゃんがクンクンとペロペロしてくれるが気分にならない
頭をナデナデしながら天井を眺める
気が付いたら朝になっていたようである
アイリちゃんとミリアちゃんが朝食の支度している、音が聞こえる
天井を見る
何も浮かばない
答えは出ない
でも決めた
俺も支度して朝食を取る、いまだに言葉は浮かばないが…決めたのである
一緒に行くのだと…3人が同じ気持ちだと、思う
1階の食堂に下りてお弁当と水筒を貰う
「ホントに行くんだねえ」
「寂しくなるねえ」
「体に気を付けるんだよ」
「2人を大事にするんだよ」
「また、戻っておいで」
おかみさんがミリアちゃんとアイリちゃんを抱きしめる
「死ぬんじゃねーぞ」
熊街道の熊の旦那が俺の頭をワシャワシャする
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうです」
3人でお礼を言って宿を出る
冒険者ギルドの2階、カミーユさんの家に向かう
木の階段がしなりギギギと音を立てる音が気になる
廊下を歩く足音がやけに耳に付く
木の扉の前で躊躇する、扉が厚く重く見える
扉についているノッカーを叩く
カンカンカンと金属の音が鳴る
しばらくするとミリアちゃんによく似た亜麻色の髪の女性が出てくる
顔もどことなくミリアちゃんに似ている
ブラウスから零れる胸の重量感も似ている気がする
「いらっしゃい」
「ミリア、決めたのね」
「待っててね」
ミリアちゃんは黙ってうなずき、女性は室内に戻っていく
入れ替わりにワイシャツ姿のカミーユさんが来る
ゆっくりと真っ直ぐに俺を見ている
「答えは決まったのかね?」
問いかけに答える言葉は用意できなかった
しかし、決めている…真っ直ぐなカミーユさんの視線をそらさずに受ける
アイリちゃんが口をパクパクさせるが声が出ない
ミリアちゃんもカミーユさんを見つめるが言葉が出ない
”決めました、一緒に行きます”と言おうと思う
答えではないが決めたのである、だからそう言おうと思うが口が動かない
汗が滲み出る、つばを飲み込み声を絞る
「決めました」
何とか一言絞り出した、が続かない…声が出ない
カミーユさんは俺達3人を交互に眺める
「そうか」
一言だけ言って室内に戻っていった
一気に汗が噴き出した、額に大粒の汗が浮かびシャツも濡れている
これで良かったのかわからない、わからない
ミリアちゃん似の女性、ミリアちゃんの叔母さんが部屋に案内してくれる
ミリアちゃんの部屋は片付いていた
床には革製の四角い旅行バックに武器防具の入ったバックパックが置いてある
準備はすでにされていた
ミリアちゃんの目から涙が溢れ出す
ミリアちゃんの叔母さんはミリアちゃんを抱きしめる
あらあら、可愛い顔が台無しよとか
まだまだ子供ねとか
これから旅立つんでしょ、しっかりしなさいとか
馬車に送れちゃうわよとか
必要なものは全部入っているからねとか
体に気を付けて無理はしないでねとか
あなたは私たちの娘でもあるのよとか
抱きしめながらミリアちゃんに語り掛ける
ミリアちゃんは涙を浮かべながらうなずいている
「さあ、荷物を運んでちょうだい」
「マサト君、ミリアをお願いね」
ミリアちゃんのおばさんは瞳を潤ませながら俺に笑顔を向ける
「はい」
答えて荷物を手に持つ
アイリちゃんも瞳に涙を浮かべながら力強くうなずく
ブレオテの町の南門
ブレオテの町の南門には既にキャラバンの姿は無い
旅の商人も店をたたみ、元の広場に戻っている
狭く見えた広場もこうして見ると広く感じるものである
駅馬車は大きかった
馬が6頭立てに通常の倍の大きさの車輪が6個ついている
車体は大きく細長い、天井まで木造作りである
いまは出発の準備で馬を繋げて郵便物や飼料や水樽を積んでいる
傍らでは乗客らしいおっさんが木箱の荷物を神経質に誘導している
料金は誰に払うのかとキョロキョロしていたら
赤青ワンピーズのタニアさんとサーニャさんが手を振りながら歩いてくる
「はい、切符」
「切符買ってないでしょ?」
「もう、ドジなんだから」
「こんな事で大丈夫かしら?」
「心配だわ」
「母性が目覚めちゃうわね」
「そうね、目覚めちゃうわね」
赤青ワンピーズは早朝から平常運転ですね
「ありがとうございます、幾らでした?」
「払います」
ポーチに手をやりゴソゴソお金を探す
金貨9枚かな、終点までは幾らだろう?
「いいわよ、お金は要らないわよ」
「そうよ、冒険者ギルド支部長さんが払ってくれたもの」
「いい男よね」
「ホントいい男よね」
「あの瞳で見られると、ゾクゾクしちゃう」
「お尻もキュートなのよね」
「興奮するわね」
「興奮するわね」
赤青ワンピーズがおかしくなっていく
「何か言ってましたか?」
ミリアちゃんが質問する
「なにも言ってなかったわ」
「ええ、なにも」
「でも苦虫を噛みつぶしたような顔してたから相当に悔しかったのよね」
「マサト君に娘を取られるようなものですものね」
「娘を嫁にやる父親の気持ちなのね、わかるけどわからないわ」
「ええ、わかるけどわからないわね」
「でも、あの眉間の皺もセクシーだったわね」
「ホントホント、失神しちゃうかと思ったわ」
赤青ワンピーズがとてもとてもウザいです
苦虫を噛み潰していたのは君達にではないかと思います
駅馬車のキャビンは前部と後部に分かれていて間は倉庫になっている
キャビンは3人掛けの長椅子が向かい合わせになっており6人まで座れる
前方のキャビンに乗るのは俺達3人だけのようである
後方のキャビンには木箱を気にしていた商人が乗るりこむ
その後ろをフラフラした司祭が乗り込む
さらにウエーブの掛かった長い黒髪にふっくらとした唇の美人が乗り込む
麻のブラウスを胸元まで開けていいるボンキュッボンの女性である
ふくよかな胸元がブラウスの生地を無理やり下から押し上げている
フィッシュテール・スカートから覗く脚線美もとても素晴らしい
25歳位であろうか妖艶である
食い入るように見ていたようでミリアちゃんに背中をつねられて振り返る
プンプンのミリアちゃん、さらに引いた目でアイリちゃんに見られる
キャビンの扉が開く音で、扉を見ると…キャラバンに居た魔法屋の店員がいた
青い目、青い髪を三つ編みおさげにした素朴な外見のロリッ子…そばかすもある
パターンではヤバい系である、通報系のヤバいほうでは無いほうのヤバい系である
8歳ぐらいの少女が店員をやっていて、更に一人で馬車に乗り込むのである
関与しない、そう心に決めるのである
馬車の準備も出来たようで、出発すると伝えられる
各部の最終確認をして屋根の上に御者と護衛が乗り込む
前方の屋根に付いた御者台に3人、真ん中左右に2人で後ろに3人
御者と作業員と護衛を兼任する男達が計8人である
動き出す駅馬車に赤と青のハンカチを振る赤青ワンピーズ
その向こうにカミーユさんの姿も見える
ミリアちゃんとアイリちゃんは窓から身を乗り出して手を大きく降る
一度ガクンと速度を落とし、誰かを乗せたとアイリちゃんが言っていた
ミリアちゃんとロリッコことルイーズちゃんは楽しそうに会話をしている
アイリちゃん会話に参加している、楽しげではあるのだが
8歳の子にたいしてもミリアちゃんに対するように話している
野生のカンで年上だとわかるのだろうと、解釈する
昨日はあまり寝れなかったので昼までぐっすり眠りこむ
昼の休憩地では御者と護衛の男達が馬車の整備と馬の世話をしている
司祭さんは昼から飲んでいるようでフラフラしている、朝からかもしれない
商人はピーコックさんと名乗り、一人一人に挨拶に回っている
ボンキュボンのおねーさんの名前はクレアさん
クレアさんにすり寄るイケメンはキャラダインさん
キャラダインさんは出発ギリギリに乗り込んだんで来たらしい
ピーコックさんが教えてくれた
各々が自前の昼食を取るなか、熊街道のお弁当を3人でいただく
のだが
ミリアちゃんがルイーズの食事を見て分けてあげたいと言い出す
仕方がない4人でお食事となる
お弁当はライ麦パンに干し肉やチーズに野菜などなど挟んである
色とりどりのサンドイッチである
時間停止のポーチに入れていたので新鮮シャキシャキである
やかんからミルクを出していただく
昼食を食べ終わり片付けをしている
アイリちゃんが立ち止まり森を見ながら鼻をヒクヒクさせている
「こっちに来る人達がいます」
アイリちゃんが森を見ながら呟く
アイリちゃんの視線の方向を見るといかにもな男達が登場する
6人ほどである
剣を肩に担ぐ定番のスタイル
猫背で下から睨むような定番のスタイル
口を開いて舌なめずりをする定番のスタイル
ふんぞり返りながら見下す定番のスタイル
盗賊の教科書でもあるのかと、しかもお前ら優等生かと突っ込んでみたくなる
ミリアちゃんとアイリちゃんを引っ張って馬車を陰にするために動く
ミリアちゃんがルイーズの手を引いて連れてくる
「盗賊だ、馬車の陰に隠れろ」
「バックとウイルコックとプラットは前に出ろ」
「カーリーとバンクロフトは援護だ」
「アンディは防御と回復」
「デバインと俺は馬を守る」
連携の取れた動きで防御陣形を組み盗賊を足止めして矢で射かける
盗賊は6人こちらは8人である
早々に諦めたようでたいして戦いもせずに引いていく
ケガもなくアッサリと終わり拍子抜けではあるが、無事で何よりである
駅馬車の速度は通常の馬車の2倍近くの速度で走る
大きい車輪に板バネに吊り下げ型の構造と工夫はされている
それでも揺れが強い
椅子にも板バネに綿のクッションで尻の痛さを軽減はしてくれる
が、尻が痛い
6人乗りのキャビンに4人である、快適ではあるが快適ではあるが
それでもツライ
夜の野営地に着いた頃には体中がガタガタである
夕暮れ前には野営地に着き野営の準備を始める
御者兼護衛の男達が馬車の整備と馬の世話を手早く始める
馬車の屋根に雨除けを掛け、その外に焚火を焚く
夕食はやっぱりルイーズに分けることになり一緒に食べる
燻製肉と野菜とのライ麦パンサンドを煮出し茶でいただく
食事も終わりマッタリする、というかすることなんか何もない
隣の焚火でピーコックさんが1人騒いでいるのが見える
商品の酒が飲まれたと、司祭さんに詰め寄りつかみ合いになってる
司祭さんは持ていた酒瓶を落として割れてしまう
ウイスキーの香りが漂う
更にエキサイトしたピーコックさんはクレアさんを中傷していた
止めに入るるイケメンのキャラダインさんにも食って掛かって大暴れである
護衛頭のジョージさんがピーコックさんを納めるが険悪な雰囲気である
早々に寝たほうがよさげだと毛布にみんな包まる
護衛の2人が火の番で見張りに立つ
アイリちゃんに起こされる
まだ暗い夜中である、昼の盗賊のニオイだという
ミリアちゃんの肩を揺すって起こして盗賊の襲来を告げる
ミリアちゃんはパッチリと目を覚ましてルイーズを連れてアイリちゃんと馬車に入る
俺は火の番をしているディバインさんに声を掛ける
「うちの子が言うには、昼間の盗賊が追い付いてきたようです」
「獣人の子か?」
「はい」
「わかった、他の乗客を起こして隠れるように言ってくれ」
「慌てずに、騒がずにな」
うなずいて、コソコソと馬車の横で寝ている人たちの所に戻る
毛布を引っ張っぱり、服を引っ張る
寝返りをうつ耳元で盗賊が来たことを告げる
みな冷静であった
飛び起きたりせずにゆっくりと馬車に乗り込んでいく
司祭はどうやっても起きなかったのでキャラダインさんが馬車の下に引きずり込んだ
カツンっと馬車に矢が突き刺さる
カツン、カツンっと馬車に矢が突き刺さる
カーリーさんとバンクロフトさんが弓で応戦する
茂みの中に矢を撃っているようだが手ごたえは無いようだ
窓の雨戸を閉めて焚火も消される、時折弓が飛んでくるが盗賊は襲ってこない
アンディさんがライトの光を森に数個浮かべるが盗賊の姿は確認できない
静寂が辺りを包んでいる
いきなりルイーズが馬車を下りて寝床に戻る
ミリアちゃんが付いていく
アイリちゃんを見ると緊張も取れ、俺を見てうなずく
俺も馬車を下りて寝床に向かう
他の乗客も恐る恐る馬車から出てくる
「もう大丈夫そうだが、今日の見張りは3人でやる」
「乗客の人らは安心して寝てていいぜ」
護衛頭のジョージさんが自信に満ちた顔で言う
朝まで襲撃は無かったがよく眠れなかった
朝食も燻製肉と野菜をライ麦パンで挟んで食べた、ミルクも飲み干す
スープを飲みたいが作るのは流石にアレなので諦める
昼までキャビンでぐっすり昼の休憩まで寝るとする
昼の休憩地で御者兼護衛の男達が馬車の整備と馬の世話を手早く始める
移動中に倉庫で何人か寝てはいたが、まったくタフな人達である
昼は燻製肉とライ麦パンで食事を終える
今後の食生活に不安を感じたが明日の夜は町に入るので食事とベットが楽しみである
ミリアちゃんもアイリちゃんも憔悴しているがルイーズは元気である
たまにこちらをガン見するが目は絶対に合わせないようにしている
会話も聞き役に徹する、何か言われたら通報案件なのでとか言っておこうと思う
そんなこんなでリンゴをかじっていたらアイリちゃんが立ち上がる
「またきました、大勢です」
アイリちゃんが森を見て緊張している
「盗賊来ました、大勢です」
護衛頭のジョージさん聞こえる声で叫ぶ
大勢って事は本気って事だろうと判断した
その声を聴いてジョージさんが吠える
「俺とディバインが前に出るぞ」
「カーリーとバンクロフトは援護とまわりの警戒」
「アンディは防御と治療を優先に」
「バックとウイルコックは馬を守れ」
「プラットは客を誘導しろ…その後で前に来い」
護衛が一斉に動き出す、乗客はキャビンに入り扉を閉めて雨戸を閉める
俺らも同様にする、ミリアちゃんとアイリちゃんは急いで防具を身に着けている
いっぽうルイーズは嬉しそうに鼻歌を歌いながら雨戸の隙間から観戦していた
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