第6話 ブレオテ町.2
武器防具屋の向かい、雑貨屋にはいる
品物を眺めていると声を掛けられる
「ご入用の雑貨は何ですかな?」
子供程の体格で頭の上に鼠色のまーるい耳を持つ心持ち口が尖った
前歯が特徴的な鼠人族のオジサン、鼻眼鏡がキラッとしている
獣人は思ったほどレアではなく町で度々見かけた
獣の風貌の着ぐるみ系から耳と尻尾だけのコスプレ系まで
様々な種類の獣人が存在しているようである
「お勧めは冒険者セットですよ、お安くなっておりますよ」
「冒険者1人に冒険者セット1つは今や常識です、お1ついかがです?」
「いくらです?」
「金貨1枚の破格のお値段です!」
「たかい」
「いえいえ、ランタンに油とロープと火口箱に簡易調理セッt」
「いや、いいです」
「ならば銀貨5枚の冒険者セットはいかがでしょう?」
「こちらは松明にロープと火口箱に簡易調r」
「いや、高いですって」
「ならば、銀貨1枚セットはいかがでしょう?」
「内訳は?」
鼠人族のオジサンの小さく細い目がキラッと光る
「松明にロープに火口箱にカップです、大特価です!」
「んー、考えます」
考えながら奥の棚に向かう
単品で買う値段を見てみると銀貨2枚になる、50%オフではある
これならいいかと、セットの品をもって鼠人族のオジサンの所に行く
「それではこれで」
銀貨1枚渡す
「それは銀貨2枚ですよ?」
「冒険者セットですよね?」
「いえ、冒険者セットはこっちですよ?」
店の隅に置かれた箱の中に入っているセットを指さす
小さい松明に麻のひも、小さい手元まで金属のマグカップ
金属部分の少ない火打鉄と小さい火打石、ガタガタの火口箱
詐欺に近いが…逆によく作ったと、作る気になったと感心する
「なら、いいです」
荷物を渡して銀貨を返してもらい、店の外に出る
鼠人族のオジサンは何か言ってたが気にしない
まわりを見渡して雑貨屋の隣に古着屋を見つけたので中に入る
中を見ると古着屋と言っても冒険者の古着屋のようである
雨や防寒のコートや冒険者用の洋服に毛布などの寝具
大小の背負い鞄に肩掛け鞄、巾着型の小物入れも売っていた
下着も売っていたが中古は無くお高めである
自分は村人の格好で肩掛け鞄である
前世のジャージやサンダルや下着は鞄の中にしまっている
予備の服や防具をしまう鞄とさらに毛布など必要なもの考える
結構な大荷物だな
(シス、空間収納とか魔法の鞄は無いのかな)
(はい、空間収納はわかりませんが魔法の鞄は存在します)
(空間収納は有るか無いかわからないのか)
(いえ、空間収納がどのようなモノかわかりません)
(ああ…えーっと、亜空間に品物を格納してだね)
(そして、好きな時に好きな場所で自由に出し入れできる魔法かな?)
(んー、魔法の袋の袋が無くても荷物が運べる魔法というのかな?)
(そんな感じなんだけど)
(空間魔法の一種でしょうか、東雲真人様なら出来ると思います)
(出来るんだ?)
(はい、イメージと呪文ですので)
店の外に出て石を拾って塀に腰かける
イメージ
イメージ?
亜空間のイメージって何だろう?
青い猫のポケットの中は何処にあるんだろう?
亜空間は何処にあるんだ?
空間はわかる、目の前の空間…鞄の中の空間、ポケットの中の空間
自分を中心に半径5メートルの空間…空間はわかる、うん
亜空間てなんだ?
この空間と違う空間…亜空間を作る?
イメージが出来ない
試しに鞄の中を覗き込む
鞄の中が広がるイメージ…鞄の中が大きくなっていくイメージ…モワーンっと広がっていくイメージ
鞄の中の空間が広がり、中にに入っているジャージやサンダルが小さくなっていくイメージ
”広がれ、広がれ、垣根を越えて、縮め、縮め、粒となれ、万象の理の寂滅、現象の創成”
(あれ?これは?)
(シス、呪文が浮かんだんだけど?)
(試してみてはいかがでしょうか?)
鞄を見て浮かんだわけで、鞄に使ってみる
(”広がれ、広がれ、垣根を越えて、縮め、縮め、粒となれ、万象の理の寂滅、現象の創成”)
鞄が淡く光った気がした
鞄を覗いてみても変わらない?
(シス、光ったけど変わらないようだけど?)
(いえ、空間拡張の魔法が掛かっています)
ん?
試しに石を入れてみる…が、普通に入る
ん?
小手を入れてみる…と、小手は入るが…中身が縮小したように見える
もう1個の小手を入れてみる…さらに、中身全体が縮小されて入っている
ほう
盾と脛当てと帽子も居れる…全部入って、縮小されて見える
手を入れて触ると大きさは元のままだ…さらに、重さも増えてない
うん、これはこれは…うん、魔法だ
古着屋に戻る
旅の服と下着2つと靴下2つとポーチを3つを購入する
外に出て塀のそばでポーチ3つに拡張魔法を使う
赤い紐飾りのポーチに武器と防具を入れる
青い紐飾りのポーチに洋服や雑貨を入れる
黄色い紐飾りのポーチに鞄とお金袋と赤青のポーチを入れる
黄のポーチは腰に革紐で巻き付ける
こんなものかな?
夕食まで町をブラブラする
夕食の頃合いに食堂に有りるとネイサンさん達は既に飲んでいた
食堂のテーブルは半分ぐらい埋まっていた
客は冒険者風の人ばかりである
「おーい、マサトこっちだ」
ネイサンさんがジョッキを片手に腕を振る
「夕食お願いします、あとお茶はいくらです?」
おかみさんに銅6枚渡して聞く
「あいよ、食事を取るならお茶はサービスだよ」
マグカップに作り置きの煮出し茶を入れて渡してくれる
「お待たせしました」
テーブルを詰めて入れてもらう
「おう、待ってたぞ」
「好きに飲んで食ってくれ、今日は祝いだから」
「ありがとうございます」
ネイサン達の酒宴に付き合いながら夕食を食べる
ブレオテの町はどうだとか
冒険者をやっていくうえで知りたいことは有るかとか
色々聞かれたので、色々質問させてもらった
「大麦畑のダンジョンはどうです?」
「あーあそこはな…なんていうか、行きたいところじゃないな」
他の3人もうなずく
「虫は矢が通りにくいんだよな」
ディノさんが嫌そうな顔をする
「いや、両手剣も弾くからな」
ニックさんがテーブルマナー正しく肉を口に運ぶ
「それ以前だろ、食事中に思い出したくないだろ」
アーティさんが吐きそうな顔をする
「確かに」と3人うなずく
「しかし、行かねばならない」
ネイサンさんが眉間に皺を寄せる
「またか」
「他の町にいこう」
「にげよう」
他の3人は口々に呟く
「それでなんだが、マサト…明日の早朝に冒険者ギルドに来てもらいたいんだ」
「行く予定です、ダンジョンのパーティを紹介してもらえるとかで」
「そうか、先約があったか…残念だ」
「すいません」
「いや、大丈夫だ…しかし、ダンジョンのパーティ募集なんかあったのか?」
「ミリアさんという戦士の人のようです、募集票を見ました」
「そうか、なら問題ない…しかし、お前が虫が大丈夫でよかったよ」
「いえいえ、見てみないと…駄目そうならパーティも断ろうと」
「そうか、まっ…なる様になるだろ」
早朝に食事を取って宿を出る、ネイサンさん達と一緒である
この世界の人は朝が早い早すぎる
うす暗い中、寝ているところを起こされ
井戸で身支度を整えて、朝食を取り
公衆浴場で風呂に入り
冒険者ギルドに着くころには町に活気も出始める
冒険者ギルドに着くとギルド長と少女が待っていた
身長は俺より低い、年の頃は18歳か19歳頃まだ幼さが残る綺麗な顔立ちである
亜麻色のウエーブの掛かったゆるふわっとした髪が肩くらいで切り揃えられている
冒険者がよく着る厚地のシャツとパンツの上に防具を付けている
胸の部分がとてもとても大きくせり出した硬革に金属板で補強されているビスチェ
チャップスと小手とブーツとヘルメットも硬革に金属板で補強されている
片手用細身両刃直剣と縦長逆5角形の金属で補強された木盾を装備している
全体的に華奢に見えるのだが、この装備でも動きはスムーズである
冒険者ギルドの支部長と女の子にネイサンさんが話しかける
「お待たせ、行こうか」
支部長が頷き少女が前に出る
少女の名前はミリアというらしい
大麦畑のダンジョンを踏破を希望している
支部長のお兄さんの娘さんで騎士見習い
それでネイサン達が一緒にダンジョンに潜る
ディノさんが道すがら教えてくれる
大麦畑のダンジョンの入り口の騎士にネイサンさんが話しかけてる
許可が出たようでダンジョンに入る
ダンジョンの中は薄暗いが、灯りは付けないようだ
戦闘はミリアちゃんでその後ろにネイサンさんその後ろに俺
俺の左右にディノさんとニックさんで後ろにアーティーさんである
ミリアちゃんは喋らない、剣を抜き盾を構えながら前進している
真っ直ぐな道を右に曲がったところでミリアちゃんの動きが止まる
「スラッグ1」
ミリアちゃんが後ろに宣言する
「りょうかい」
ネイサンさんが答える
「いきます」
ミリアちゃんは盾を構え正面から1メートルほどのナメクジに近づく
ナメクジは縮んでいた状態から体を伸ばしてミリアちゃんに圧し掛かる
盾でナメクジを左に受け流し、上段から剣で腹を裂く
ナメクジはその場でもがくがミリアちゃんは盾で体を庇いながら剣を突き立てる
5回ほど刺したところでナメクジは魔石に変わった
ネイサンさんが魔石を拾う
「よし、次だ」
「はい」
ミリアちゃんは答えて先に進む
なんだ?この空気は?訓練なのだろうか?
ネイサンさん達はこんな重いキャラじゃない
なんだこれは?訳が分からない
「スラッグ2」
ミリアちゃんの声が聞こえる
「りょうかい」
ネイサンさんが答える
「いきます」
ミリアちゃんは左のナメクジに盾を構え右のナメクジに剣を向けながら近づく
左のナメクジは縮んでいた状態から体を伸ばしてミリアちゃんに圧し掛かる
盾でナメクジを左に受け流がす、右のナメクジも体を伸ばして圧し掛かる
ミリアちゃんはは右のナメクジの動きに合わせて踏み込み剣を正面から打ち下ろす
ナメクジの体を1/3ほど切り裂き、数歩後ろに下がり盾を構える
切られたナメクジはその場でウネウネしている
左のナメクジはミリアちゃんに圧し掛かるが盾で右に受け流される
受け流しながら左に回り込みナメクジの背後から剣を打ち下ろす
さらに左回りで奥のナメクジに近づぎ剣を2度振り下ろす
ナメクジが魔石に変わると残っているナメクジの止めを刺す
途中で休憩を挟んで全部で6戦ナメクジを8匹ほど倒した
ミリアちゃんを冒険者ギルドに送り食堂に戻って昼を食べながら話を聞く
宿屋「あの夏の熊街道亭」
「あの…あれは一体?」
「ああ…早い話が諦めさせたいんだよ」
ネイサンさんが眉間に皺を寄せて話す
ミリアちゃんのお父さんは冒険者ギルドの支部長の兄で有ると
元々ネイサンさん達の先輩で、リヨンさん達の同期の冒険者であったと
ダンジョン攻略の武功でこの土地の領主の騎士団に取り立てられたと
曲がったことが嫌いな頑固な漢だったと
3年前のダンジョン討伐の時に30階層の最終ボスに殺されたと
母親は子供のころに死んでおり、孤独の身であると
他の3人も声を漏らす
「実力はあるんだがパーティメンバーが居ない」
「俺たちもずっとついていられないしな」
「このダンジョンじゃなきゃパーティも組めるんだろうが」
「あぁこのダンジョンでなければな」
アーティーさんがため息を漏らす
「でも、これで6人ですよ」
ネイサンさん達が答える
「あぁ…そうなんだがな、ぶっちゃけ最終ボスを倒せる気がしないんだよ」
「キラーマンティスのランクC」
「あぁ…あれはヤバい」
「感情の無いリーチの長い居合の達人と戦うのはゾッとしないな」
「領主が本腰を入れて騎士団つぎ込んでくれればな」
「あぁ…数で押すしかないな」
「と、言うわけでお前に任せようと思ってな」
「ミリアはパーティメンバーが増えるし、お前には経験になる」
「俺たちは虫ダンジョンに潜らなくていい、みんな幸せだろ?」
ネイサンさんが話をまとめようとする
「ダンジョンの討伐は?ミリアさんの気持ちは?かたき討ちですよね?」
「しかしなあ、俺らだけではキラーマンティスには勝てないしな」
「勝算が有るなら協力するが、それまで付き合う事はできない」
「他で仲間を集めて、倒せる算段が付いてから戻って来る提案もしたんだが」
「ここ以外のダンジョンは入る気がないと」
「カミーユも度々領主に申請してるんだがな」
ネイサンさんもお手上げと言いたげである
「カミーユとはどなたです?」
「名乗らなかったか?、冒険者ギルドの支部長の名前だよ」
ディノさんが聞いてくる
「いえ」
「女の名前みたいで嫌いだと昔言ってたからな」
アーティーさんが笑う
「支部長で通じるからな」
ニックさんがぶっきら棒に言う
「そんなわけで午後からよろしく」
「討伐するときは呼んでくれ」
「討伐を楽しみにしている」
「たのんだぞ」
ネイサンさん達は嬉しそうに声を掛けてくる
昼食後に1人でギルドに向かう
カウンター前のベンチにミリアちゃんは座っていた
背中の大きな窓から入る明かりに照らし出されてとても絵画的であった
「今日から2人でダンジョンに入ることになると思います、よろしくです」
気まずいが、ネイサンさん達が来ない事を伝える
「そうですか」
「よろしくお願いします」
元気なく答える
「では、行きましょう」
とりあえず移動しようと促す
「はい」
ミリアちゃんは静かに答える
気まずい、とても気まずい
女の子に対しての話が浮かばない
ほんと…どうしよう
無言で進む
門を超えて広場を超えて…大麦畑の中
大麦畑のダンジョンに着いてしまった
ダンジョン前の騎士から声が掛かる
「ミリアちゃん午後も潜るの?」
「はい、おねがします」
ミリアちゃんと騎士の人で会話をしている
知り合いなのだろう、騎士の人が気を使ってくれているようである
「そっちの人は?」
こっちに興味を持ってきたか、当然だよね
「今日からパーティメンバーになってくれる方です」
「そうなんだ?」
朝にネイサンさんと一緒にいたのだが
「始めまして、マサトといいます…よろしくです」
「君、戦えるの?」
「ミリアちゃんの足引っ張るんじゃないの?」
「ミリアちゃんを危険な目に合わせてもらいたくないんだよね?」
「ミリアちゃんのパーティーに入ったからって調子に乗らないでね」
「コデルロスさんの娘さんに何かあったら騎士団が相手だよ?」
ミリアちゃんには聞こえないように言ってくる
気持ちはわかるが嫌な気分である
「はいはい、気を付けます」
苦笑いで答える
「では、行きましょう」
逃げるようにダンジョンに入る
「ミリアさん、すいませんが自分はダンジョンは今日が初めてです」
「ミリアで構いません、そうですかマサトさんはジョブは?」
「魔術師だと思います」
「そうですか、では後ろから付いてきてください」
チラリと俺の装備を見る
俺の装備は村人の服にリネンの小手と脛当てと帽子
左手に小手と腰に短剣である
微妙に軽戦士風の魔術師だけど良いのかな?
何も言わないからいいか
「スラッグ1」
ミリアちゃんが後ろに宣言する
「はい」
「いきます」
ミリアちゃんは盾を構え正面から1メートルほどのナメクジに近づく
ナメクジは縮んでいた状態から体を伸ばしてミリアちゃんに圧し掛かる
盾でナメクジを右に受け流し、上段から剣で腹を裂く
その場でもがくナメクジに練習した風魔法のカッターを使う
ミリアちゃんの追撃の突きと同時にナメクジを切り裂く
ナメクジは魔石に変わる
「ん?」
「いま、何かしましたか?」
違和感を感じたようである
「はい、魔法を使いました」
「そうですか」
「あ、魔石は自分が拾いますよ」
しゃがもうとしていたので先に言う
「あっはい、お願いします」
「いえいえ」
朝と同じように1階をグルグル回る、1階はナメクジだけのようである
考えたがナメクジ程度なら毎日6匹ならやれる気がする
生きるだけならではあるが、やっていけそうな気がする
今回は朝はミリアちゃんだけで8匹である、午後は2人で16匹である
なかなかの収穫である
後ろからミリアちゃんを眺めながら魔法も色々と練習できたし俺得な1日であった
何となくだが気持ちが楽になった
ギルドに戻りミリアちゃんが魔石を換金してきた
話が有るというので一度着替えて夕食を取りながら話を聞くとする
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます