第25話 これが緑川の計画。

 二人はスタジオを出た後、タクシーで緑川の自宅マンションへ向かった。


 自宅に着くと、緑川は冷蔵庫の中身を確認してから、手際よく料理を作り始めた。


「……ウグイス先輩って料理出来たんですね」


「馬鹿にしてるだろ」


「馬鹿にはしてませんけど、意外で」

 

 テーブルに並べられたお洒落な料理は、全て緑川の手作りで、ゆらぎは驚きを通り越して唖然としていた。


「こんなの、盛り付けをそれっぽくすれば、それだけで、お洒落に見えるんだよ」


「へー、なるほど」


 言われてみれば、市販の物に一手間加えた料理がほとんどだ。けれど、ズボラな人間は、その『一手間』が面倒で料理とは、いかに手を抜くことが出来るかを常に考えているものだ。


「で、本題。明日のことだけど、君にはを着てもらう」


 緑川が座るソファの横に置かれているのは、いかにも高級そうなショップバッグで、黒色の紙袋の中央には、金色のブランドロゴが光っている。


「着る?」


「そう。着るの」


 私の服装があまりにも、みすぼらしいから、気を利かせたウグイス先輩が、服を用意してくれた、ということなのか。


 ウキウキとしながら、渡された紙袋の中身を確認する。


 すると、中には……。


「……え」


「どう? ボクのセンス」


 『どう?』と言われても、これはどう見ても女性物の服だ。


「あの、ウグイス先輩。前にも言ったと思うんですけど、黒瀬先輩には性別のこと、隠したままですよ」


「知ってるよ? だから、買ったんだ。明日出掛けるときに、これを着て、君が本来の姿で現れて、それでアイツが気づいたら面白いなーっと思って」


「なっ……、私で遊ばないでくださいよ! 計画ってこのことだったんですか? 子供じゃないんだから」


「これは珍しい。怒ってるね」


 ワイングラスをゆっくりと傾けながら、緑川が微笑する。


 まさか、こんな計画だとは、ゆらぎは思ってもいなかった。黒瀬に性別を明かして、緑川には何のメリットがあるのか。


「明日が楽しみだなー」


「帰ります」


 怒りが収まらずに、ソファから立ち上がったゆらぎの腕を緑川が掴む。


「ダメだよ。もう終電もない」


「なら、歩いて帰ります」


「結構な距離だと思うけど?」


 確かに、緑川の自宅から事務所まで、歩いて帰るには距離がある。


 緑川の罠に落ちた自分に悔しさが滲む。


「……悪趣味ですね」


「そう? 普通だと思うけど。それに、君は男装よりも、本来の姿の方が可愛いと思うし。ボクがその姿を見てみたいっていうのも本音」


「本来の姿って、女性の姿が見たいってことですか?」


「だから、さっきからそう言ってるんだけど」


 ……なんで? ウグイス先輩のただの好奇心?


 つまりは……どういう意味なんだろう。


「……結構、鈍いね」


「何がですか」


「いや、いいよ。これはこれで面白いし」 


 緑川は苦笑して、ワインを呷った。


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