第48話 信じてくれ、なんて言わない。


「んー……なるほど、いい人そう。優しそう。イケメン……。って、皆。褒めてくれるのはすごい嬉しいんだけど、実は裏表ありそうとか、性格最悪そうとかないの? いいよ、本音言っても」


 黒瀬はリスナーから届いたコメントを読み進めながら、時間差を感じさせない速度で、一つ一つ丁寧に返事をしていく。


「そっか。……俺、愛されてるなぁ」


 感慨深く呟いた後、話題を切り替えるように声のトーンを改めた。


「ここからは真面目な話。俺が皆に伝えたいのは、例えこの先何があったとしても、惑わされないでほしい。


 他人の言葉を信じるくらいなら、俺の言葉を、態度を、行動を見てほしい。それでも、もう無理だって、信じられないって思って、離れていくなら止めはしない。それが皆の選んだ答えだから」


 黒瀬の真摯な言葉に、ゆらぎは下唇を噛みしめた。これから起こるであろう騒ぎの代償を最小限にするために、彼はファンに対し、誠実に向き合いつつも予防線を張ったのだろう。


 それは、黒瀬の自己犠牲でもあり、覚悟の表れでもある。


 ゆらぎは黒瀬の言葉を最後まで聞くことが出来ずに、ラジオアプリを閉じた。


 私は先輩に何をさせようとしているのだろう。彼の大切な仕事を奪ってまで、この業界に居たいとは思わない。犠牲を払うのは私一人でいい。


 決意を固めたゆらぎは、再度、彼女──冬馬さゆ──に連絡を取るために行動を移した。

 



 ラジオ放送終了後。リスナーたちは黒瀬の言葉に疑問を覚え、SNS上では様々な憶測が飛び交い、ファン同士の衝突が起こる騒動にまで発展していた。


 翌朝になってもその勢いは止まらず、ネットニュースの見出しには『黒瀬の衝撃止まず!』と題された記事がさらに波紋を広げる。


 事務所の電話は鳴り止まず、赤坂のみでは対応が追い付かなくなり、田中社長自らも電話を手に取り対応に追われていた。


「──で、白石くんは何処に行ったのかな?」


 受話器を置いて、田中は赤坂に問いかける。

 

 そう、この数時間の間に、問題がもう一つ浮上していた。


 ゆらぎの姿が見当たらないのだ。


 赤坂が彼女に連絡を入れても、携帯の電源を落としているのか、機械アナウンスが流れるばかりだ。


「もう、……終わりです。社長」


 項垂れた赤坂の瞳に前髪がかかり、表情が見えなくなる。田中は、その横顔を見つめ、言葉をかける。


「弱気になるのはまだ早いよ。僕だってこのままで終わらせるわけにはいかない」


 珍しく苛立ちを露にした田中は、拳でデスクを叩いた。

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