第43話
「だったら、やられる前にやっちゃう?」
「は?」
黒瀬の嫌味をさらりとかわして、小悪魔的な笑みを浮かべた緑川は二人に問い掛けた。
「だーかーら。冬馬さゆって子が何かする前にこっちからアクションすればいいって言ってるんだよ」
「でも、そんなことって可能でしょうか。さゆは、私に何らかの悪感情を抱いてるんですよね? そんなに簡単に尻尾を出すとは思えませんよ」
「仮にも友人相手にすごい言い様だな」
辛辣な意見を述べるゆらぎに、黒瀬は思わず苦笑した。
「いえ。さゆの性格は、はっきりしているので、それなりに分かってるつもり……な、だけです」
「じゃあ、そのはっきりした性格を逆手に取ればいいってことか……」
「おい、二人で勝手に話を進めるな」
「黒瀬は女心には疎そうだからねー。言っても分からないかもね」
「お前だって男だろうが。女心なんて分かるわけないだろ」
「本当に可愛いね、黒瀬は。そんなことで、このボクが苦労するわけないじゃないか」
「あ? どういう──」
「あの!! いいから話を進めませんか?」
ゆらぎが止めに入ると緑川に嘲笑された、黒瀬は忌々しげに舌打ちをした。
今回のことでよく分かったが、この三人が集まると、まるで話が進まない。必ず言い争いになり、残った一人が止めに入るはめになるのだ。
全員が主張を曲げないせいなのか。
それとも、性格の不一致なのか。
おそらく、両方だろう。
「そして。この状況を変えられるのは、君しかいないよ」
「私、ですか」
「おい、緑川。これ以上白石を危険に晒すな」
「ボクだって意地悪で言ってるんじゃないよ。少しは責任感じてるんだから」
「少ししか責任感じてないのか」
「黒瀬先輩、ちょっと黙っててください。話が進まないので」
「……心配している俺に感謝はないのかよ」
「で、何か閃いたようですけど、どんな内容なんですか」
緑川に視線を向けて、話を促す。
「ざっくり案だけど、二通りある。一つ目は、君が直接冬馬さゆと接触して理由を聞き出すこと。もしかしたら、複雑な事情を抱えているのかもしれない。
そして、二つ目が双子説。実は君には双子の妹がいるって話を自分から広めるんだ。そしたら、君が男装をして声優をしているってことは、ひとまずは誤魔化せるかもしれない」
「どちらもかなりリスキーですね」
「ちょっと待て。その二つ目の双子説の時、俺はどうなるんだ? 結局売られるはめになるんじゃないのか」
「それは可愛い後輩のために一肌脱ごうよ。黒瀬先輩」
「お前にだけは先輩とか言われたくない。なんだよ。それじゃ、何も解決してないだろうが」
「一つ目は個人で動けるとしても、二つ目は事務所の力が必要ですね。勝手に双子の妹がいると触れまわるのは……」
黒瀬の抗議を無視し、ゆらぎは話を続ける。
だが、いくらなんでも先輩二人に迷惑を掛けるのはあまりにも気が退ける。
例えこの作戦のどちらかが上手くいったとして、二つ目の案では黒瀬の人気が下がるのは確実だろう。まして、相手が同じ事務所の後輩の『妹』……ということになれば、どちらにしろ、ゆらぎ自身にも火の粉が降りかかるに違いない。
それならば、少しでも安全な一つ目の案をとりたい。
ゆらぎはすでに決心していた。
「事務所に協力を仰ぐなら、僕は協力出来ないよ。事務所が違うからね。……と、言いつつ影でアシストはするけどね、バレない範囲内で」
「良いんですか? ウグイス先輩にとっては何の利益もありませんよ」
「そんなこと分かってるよ。分かってて言ってるんだよ。さっきも言ったけど、事の発端の責任は僕にもあるから」
いや、全ての元凶……。事の発端は自分自身だ。ウグイス先輩も、黒瀬先輩も悪くない。誰も悪くない。
悪かったのは、運が無かったからだ。
そう言い聞かせ、ゆらぎは緊張で渇いた口をゆっくりと開いた。
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