第60話 水面下での動き。


『所属タレント・白石護について大切なお知らせ』


 午前0時に、シルバーフェザーの公式ホームページが更新された。


 その内容は、白石が事務所退所、引退をするというものだった。


 また、シルバーフェザー事務所は今月末付で、閉鎖すると発表された。


 所属タレントの黒瀬については、引き続きマネジメントを行うとしながらも、事務所移籍の希望があれば、全面的な協力を行うことも記載されていた。


「黒瀬、これが君の望んでいた結末かい?」


『違う』


 この騒動を朝一で知った緑川は、自身の事務所に向かう道すがら、黒瀬に電話を掛けていた。


 タクシーに乗り込み、タブレット端末でSNSのコメントを眺めていく。


 『シルバーフェザー何があったん?』


 『黒瀬くんは声優続けるんだよね』


 『最近、白石くんのファンになったばかりなのに……』


 様々な意見が止めどなく流れ続けていた。

 瞬く間に拡散されたネットニュースは、SNSのトレンドキーワードをいくつも独占し、収まりを見せそうもない。


 無論、二人を快く思わない人達がいるのも当然で、邪推した心無いコメントもいくつか見られた。


 あの時の──黒瀬が自身のラジオで発言した言葉から、何か良からぬ犯罪を犯したのではないかと憶測をまとめたサイトまで作られている始末だった。


 『とりあえず社長に話を聞きにいく。何か分かったら、俺から連絡する。じゃ』


 通話は黒瀬から一方的に切られてしまった。


 完成したパズルのピースがバラバラに崩れていく感覚に、緑川は苦虫を噛み潰した。



 ───────


「社長! どういうことだ! 白石を辞めさせたのか」


 黒瀬は荒々しい態度で社長室のドアを開け、良く通る声で言葉を紡ぐ。


「っ! セメルくん!? ……田中社長ならここにはいませんよ」


 分厚い書類の束を何冊も抱えて、驚きの表情を浮かべているのは赤坂だった。


 詰め寄る黒瀬から逃れるように、赤坂は背を向ける。黒瀬は、その左肩を無遠慮に掴むと、凄みのある声で問う。


「もう一度聞く。社長はどこだ。白石をどこへやった?」


 赤坂は黒瀬の剣幕に、気付かれないように小さく諦念の息を洩らす。


「私からは何も答えることは出来ません。……ただ、社長は……お二人の為に奔走しています」


「分かった。もういい。お前じゃ話にならない」


 赤坂の話を最後まで聞かずに、黒瀬は足早に社長室から出ていく。


 ……後少しだけ、耐えてください。二人とも。


 本当は社長の行方も、白石の行方も知っている。だが、黒瀬にはまだ言えないのだ。


 赤坂の、その心苦しさも歯痒さも、苛立ち焦燥している彼にはきっと伝わらないだろう。


 赤坂は重い書類を小脇に抱え直し、社長室を後にした。

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