第3章 2-1 特殊現象捜査課
つまり、このタイミングで
千哉は無言で畳へ両手を付き、深く礼をすると茶室を後にした。
難しい顔で裏庭を通って表へ回り、車へ乗ると同時にバッグへ手をつっこんでたばこを探したが、既に捨ててしまっていたことを思い出して、仕方なく車へ備えつけたボトル入りブラックガムを無造作につかんで大量に口へ放り入れた。
涙が、出てきた。
2
いくら東京といえど、警察の動く土蜘蛛事件がそうそうあるわけではない。警視庁の特殊現象捜査課(通称、特現課)は、捜査員六名体制で通報のあった土蜘蛛退治や土蜘蛛協力犯の逮捕を行っている。そのほか、事務員が数人いる。課長を含めると、七人が本部道場の免許保持者だった。
警視庁以外では、警察庁を含めた全国の主だった警察本部にも同じような部署があるほか、高名どころでは街中ではなく山や海など
そのほか、協会では一般的な土蜘蛛退治を請け負っている。
千哉は、先輩であり上司でもある捜査第一係長の
「……」
あれから少しネットや書籍でスラヴ神話のことを調べた。おそらく、該当するのは
「もっとも、伝承では別に火の精霊などではなく、一般的な家の精霊です。ただ、暖炉やストーブに棲み、怒った時に災いとして火災を起こす……となっていますので、火にまったく無関係というわけではありません」
「なにかしら、変質したんだろう。魔神憑きの魔神や魔導師とやらに、性格を変えられた可能性もある」
「そんなことできるんですか」
「いや、知らないけど」
二人は火事を出したマンションへ入れてもらい、最上階近くの火災現場を見渡した。火災保険が出る出ないでまだもめているらしく、何も手が付けられないためオーナーも困っていた。靴へ鑑識で使う専用のポリ袋をつけ、臭いが凄まじいのでマスクをし、主に火元を確認する。
「燃えた痕跡だけ見ても、何もわからないな」
ただの火災のように見えて、燃え方が凄まじかった。よく消火できたと思う。一部コンクリートが変質し、融けて鉄筋も曲がっている。どれほど高温になったのか。
「そこらじゅうから出火していたようですが、山桜桃子の話をきくに、精霊が火をばらまいていたと」
「それじゃあ、正体が分からなかった時点では、出火原因はお手上げだろう」
「でも、いまでは」
「本来じゃ土蜘蛛案件だけどな」
野賀原係長も、ロシア人たちの日本での独自捜査及び退治活動黙認を当たり前のように面白くなく思っている。
「治外法権とは恐れ入るぜ。いつの時代だっての」
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