第22話 二回目の映画観賞会。
なるほど。要するに黒瀬先輩は、パッケージ買いをしたわけですね。
黒幕が宣伝文句に惹かれたという肝心の映画のタイトルは、ゆらぎには初耳で聞いたことのない作品名だった。
おそらく、今回もまた黒瀬の好きな海外映画なのだろう。
英語を苦手とするゆらぎは、これから約二時間弱もの間、スピーカーから流れ出る英語に耐えなければならないが、緑川の我が儘に比べれば何ら苦にならない。
「赤坂さんは呼ぶんですか?」
「いや、今回は声掛けてない。最近、忙しそうだしな、赤坂のやつ」
黒瀬の言う通り、最近の赤坂は事務室で、業務をこなしているのも少なくなっていた。日々、慌ただしく時間に追われている感じで、相談事は尚更、言い出し難い状況が続いている。
今までは黒瀬のマネジメントに専念していた赤坂が、ゆらぎのマネジメントも受け持つことになり、現在は時間に余裕が無くなっているのだろう。
仕事が貰えることは有り難いことだが、彼が身体を壊してしまっては元も子もない。
「大丈夫ですかね、赤坂さん」
「んー、大丈夫だろ。あいつはそんな
話をしながら廊下を歩いていると、不意に黒瀬が立ち止まる。
「信頼してるんですね、赤坂さんのこと」
「そりゃ、信頼はしてる。俺に対する酷い扱いは置いといて」
黒瀬はスタジオ内に設置されている自販機で、缶の無糖コーヒーを三本購入して、内の一本をゆらぎに差し出した。
残る一本は黒瀬自身の分で、最後の缶コーヒーは、今話題に登っている赤坂の分だろう。
何だかんだと言いながらも、マネージャーの分のコーヒーを買う優しさを見せるのが黒瀬らしい。
スタジオを出ると、近くの車道で社用車が駐車していた。
「お。赤坂、もう迎えに来てるな」
「待たせるのも悪いですし、急ぎましょう」
小走りで駆け、二人は赤坂が待つ社用車へ乗り込んだ。
前回同様、コンビニで酒やおつまみなどを買い込み、これから黒瀬の部屋で行われる映画観賞に備えた。
「俺、シャワー浴びてくるわ」
買い込んだ食料の入ったレジ袋を、リビングのテーブルに置いて、黒瀬はそのままの足取りでシャワールームへと消える。
残されたゆらぎは、
「相変わらず、片付いてるなぁ」
ぼんやりと部屋を見渡し、無意識に独り言を呟いた。
黒瀬の部屋は主に黒色でまとめられていて、大人な雰囲気だ。対して、緑川の部屋は白を基準としたインテリアで綺麗に揃えられていた。
すっきりとした綺麗な部屋を見る度に、いつも疑問に思う。芸能人の家というのは、実はインテリアコーディネーターがいるのではないか、と。
ゆらぎの部屋は、ただ単に物が殆ど無いだけで、お洒落な部屋とは程遠い。
ゆらぎは黒瀬が居ないのを良いことに、無遠慮に部屋の至るところを凝視していた。
すると、シャワーを浴び終えた黒瀬に、その姿を目撃されてしまった。
「……何、してんの。お前」
「は! いや、黒瀬先輩の部屋は、何時来ても綺麗だなーと思いまして。決して、変なことをしようとしてた訳ではないですよ……って」
……って、黒瀬先輩。パンツ一丁じゃないですか!
弁解しながら振り向いたゆらぎは、黒瀬の下着姿に驚き、思わず視線を逸らした。
流石に先輩のこの姿は頂けない。恥じらいというか、何というか……。私自身も男装をしている身ではあるけれど、仮にも女性の前で、堂々とパンツ姿を晒されて、私は一体どうしたら良いのか。
いや、どうもしなくて良いのか。
何だか、見てるこっちが恥ずかしい。
「白石、顔赤くないか? もしかして、俺より先にもう一杯引っかけたのか」
「お、オレ、酒は飲めないので。違います……」
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