第10話 大麦畑のダンジョン.1
扉が閉まる音で目が覚める
まだ部屋は薄暗い
傍らで寝ていたはずのアイリちゃんが見当たらない
あれ、夢じゃないよね?
居たよね?
服を着て1階の食堂に下りる
宿屋「あの夏の熊街道亭」
カウンターのおかみさんに話しかける
「すいません、アイリ…犬人族の女の子知りませんか?」
「おや?あの子はアイリちゃんって言うのかい?かわいい子だね」
「今は裏の井戸にいるよ」
「朝飯はどうするね?部屋で食べるかい?」
「はい、お願いします」
2人分の代金を渡す
「おや、あの子にも同じものでいいのかい?やさしいね」
「できたら呼ぶから、取りに来な」
「はい、お願いします」
部屋で布団を元に戻して荷物の片付けする
アイリちゃんが洗濯から帰ってきてキョロキョロしている
「どうしたの?」
「あの、干す所が」
「あ…ごめん、貸して」
洗濯ものを受け取り、窓の外で硬く絞りながら考える
どうするかと
新しく買った緑色の紐の付いたポーチを出す
時間停止のアイテムバック欲しいよな
ポーチのの中を覗き込む
ポーチの中が広がるイメージ…ポーチのの中が大きくなっていくイメージ…広がっていくイメージ
ポーチの中の空間が広がり、中に入るモノが小さくなっていく…スゥーっと縮小されるイメージ
ポーチの中の空間が固定されるイメージ…硬くなっていくイメージ…ピタッと止まるイメージ
空間が広がり物が縮小されコーティングされて固まり時間が止まるイメージ
”増殖される領域、物質の累減、時の忘却、万象の理の寂滅、現象の創成”
(”増殖される領域、物質の累減、時の忘却、万象の理の寂滅、現象の創成”)
緑色の紐の付いポーチが淡く輝く
「今の光は何ですか?」
アイリちゃんが開けっ放しの扉から朝食を持って入ってくる
「んー、何でもないよ」
緑のポーチに洗濯物を入れてから黄色のポーチに入れる
「朝食ありがとう、食べよう」
「はい」
尻尾をフリフリ、テーブルに朝食を並べている
一緒のテーブルに着いて、朝食をいただく
燻製ウサギ肉と野菜のミルク煮とライ麦パンである、リンゴも付いてきた
モソモソ食べてるアイリちゃんを眺める
部屋を借りて暮らしていくのもいいかな、などと考える
「マサト様、どうしました?」
「部屋を借りるのもいいかなと考えてて」
「わたしは何処でも大丈夫ですよ」
「部屋を借りるのはどうすればいいのかわかる」
「ごめんなさい、わかりません」
しょぼーんである
「あー大丈夫、誰かに聞いてみよう」
「はい」
食事を終えて食器をもって1階の食堂に行く
「おかみさん、ごちそうさまです」
「あいよ、カウンターの上にでも置いておいておくれ」
「おかみさん、何日か前払いで泊まりたいんですが?」
「何日くらいだね?」
「取りあえず…10日ほど」
「あの部屋でよければ金貨3枚だよ」
「では、お願いします」
「あいよ、10日間は朝食をサービスするから毎朝取りに来な」
「ありがとうです」
「アイリ、俺とはぐれたら宿に戻るんだよ」
「はい、わかりました」
頭をナデナデする
それでは風呂に向かう
中央広場に朝だけやっている公衆浴場は有る
入り口の人に奴隷が入っても大丈夫か聞いたら断られた
どうしても奴隷を入れるなら昼前位の閉店後ならいいと言われた
なので
お高めだがキャラバンのお風呂に行くことにする
いつものハンチング帽にチョッキの男に声を掛ける
「風呂2人で」
「2人なら銅貨12枚だよ、石鹸と手拭いは店で買ってくれ」
「ありがとう、キャラバンは何時までいる予定です?」
「ん~明日出発予定だったんだが…何故だか当分この町にいるらしい」
「親方の考えはわかんねーな」
「ほー、それは俺は助かるね」
銅貨12枚払って薪を1束もらう
お風呂でアイリちゃんと洗いっこして、色々とスッキリである
ついでに服の洗濯も残り湯で済ませるとする
宿に戻る途中の共同浴場の前に売っているフルーツ果汁入りミルクを買う
アイリちゃんに腰に手を当てて一気に飲む作法を伝授する
容器を返却して戻るとアイリちゃんは両手を胸の前で組んで目をつぶっていた
その姿を見ていたら俺に気が付いてニヘヘと笑う
そんなに美味しかったのかと考える
流石は風呂上がりのフルーツ果汁入りミルクだと納得する
「風呂上がりの定番にしようね」
「はい」
嬉しそうである
宿に戻って洗濯物を干して
装備をアイリちゃんに渡して装備させる
「あれ?防具と盾は何処にありました?」
「隠してあったんだけど、隠し場所は秘密だよ…今度教えるね」
「はい」
アイリちゃんは頷いて武器と防具を装備する
冒険者ギルド
小さな役場の様な広さである、何人かの冒険者が依頼掲示板を見ている
小さな町である冒険者も依頼も少ないようである
カウンターの前ではミリアちゃんが頬を膨らませて待っていた
「お待たせしてすいません」
「お待たせしました」
アイリちゃんもぺこりと頭を下げる
「楽しそうでいいですねっ」
すねているミリアちゃんもとても可愛い
「そんなこと言わないで、さあ行きましょう」
「ところで、マサトさん」
「彼女の胴と脚の装備は?」
「できるのが10日後なのでこれで」
「そんな訳にはいかないです、待っててください」
小走りにギルドのカウンターの奥に向かう
しばらくして革のジャケットを持ってくる
「では、防具が出来るまでこれを来てください」
「返すのは防具が出来てからでいいです」
「前々から思っていたんですが」
「マサトさんは軽装過ぎます、何かあってからでは遅いんですよ」
「しかも、こんな可愛い女の子にまで軽装させて」
「傷でも残ったらどうするんですか」
「すいません」
「わかればいいのです、わかれば」
「アイリちゃん、あなたはわたしの後ろから出ないでね」
「大丈夫です、あなたは私が守りますからね」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる、ふさふさの大きな犬耳がパフンと揺れる
急におねーさんキャラになったミリアちゃんである
アイリちゃんを連れてさっそうと進む
「マサトさん、置いていきますよ」
振り返り、おっしゃいます
「はい、いまいきます」
耳がピコピコ、尻尾フリフリ
ミリアちゃんと楽し気に会話するアイリちゃん
時折2人ともこちらをチラチラ振り返る…可愛いものである
この世界来て良かったーなんて考える
大麦畑のダンジョン
ブレオテの町の南門を超えて広場を超えて…大麦畑の中
地下に向けて大きな穴が開いている、ダンジョンの入り口である
木でできた足場の入り口に騎士が1人立っている
槍を持って腰には両刃の直刀、半円筒型の盾は立てかけている
フルプレートの鎧に騎士団の紋章の入ったサーコートを身に着けている
「ミリアちゃんおはよう」
「今日も入るの」
「毎日頑張っているね」
「今日もミリアちゃんの他に入る人は居ないようだよ」
「俺は明後日非番なんだけど遊びに行かない?」
「綺麗な景色のいい場所知ってるんだ」
「食事も予約するよ」
「たまには休んだ方がいいよ」
「ミリアちゃんの体が心配なんだよ」
などなど、若い騎士の男はウザい事をミリアちゃんに話している
「はいります」
俺は絡まれたくないのでアイリちゃんを連れて先に入る
アイリちゃんも会釈して俺に続く
「はい、ありがとうございます」
笑顔で騎士に答えてミリアちゃんも後に続く
ダンジョン内は壁や天井がほんのりと明るく薄暗い
こちらの人達は大丈夫なようだが俺には少し暗く感じる
アイリちゃんは耳をピコピコさせて鼻をクンクンさせている
「進みます」
ミリアちゃんは剣を抜き、盾を構えて進む
しばらく進むとミリアちゃんが立ち止まる
「スラッグ2」
「いきます」
アイリちゃんがゴクリと唾をのむ
1メートルほどのナメクジが2体ノソノソと這っている
ミリアちゃんは盾を構えて近づき、右のナメクジを切りつける
切られたナメクジはのたうち、ミリアちゃんは数歩下がる
左のナメクジはミリアちゃんに追いつけずにいる
ミリアちゃんは踏み込んで上段からナメクジを断ち切り
さらに2度ほど上段から打ち下ろし、ナメクジを魔石に帰る
のたうつナメクジの動きを確認して数歩すすみ上段から剣を振り下ろす
もう一度剣を振り下ろすとナメクジは魔石に変わり戦闘終了である
「アイリちゃん、最初は傷ついた敵に止めを刺してね」
「でも、無理をして近づかないようにね」
「はい、頑張ります」
槍をギュッて握りしめる
さらに続いてナメクジである
「スラッグ2」
「いきます」
ナメクジが2体ノソノソと這ってくる
ミリアちゃんが盾を構えて踏み込み上段から右のナメクジを切りつける
数歩下がってから前に踏み込んで左のナメクジを上段から切りつける
アイリちゃんはミリアちゃんの邪魔にならない位置から右のナメクジを突く
ミリアちゃんは上段から2度ナメクジに剣を振り下ろし魔石に帰る
アイリちゃんは槍を数度突いてナメクジを魔石に変える
「やった」
アイリちゃんは嬉しそうである
「うん、よくやった」
頭をナデナデ褒めるとする
「アイリちゃん、その調子です」
ミリアちゃんも褒めてあげてくれます
アイリちゃんは興奮して尻尾フリフリである
午前中はナメクジエリアを徘徊して狩りまくった
収穫は8匹であった…そして気が付いた
人数が増えれば1人当たりの取り分が減るのだと
1人2人なら美味しい狩場も人が増えると美味しくいただけないのだと
食堂「ねこ×3のにくきゅう亭」
お昼の食堂は混んでいた、テーブルも8割方埋まっている
冒険者以外にも商人や町の人の姿も見える
表から入りエルネちゃんに声を掛ける
「エルネちゃん、オススメ3つを裏庭でお願いします」
「よろこんでっにゃ」
伝えてから店内を通り裏口から出る
小さな裏庭には井戸の横に木のテーブルと椅子が置いてある
ミリアちゃんとアイリちゃんと3人で座る
エルネちゃんはマグカップをもってやってくる
テーブルに3つ置いてアイリちゃんとミリアちゃんに声を掛ける
「いらっしゃいにゃ」
「アイリちゃんはもう大丈夫にゃ?」
「ミリアにゃんは負けてちゃダメなのにゃ」
などど言って尻尾ユラユラ店内に戻っていく
「エルネったら、もう」
「アイリちゃん、何かあったの?」
「何かあったら相談してね」
「何でも相談乗るからね」
ミリアちゃんは今日はずっとおねーさんキャラなのかと
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
「相談したいことできたら、お願いします」
アイリちゃんも嬉しそうにお話ししている
「お待たせにゃ、本日のオススメにゃ」
本日のお勧めのスモークサーモンのマリネとライ麦パンを運んでくる
午後のダンジョンはナメクジとヒルのエリアで周回である
ヒルは口があり噛まれると痛いが動きが遅いので楽である
上から落ちてこなければだが
「リーチ2」
「いきます」
ミリアちゃんは近い方から必ず切りつける
足止めも兼ねているようである
左のヒルを切りつけ数歩下がり右に回り込みながら右のヒルを突く
切られたヒルはのたうちギュィーみたいな声を上げる
切られたヒルは左に回り込んだアイリちゃんが槍で突き刺す
右の突かれたヒルはミリアちゃんの剣で数度切られ魔石に変わる
アイリちゃんの4度目の突きでヒルは魔石に変わった
「ところで、ヒルって上から落ちてくるものじゃないの?」
「もしくは水たまりみたいな、水中?」
「ここのヒルは天井から落ちてこないの?」
ふと疑問に思って聞いてみた
「このダンジョンのヒルは天井に居ますよ」
「なので落としてから戦闘しています」
ミリアちゃんが答える
「えっ?見えてるの」
薄明りの中、天井までは3メートルはある
「天井も薄く光ってますから、光っていない居場所にヒルがいます」
「あーなるほど」
ネイサンさん達が実力は有ると言っていたのを思い出す
「わたしはニオイでわかります」
アイリちゃんは得意そうにいう
自身が付いてきたようだ
「ほう、ニオイでわかるって言うのはどんな感じなの?」
犬の嗅覚も疑問である
「わたしの場合はニオイの紐が見える感じなのかもです?」
「ニオイの元は毛糸玉みたいでそこから毛糸が伸びている感じです?」
「そしてその匂いに感情とか思いというかそういうのが入ってるのかな?」
「好きとか嫌いとか…そんな感じです?」
アイリちゃん自身ががわかるようなわからないような説明をする
「わかったような気はする、ありがとう」
そして次に登場するのはダニである
「ティック3」
「いきます」
1メートルほどのダニが3匹である
ミリアちゃんが左と真ん中のダニを盾で弾き、右のダニを突き刺す
ミリアちゃんは後ろに下がると、ダニは起き上がり真っ直ぐ突き進んでくる
もう一度左のダニを弾き飛ばし、右のダニにカウンターを合わせる…が
突き刺すことはできずダニの表皮を裂くだけでダニは真っ直ぐ突き進む
ミリアちゃんは身をかわし、再度向かってくる左のダニを盾で弾く
突進を続けるダニはアイリちゃんの正面に来る
アイリちゃんは槍で突き刺そうとするが…当たらない
槍を抜けてアイリちゃんのお腹に口の針を突き刺そうとするダニを
風魔法のカッターで真っ二つにする…魔石に変わる
アイリちゃんは後ろに飛び下がり、肩で息をしている
ミリアちゃんは左のダニを魔石に変えて、右のダニの止めを刺す
「ごめんね、アイリちゃん大丈夫?」
ミリアちゃんが声を掛ける
「い,いま…ダニが…刺さるって…刺さるって思って」
プルプルしながら、目が点である
いままさに尻尾が股の間に巻かれている
今日はここまでであろうか
「では、休憩してからもう少しココで頑張りましょう」
「怖いままだと、この先戦えなくなっちゃうので」
「ねっ、アイリちゃん…もう少し頑張ろう」
ミリアちゃんが励ます
アイリちゃんが俺の方を見るので
「ちゃんと守るから大丈夫だよ、頑張ってくれないかな?」
頭をナデナデして応援する
「マサト様がそう言うなら、頑張ります」
尻尾が巻かれたままだが頑張ってくれるようである
その後ダニを克服できるまで狩り続け
今日は珍しく、帰り道で冒険者の一団を見かけた
今日の成果は6階で28匹であった
今日は3人なので1人9個とあまり1
メンパーを入れないと先に進めないし
メンバーを入れると稼がないといけない
さらに、他のパーティが居ると討伐数が減る
あたり前だが改めて気づかされる真実である
ダンジョンの後に防具屋に向かうことになった
ミリアちゃんからアイリちゃんの防具の催促である
ダニの件が有ったので仕方がない
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