第12話 大麦畑のダンジョン.3


食堂「ねこ×3のにくきゅう亭」



表から入りエルネちゃんに声を掛ける



「エルネちゃん、オススメ3つを裏庭でお願いします」



「まいどありにゃ」


「まつにゃ、お茶持っていくにゃ」


マグカップに煮出し茶を入れてくれる



マグカップを3つ持って裏庭に出る


小さな裏庭には井戸の横に木のテーブルと椅子が置いてある


ミリアちゃんとアイリちゃんが既に座っておしゃべりしている


テーブルにマグカップを置いて座り、煮出し茶をすする



「オススメお待たせにゃ」


エルネちゃんがオススメを3つ運んでくれる


本日のオススメはタラのチーズソース掛けにライ麦パンである



「ゆっくりしていくにゃ」


エプロンドレスをふわりと食堂に戻っていく、尻尾がユ~ラユ~ラである




午後からも大麦畑のダンジョンに向かう


ナメクジ・ヒル・ダニ・ハエ・蚊と寄り道せずに順調に進み13階


ノミの登場である、ノミは跳ねるウザいくらい跳ねるのである



ミリアちゃんが盾を構えて接近したところで、先制はノミの突撃であった


ミリアちゃんが盾で受けて跳ね返ったところを踏み込んで上段から切りつける


そのまま上段から3度切りつけて魔石に変わる


そこでミリアちゃんに聞いてみた



「2匹だとどうする予定です?」



「ダニと対処は同じです、カウンターと盾で弾きます」



「では、ダニと同じで抜けたら俺が止めます」


「アイリはトドメをお願い」



「はい」


アイリちゃんは、槍をギュッって握る




そのまま危なげなく進み15階の下層ボス扉前である


ランクEとFが2匹の魔物が出るとダンジョンの手引きに書いてあった



「ボスですが、入ってもいいですか?」


ミリアちゃんがキリリとしている



「やはり、進みますか?」



「そのつもりです」


やはり決心は硬いようである



「では、お待ちを」


治療魔法をミリアちゃんとアイリちゃんの全身に掛ける



「ありがとうございます」


「ありがとうです」


2人からお礼を言われる



「では、行きましょう」




扉を開けて中を覗くと…2メートルくらい蟻と蚊が2匹居た


蟻はテカテカしている



「いきます」


ミリアちゃんが盾を構えて前進する



こちらの存在に気が付いた蟻と蚊達はミリアちゃんに向かう


ミリアちゃんは左と正面を牽制するように盾を構える


右手の蚊には剣を向けて威嚇する


俺は範囲をイメージして風魔法のバーストを発動する


バーストは蟻お尻を中心に空気の爆発が起きて衝撃が発生する


蟻は伏して蚊は落ちる


ミリアちゃんは右の蚊を切りつけて蟻を盾で弾く


アイリちゃんも右の蚊に追撃で槍を刺す


ミリアちゃんは弾いた蟻に踏み込み上段から剣を振り下ろす…が


蟻の頭の装甲に弾かれ後ろに下がり盾を構えなおす


蟻は起き上がりミリアちゃんに牙で噛みつこうとするが盾で弾かれる


アイリちゃんは右の蚊に止めを刺して後ろに下がる


左の蚊が起き上がるのでバーストで再度落とす


アイリちゃんはミリアちゃんの後ろを回り込み左の蚊に止めを刺す


ミリアちゃんは蟻の牙の攻撃を盾でさばきながら口に剣を突き刺す


アイリちゃんも蟻を横からヤリで突く


攻防の果てに何とか蟻を魔石に変えて中層への階段が開く



「甲殻類には武器は弾かれます、最初忘れていました」


ミリアちゃんが息を切らしている



「はい、全然刺さらなかったです」


アイリちゃんもしょぼーんです



「アイリちゃん、甲殻類は目や口や節など鎧の無いところを狙ってね」


「後は、中層はマヒや毒などの攻撃もあるから注意してね」


「私もここからは無傷というわけにはいかなくなるから」



「ボスのポップはどれくらいです?」



「すぐには沸かないはずです」



「じゃー休憩だね、はいこれ」


ミリアちゃんとアイリちゃんにキャラバンで買った飴をあげる



「ありがとうございます」


「ありがとうです」


ミリアちゃんとアイリちゃんにお礼を言われる



ミリアちゃんは小さなバックパックから小さな水筒を出して飲む


アイリちゃんがジーっとその光景を見つめる



「飲む?どうぞ」


視線に気が付いたミリアちゃんが水筒をアイリちゃんに差し出す



「ありがとうです」


嬉しそうに水を飲むアイリちゃん



次から水分を用意しようと考える



本日は蟻と数度戦って帰ることにした


帰り道にはボスもザコの魔物も居なかったキャラバンの人達が倒したのであろう


本日の成果は16階であるFが21匹とEが4匹である


戻りの時間を忘れていて宿に戻った頃には夜になっていた




宿屋「あの夏の熊街道亭」



宿の部屋で3人で夕食とする


野菜スープとソーセージ2本とライ麦パンである


食後にお茶を飲みながらお話しする



「ごめんなさい、順調に上がれたので帰りの事忘れていました」


今回はミリアちゃんがしょぼーんである



「いえいえ、中層行くならお昼のお弁当持って行った方がいいですね」



「上層は宿泊も必要になると思います」


ミリアちゃんはやる気である



「昼食に水筒に後は何が必要でしょう?」



「休憩するなら聖水ですね」


ミリアちゃんが答えてくれる



「聖水は休憩で使うんですか?」



「聖水は魔物除けで使うんです」


「効果は魔物限定で1瓶でしばらく効果が続きます」


「教会で買えるんですよ」



「なるほど」


「では、聖水は朝に教会で買えばいいとして」


「昼食は?」



「朝市でリンゴや燻製肉やパンを買えばいいです」


「飲み物は水筒ですが、私は自分のが1つしかないです」



「なるほど」


「水筒は自分も有るので大丈夫です」


「では、明日は昼食持っていきましょう」




ミリアちゃんをギルドに送って宿に戻る


藁の2重布団はアイリちゃんが作ってくれたのでベットに転がる


アイリちゃんもベットに潜り込み、クンクンとペロペロし始める



「臭くないの?」


自分で臭いを嗅いでみる…大丈夫だ



「こうしてると安心します」


「それに、タニアさんとサーニャさんがペロペロは絶対に喜ぶって」


「それと…たくさん甘えなさいって」


照れながら上目遣いでクンクンとペロペロを続ける



それは場所が違うと思うが…赤青ワンピーズは良い事を言う


つか、人に店番させて裏でそんなこと話しているのかと



では、今日もたっぷりとアイリちゃんの甘え顔を楽しむとしようかな




今日の朝は足がつって目が覚める


足にヒールを掛けたら治ったのでよかった



アイリちゃんは朝食の支度で1階と部屋を行ったり来たりしている


足を揉みながら上体を起こして、朝食が用意されるのを眺める


こっちの人は筋肉痛にならないのかと、ホントにタフな人達である



「そうだ、部屋が借りれないかミリアさんに聞こうと思ってたんだ」


朝食食べてたら唐突に思い出した



「昨日のお昼に聞きました、この町では貸し部屋はないそうです」



「そうなんだ、残念だな」


「じゃー家は買えないのかな?」



「領民になると家が持てると司祭様が言ってました」



「領民になるにはどうすればいいかわかる?」



「領民の人と結婚すればなれると司祭様が言ってました」


「あとは名主様か領主様に気に入られると領民になれると聞きました」



「そうなんだ、ありがとう」


「あと…筋肉痛大丈夫?」



「筋肉痛ですか?筋肉が痛くなるんですか?」


アイリちゃんは不思議そうな顔をする



「うん、なんでもない」




キャラバンのお風呂に行ってアイリちゃんと洗いっこ、色々とスッキリする


公衆浴場でフルーツ果汁入りミルクを正しい作法で飲む



アイリちゃんは教会の長椅子で神様にお祈り


俺は司祭様に聖水を3つお願いして、料金という名のお布施をお渡しする



教会でミリアちゃんと合流して朝市で昼食の買い物


リンゴ3つと燻製肉1キロとレタスとトマト3つとライ麦パンを3つ


さらにチーズと香辛料を購入する



荷物をもって宿に戻って支度をする


宿でおかみさんに水筒に煮出し茶を入れてもらう…サービスしてくれた


武器と防具を装備して、干している洗濯もの以外はポーチに入れて準備完了



冒険者ギルドでミリアちゃんと合流して大麦畑のダンジョンに入る


ダンジョンにはキャラバンパーティが既に2パーティ入っている


途中の魔物も討伐されており下層のボスも戦闘なしでスルーである



下層ボス部屋でちょっと休憩である


「ミリアちゃんその剣をギルドから買い取ることはできるかな?」



「大丈夫だと思いますけど?」



「では、買取前提で話しますね」


「この先の魔物の装甲を考えると武器の強化が必要だと思うんですね」


「そこで強化しようと思います」



「え?」



「お借りしても?」



「あ…はい?」


ミリアちゃんはおずおずと剣を俺に渡してくれる



剣をお借りして集中する


風…風…剣に纏わりつく風…流れる大気…切り裂く風…スパっと裂ける刃…風の刃



”風よ、切り裂く風、鋭き刃、虚空の風、永久の宿、魂の承允”



(”風よ、切り裂く風、鋭き刃、虚空の風、永久の宿、魂の承允”)



剣が淡く光る、刀身に風の文様が浮かぶ



「”鋭き刃、虚空の風”です、唱えてみてください」


ミリアちゃんに剣を渡す



「え?はい?」


「”鋭き刃、虚空の風”」


瞑想してから唱える


剣の刃に風の波紋が浮かび上がる


ミリアちゃんが剣を振ると薄く波紋が伸びるように見える



「凄い」


手で口を押えて剣を振ったポーズで固まっている



この間にアイリちゃんの短槍の強化を行う


アイリちゃんにも呪文を教えると穂先に風の波紋が浮かぶ


アイリちゃんが槍を振るうと穂先の波紋が薄く伸びる



「マサト様、凄いです…魔法使いです」


尊敬の目で尻尾パタパタである



「マサト…さん…これは…本当に…凄いです」


「本当に…魔法使い…です」


ミリアちゃんはいまだにショックから立ち直れていないようである



「内緒ですよ」


口に人差し指を当てる、恥ずかしいポーズを取ってしまった



「もちろんです、はい」


尻尾パタパタが最高潮である



「はい」


固まったままのミリアちゃんはもう少し時間が必要そうだ



バックから飴を出してミリアちゃんとアイリちゃんに手渡す


水筒からお茶を入れてしばし休憩する




さて…1週間ほど毎日朝から夜までダンジョンに潜りましたがあまり進展がなかった


中層は甲虫と状態異常の蛾と蜂である


蛾と蜂はバーストで叩き落してから叩くので問題は無かった


甲虫相手も装備を強化したのでサックサクであったが、しかし上層に進めていなのだ


そろそろ宿泊も視野に入れないとなのである




宿屋「あの夏の熊街道亭」



朝、アイリちゃんが洗濯物を干すのをベットの中から眺めている


洗濯物を干し終わるとテーブルと椅子をそろえて扉から出て行く


開けっ放しの扉から朝食を持って運んでくる


尻尾をパタパタと振りながら、テキパキと支度している


朝食の支度が終わるとベットの傍らに来る



「あれ?マサト様起きてたんですね」


「おはようございます」


俺の顔を覗き込んで笑う



「うん、見ていた」


アイリちゃんを抱き寄せて俺の体の上に転がす


キスをする


唇を重ねた後、薄く弾力のある唇をペロっと舐めてから上体を起こす



「おはよう」


アイリちゃんを立たせてから藁布団のベットを出る


さて、起きるとしよう



「今日は1日お休みだけど何かしたい事ある?買いたいものとか?」



「タニアさんとサーニャさんの所に行くです」



「防具取りに行かないとね、ついでに修理もしてもらおう」


「他には?」



「エルネさんにもあいたいです」



「そうだね昼に行こう、他は?」



「あとは、大丈夫です」



朝食を終えて1階の食堂に食器を返却する


食堂には冒険者風のパーティが何組かいた



「ごちそうさまです、食器置いておきますね」



「あいよ」


おかみさんがカウンターを出てやってくる



「あと宿泊を10日延長と水筒にお茶お願いします」



「あいよ金額は前回と一緒でお茶はサービスだよ」


「ところで、大麦畑のダンジョンが人気だそうじゃないかい?」


「いままで誰も見向きもしなかったのにねえ」


「ダンジョン目当てで冒険者がチラホラやってきてるよ」


「あのダンジョンはそんなに稼げるのかい?」


「そういや、あんたも初日から個室に泊まっていたわよねえ」


「うちとしちゃ客が増えて嬉しい限りだけどねえ」


おかみさんが一方的にしゃべりまくる



「あがったぞー」


厨房から旦那さんの声が聞こえる



「あいよー」


「あんたらも後から来た連中に負けるんじゃないよ」


バンッと背中を叩かれる



「はい、ありがとうです」



おかみさんに言われてみれば冒険者風の人達が増えてきている


中央広場の朝市にも何人か見かける


キャラバンでも何人かの冒険者が買い物をしている、店も増えている気がする


いつものハンチング帽にチョッキの男に聞いてみる



「最近冒険者が増えて、それ目当てのキャラバンが来たんだよ」


「これは噂なんだがな」


「”大麦畑のダンジョンから魔法の武器が出る”らしい」


「さすがはうちの親方だ、金のニオイを嗅ぎつけたんだろう」


「こりゃ当分はここで商売を続けると思うぜ」


「おっと、風呂だろ?」


「2人で銅貨21枚の所を銅貨20枚でいいぜサービスだ」


手を前に出して支払いの催促だろうか?



「え?さらに値上がりしてるじゃないですか?」



「需要と供給ってヤツらしいぜ、親方の指示なんでな…わりいな」


「その代わりいつもの長湯は構わないよ、俺たちの仲だしな」


ニッコリ微笑んで手をクイクイ動かしている



「りょうかい、銀貨2枚で」



「まいど、ごゆっくり」



それならばと、アイリちゃんと時間をかけて洗いっこ…色々とスッキリする



公衆浴場でフルーツ果汁入りミルクを正しい作法で飲む


飲みながら周りを見てもやはり冒険者が増えてる


中央広場につながる橋の下の洗い場でも洗濯している冒険者が見える


増えた冒険者を見ながら考える



”大麦畑のダンジョンから魔法の武器が出る”


この噂の出所はキャラバンの親方だろうと


ダンジョン内で新たに強化した武器を見たのであろうと


本当に出れば良し、出なくても商売で稼ぐつもりなのだろう


流石は商売人という所なのかもしれない



容器を返却して教会に向かう


アイリちゃんは教会の長椅子で神様にお祈り


おれは隣で教会に来ている冒険者を眺める



「あの、マサトさん」


背後から声を掛けられる、振り向くとミリアちゃんである



「おはようございます」


体ごと振り返ってあいさつする



「おはようございます」


「あの、一緒にギルドにきてもらえませんか?」


ミリアちゃんが胸の前で両手を組み上目遣いで俺に祈りを捧げている




冒険者ギルドは小さな役場の様な感じである


小さな町に相応しい広さであり、冒険者の数もそれなりである


しかし今日は室内には結構な数の冒険者が居た


この町にしては大盛況な数である


カウンターの女性職員が戸惑いながらも対応している



ミリアちゃんに引っ張られてカウンターの中を進む


カウンター奥の部屋に扉を開けて入る



部屋の中にはギルド長とネイサンさん達とリヨンさんがいた



「よう、久しぶりだな」


リヨンさんはジュルク村のまとめ役で元は冒険者である



「はい、おひさしぶりです」


ジュルク村を出て2週間ほどだが、とても懐かしく感じる



「聞いたぞ、偉く可愛い子を手に入れたんだって?」


「紹介しろよ、その子か?」


俺の後ろのアイリちゃんをみてから俺を見てニヤニヤする



「犬人族のアイリといいます」



「アイリと言います、初めまして」


俺に隠れながら、おずおずと会釈する



「おう、初めましてよろしくだ」


リヨンさんは俺越しに覗き込んで笑う



「そろそろいいかな」


冒険者ギルド支部長のカミーユさんが声を掛ける



「おう、すまねーな」


リヨンさんがカミーユさんの方に振り返る



ネイサンさん達はコッソリおれに手であいさつしてくる


軽く会釈して挨拶を返す



「ミリア、カウンター業務を手伝ってあげてください」


「あと、その子に待っている間に飲み物を」


カミーユさんが促す



「はい…アイリちゃん、いきましょ」


いったんためらってから返事をする


アイリちゃんを連れて扉から出て行った




「さて…マサト君、何をしました?」


カミーユさんが俺に質問を投げかけてきた






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