第15話 大麦畑のダンジョン.6
先陣を切る騎士長の盾が見えない攻撃に削られる
キンッキンッと小さい金属音が聞こえる
盾を削られながらもゆっくりと確実に一歩一歩前に出る騎士長
頬面の隙間から汗が滴り落ちる
カマキリは間合いを保ちながらジリジリと後退する
左翼の冒険者からの牽制もありジリジリと部屋の右隅に追い込まれている
ジョンさんとディノさんが弓を撃ち、負傷した者達も牽制の弓を浴びせる
ミリアちゃんを探すと騎士団の最後尾、領主の左前にいた…安全地帯である
ギルド長のカミーユさんはいつの間にか左翼に回り込みながら矢を撃っている
スーツ姿でそつのない攻撃である
地元勢は盾持ちを前衛に配してカマキリにプレシャーを掛けている
右翼の冒険者も右のサソリを倒しカマキリに牽制を始めて包囲を固める
ここで真打の登場である
領主のまわりを固めていた3騎士が動く
白地に金の縁取りの騎士が右翼側から
白地に銀の縁取りの騎士が左翼側から
白地に緋色の縁取りの騎士が騎士団の後ろにつく
領主も何故かついていく
俺もアイリちゃんを後ろから抱きしめながら領主についていく
場の雰囲気を察してか、カマキリの空気が変わった
一瞬の輝き
見えない鎌が動き戦士長の盾が割れた、その直後に戦士長が吹き飛ぶ
その後ろで構えていたチャラ騎士の何人かも一緒に吹き飛ぶ
右翼と左翼の盾を持っていた冒険者も弾かれ盾が割れている
流石は金と銀の縁の騎士は耐えたようで盾を構えた形で堪えていた
入れ替わりと盾を構えて前に出る騎士団
盾を構えカマキリの懐に飛び込む金縁と銀縁
剣とメイスの戦技であろうか一瞬の輝き、剣先は消えメイスは光る
そこでカマキリは飛んだ
飛び上がり正面の騎士団を越えて領主を狙って鎌を振るう
鎌を振るうその腕が下から延びる緋色の穂先の槍でずらされる
飛ぶカマキリに狙われる領主、その鎌を槍で弾いているようだが…見えない
領主は口を開けたまま顔は引きつり動けない
名主の代理が手を引くが、動けない
その攻防の中、騎士団はカマキリを囲むように陣形を取りなおす
司祭が神に祈り加護の光が生まれる
ココだと判断した、ココで風魔法のバーストをカマキリの背中に叩き付ける
急激な爆発音と衝撃、カマキリが叩き落される
しかし叩き落される瞬間に放った鎌が領主に向かう
位置のずれたカマキリの鎌を緋色の槍は弾くことが出来なかった
ちょうど領主を守る様に盾を構えていたミリアちゃんの盾を鎌が削る
神の加護を受けその姿は淡く輝いている、ミリアちゃんが女神様に見える
もしかしたら俺のせいで領主が真っ二つ、討伐作戦が失敗したかもしれなかった
首を傾げるカマキリの攻撃を領主を庇いながら耐えるミリアちゃん
強化魔法を使い、戦技を発動し鎌の猛攻を耐えるミリアちゃん
盾の金属部が削れ、木の部分に亀裂が入る
盾が分解しそうである
その姿を見てチャラ騎士団の面々が盾と剣を捨ててカマキリに飛びつく
魔術師がミリアちゃんに防御と治療の魔法を唱える
ミリアちゃんの左右から金と銀が盾を構えて前に出る、鎌を受ける
緋色の槍がカマキリを貫く
チャラ騎士団と冒険者達がカマキリに取り付き動きを抑える
我々の勝利である
魔石に変わったカマキリの居た位置にダンジョンコアが現れる
空中にこぶし大の黒い水晶が浮いている
「重傷者を優先して負傷者の治療せよ」
「死者をダンジョンに取られぬように聖水をかけよ」
司祭と名主の代理がテキパキと指示している
ミリアちゃんは泣いていた
盾を構えて座り込んだままの姿勢でダンジョンコアを見つめて
瞳から頬を伝う涙も拭かず、ただ宙に浮かぶ黒い水晶を見て泣いていた
アイリちゃんがミリアちゃんを見て泣いていたので槍を受け取り背中を押した
アイリちゃんはミリアちゃんに抱き着いて泣いていた、泣きまくっていた
頭をヨシヨシされて、慰めに行ったんだか慰められに行ったのかわからない構図である
やっと放心状態から回復した領主がミリアちゃんを指さす
「ナイスである…ナイスである…ナイスである」
まだショックから立ち直れていないようである
すでに騎士団は整列しており上級騎士は領主の警護に戻っている
名主の代理が領主の耳元でゴニョゴニョしている
カミーユさんも領主の耳元でゴニョゴニョしている
「アブランシュ=マテゥー=フレデリクデアル伯爵様のお言葉である」
名主の代理が叫ぶ
「皆の者よくやってくれた」
「これで散っていった者たちの魂も救済される事であろう」
「そして、この地の安寧は取り戻された」
「勝利である!」
オォーっと歓声が上がる
「コデルロスの娘ミリアよ、良き盾であった」
「親子2代で命を救われたな、我が盾となり騎士団の末席に加わるがよい」
騎士団から歓声が上がる
「ありがとうございます、フレデリクデアル伯爵様でも…その」
アイリちゃんをヨシヨシしながらチラチラこちらの方を見る
視線を追ってみんなが俺の方を見る
俺は、後ろの方を見る
「うむ、入団は良き日に決めるがよい」
「もうよいか?」
「では、ミリアよダンジョンコアを壊すがよい」
顎をしゃくりながらミリアちゃんに命を下す
ミリアちゃんは立ち上がり、剣を上段から振り下ろす
黒い水晶は砕けて消える
ダンジョンは消え、地上の大麦畑に排出される
風に揺れる大麦、夕焼けに立つミリアちゃんはとてもとても綺麗でした
そして、凱旋の祭りが始まる
翌朝にアイリちゃんに起こされて起きる
なれないお酒をみんなに付き合って飲んだのがいけなかった
頭痛は治療魔法で治るが、ダルさは治らない
昨日はお祝いだから仕方がないと思いながら身を起こす
朝食を食べてお風呂に行く
アイリちゃんと洗いっこする…スッキリするがスッキリしない
フルーツ果汁入りミルクを2杯飲んで教会に行く
神様に祈っているアイリちゃんを見て楽しむ
ミリアちゃんに後ろから声を掛けられる
「おはようございます」
「おはようございます」
体ごと振り返ってあいさつする
「今日の午前中は名主の所で領主さんから授与式だね」
「行けないのが残念、お昼にエルネちゃんのお店で待ってますよ」
ミリアちゃんの晴れ舞台を見たかったが関係者以外立ち入り禁止である…残念
「はい、待っていてくださいね」
ニッコリ笑顔のミリアちゃん
朝の訓練で北門の空き地でニックさんを待つ
青い顔の満身創痍のニックさんが槍を杖に登場する
あれだけ飲んで騒いだのだ二日酔いであろう
「あの、今日は休みでもいいですよ?」
「いや、約束だからな…始めよう」
ニックさんは口を押えながら、何かを飲み込む
治療魔法を掛けとくとしよう
調子を戻してきたとか言いながらアイリちゃんをボコボコにして訓練は終わる
アイリちゃんはいつかはひと当てすると訓練を頑張っている
さて、汗を拭って着替えて食堂に行くとする
食堂「ねこ×3のにくきゅう亭」
昨日の夜は宿屋で打ち上げだったのでエルネちゃんに報告していなかった
昨日はこの店も大勢の人が押しかけてそれどころではなかったであろう
今日のお昼からのんびりお喋り出来たらいいなと考える
表からエルネちゃんに声を掛ける
「オススメ2つで、ミリアちゃんは後で来るよ」
「はいにゃ、おめでとうにゃ」
「よくやったにゃ」
煮出し茶を入れたマグカップを2つ渡してくれる
裏口から裏庭に出る
井戸の横の木のテーブルにマグカップを2つ置いて椅子に座る
アイリちゃんはマグカップを取り、チビチビとお茶を飲んでいる
「おまたせにゃ」
「アイリちゃんもよくやったにゃ」
オススメを置いてから厨房に戻る
アイリちゃんは嬉しそうに頷く
食べ終わったってマッタリしているとバタバタと走る音が聞こえる
息を切らしてミリアちゃんがやってくる
「走って来なくても帰ったりしませんよ」
「授与式だけって言ってたのに食事まであって大変でした」
「食べ方もわからないですし」
「領主様と同じテーブルで緊張して料理の味もわからなかったですよ」
「もーほんと、叔父さんは意地悪ばかりするんだから」
プンプンのミリアちゃんも見納めですね
「ミリアにゃん、おめでとにゃ」
「お父さんの仇討ててよかったにゃ」
「ホントにおめでとにゃ」
はちみつ茶を2つ置いてから
エルネちゃんがミリアちゃんを後ろから抱きしめる
「ん、エルネありがとう」
「エルネがいつも励ましてくれたから頑張ってこれたんだよ」
「ホントにありがとう」
瞳に涙を浮かべて嬉しそうに笑うミリアちゃんである
「うんうん」
「ゆっくりしていくにゃ」
エルネちゃんはミリアちゃんの涙を拭いて店内に入っていく
ポーチからお菓子と飴を取り出してテーブルに並べる
2人を置いて席を離れる
さて、地図は何処にあるのだろう…ギルドかな?
ギルドには冒険者の姿がチラホラ残っている
カウンターはお昼過ぎの時間なので暇そうである
「すいません、今いいですか?」
冒険者ギルドのカウンターの職員の女性に話しかける
「はい」
書類から顔を上げて答えてくれる
「地図ってあります?」
「地図ですか?」
「この辺りの?」
足元の棚をゴソゴソしている
「出来ればここより南の町とかが乗ってるのを」
「いや、見せてもらえるだけ全部見たいです」
貰えるなら全部欲しい
「えーっと、昔配っていた余りが有ると思うんです」
「少々お待ちください」
棚の下をゴソゴソと移動している
「はい、お願いします」
お任せして掲示板に向かう
ダンジョン情報にはもう大麦畑のダンジョンの討伐情報が載っていた
他のダンジョンの情報見ても場所がわからないと意味がない
地図は必要である、シスに聞いてもイメージがわかない
「マサト君」
振り向くとカミーユさんが奥の扉から顔をのぞかせている
「マサト君こちらに」
言って、中に入ってしまった
カウンターの職員の女性を見るとまだゴソゴソしている
「失礼します」
会釈して中に入る
「楽にしてくれたまえ」
「ミリアの手助けをしてくれてありがとう」
「今回のダンジョン討伐は君のおかげでもある」
「君がいなかったらこれほど上手くいくことは無かっただろう」
何故か今日のカミーユさんはほめ殺しにきた
「いやいや、ミリアさんが諦めなかったからです」
「自分はパーティ組んだだけですし」
「他の要因が有るとしたら、運ですね」
「たまたまが重なっただけです」
まあ、カマキリ落としたのは俺ですけどね…領主が危なかったけど
「そうか、君がそう言うならそれでもかまわない」
「それでだが、今後はどうする予定だね?」
カミーユさんがチラッと俺の背後を見る
振り返るといつの間にか女性職員さんが紙の束を持って立っていた
「あの、ありました」
女性職員は室内に入りカミーユさんの机の上に置いて退室する
「地図を探してるんだって?」
「行くのかね?」
カミーユさんが地図をめくりながら問いかける
「えぇ、地図を見て何処に行くか決めようかと思いまして」
「そうだな、こんな田舎町では冒険は無いからな」
「いや、師の下に戻るんだったかな?」
カミーユさんは地図の束を俺に差し出す
「ありがとうございます」
「数日の間に決めようと思ってます」
地図を受け取って部屋をでる
カウンターの職員の女性にもお礼を言ってギルドを出る
食堂に戻ると休憩中のエルネちゃんのと3人でおしゃべりしていた
地図をテーブルに置いて一枚一枚眺める
地図は手書きの地域の分からない地図と大まかな世界地図しかなかった
「ここがどの辺りかわかる?」
大まかな世界地図を見せながら聞いてみる
「わからないにゃ」
「すみません、地図を見ることがないのでわからないです」
「ごめんなさい、わからないです」
3人ともわからないと
大まかな世界地図を見ながらシスに質問する
(シス、この世界地図でココは何処)
(はい、おおよそですが左上の島と左下の内海の間となります)
(ほう…フランスぽい位置なのね)
3人はというと手書きの方の地図はあそこじゃないかとか話している
地域の地図ならわかるのかな?
北はアイリちゃんの故郷だけど、奴隷で里帰りは微妙だよね
ならば南に向かうかな、反時計回りで進むかなあ
明日の朝の訓練の時にニックさんに聞いてみようと思う
エルネちゃん休憩の終わりに合わせて防具屋に向かう
カウンターでは赤いワンピースのタニアさんが爪を磨いていた
「こんばんは、お疲れ様でした」
「あら、いらっしゃい」
「おめでとう、ミリアちゃん」
「昨日は盛り上がったわね」
「あんなに熱くなったのは久しぶりよ」
「ただ、爪が割れちゃって」
タニアさんは爪を磨き終えて、フッと一息
「ありがとうございます」
ニッコリ笑顔のミリアちゃんである
カウンターの奥から青いワンピースのサーニャさんが顔を出す
「あら、いらっしゃい」
「どうぞ、こっちにいらっしゃい」
「マサト君、2人を借りるわね」
「では、わたしも…マサト君、防具の新案よろしくね」
紙とペンを置いてタニアさんも奥に入っていく
やけに自然な流れで店番を押し付けられたな
えーっと、エプロンドレスとメイドとセーラー服とナースとシスター
フォーマル系とカジュアル系と職業制服系それ以外にこの世界にないモノ
うーむ、思い出せ俺
「マサト様、お待たせしました」
アイリちゃんが裏から出てくる
「マサトさんお待たせしました」
ミリアちゃんも出てくる
「マサト君、できたかしら」
「あら、いいわね」
「良い発想ね」
「セーラー服って何かしら?」
「ナース服もわからないわね」
「シスターは聖職者かしら、これは怒られないかしら?」
「サングラスと伊達眼鏡って何かしらね?」
「眼鏡の一種かしらね?」
疑問が出たモノについては絵をかいて説明する
サングラスと伊達眼鏡は防具じゃないが小物として提案する
「あら、いいわね」
「隣の爺と若いのにも手伝わせましょう」
「いけそうね」
「いけるわね」
赤青ワンピーズはうなずきあってる
「ではマサト君に前金を渡して置くわ」
「戻ってきたら利益の一部を用意するわよ」
「いつでも戻ってきてね」
赤青ワンピーズ、二人同時にウインクする
「はい、その時はよろしくです」
「今日はこれで、またです」
金袋を受け取ってポーチに入れる
「またね~」
「またきてね~」
手を振る赤青ワンピーズであった
夕食の席でミリアちゃんに改めてお礼を言われえる
「マサトさんにアイリちゃん、ありがとうございました」
「マサトさんが居なければダンジョンの討伐は無理だったと思います」
「私の我がままに付き合ってくれて、ありがとうございました」
丁寧に深々と頭を下げるミリアちゃんです
「いやいや、ダンジョン討伐はミリアちゃんが諦めなかったからだよ」
「ミリアちゃんの信念が買ったんだよ」
「ミリアちゃんの協力が出来たことは俺もアイリもとても嬉しいよ」
「おめでとう」
「おめでとうです」
アイリちゃんも嬉しそうです
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「本当はもう討伐なんて無理だと」
「無理だとわかっていたんです」
「でも、わたしはそれくらいしかできなくて」
「毎日通うくらいしかできなくて」
「それしかなくて」
「諦めたら」
「諦めたら、わたし自身が無くなってしまう気がして」
丁寧に深々と頭を下げたまましゃべるミリアちゃん
大粒の涙が床に落ちる
えっ?どうしよう?
とりあえずミリアちゃんを起して手拭いを出して顔を拭く
綺麗な顔が台無しである、瞳から大粒の涙があふれて流れる
ヒックヒックと呼吸も辛そうである、顔もクシャクシャである
えーっと、気の利いた言葉が浮かばない
何を言っていいのかわからない
ヨシヨシとかして離れられるとショックで俺が死んでしまうかもしれない
しかし、何とかしてあげたいと思う
思い切って抱き寄せる
ミリアちゃんの前髪が丁度俺の首筋に当たる、くすぐったい
鎖骨の辺りにミリアちゃんのおでこが乗る、ほんのりと暖かい
優しく体を密着させる、ミリアちゃんに触れている所が暖かい
アイリちゃんも呼ぶ
アイリちゃんと挟むようにミリアちゃんを抱きしめる
ミリアちゃんは声を上げて泣いた
子供のように声を上げて泣いた
不安だったと言っていた
苦しかったと言っていた
寂しかったと言っていた
辛かったと言っていた
心細かったと言っていた
怖かったと言っていた
俺とアイリちゃんは抱きしめて頷くことしかできなかった
ひとしきり泣いて落ち着いたようでモゾモゾとするミリアちゃん
耳どころか首まで真っ赤になっている
「ありがとうございます」
「ごめんなさい」
ミリアちゃんが恥ずかしそうに小さな声で話す
新しい手拭いを渡して顔を拭こうとすると顔を背けられる
手が止まり、心臓も止まるかと思った
え?やっぱり嫌なのかと
「ごめんなさい、いま顔が酷いから」
拒絶じゃなかった、よかったと
ならばとミリアちゃんに治療魔法を唱える、これでどうだろうと
「どう?」
ミリアちゃんに聞いてみる
「うん、はい…大丈夫なのかな?」
ミリアちゃんが顔を上げて笑顔を見せてくれる
瞳に残っていた涙が流れた
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