第2章 5-3 現れたモノ

 オレはその火の小せえおっさんとやらの、魔力の痕跡を捜した。

 「…………」


 あれ……魔力じゃねえが、微かにあるな……なんだ、こいつあ……。こいつは、なんの力なんだ? ほんの少し……オレにゃあ分からねえ力だが、確かにありやがる。


 「どうしたの、ゾン」


 「おいユスラ、今日のところは帰るぞ。やっぱりガムのねえちゃんに連絡しろ。こいつは、あのねえちゃんの捜してる相手かもしれねえぞ」


 「えっ!?」


 センパイとやらが心配そうにこっちを見ている。そらそうだよな。ユスラが一人でブツブツ云ってるんだからな。


 「…………」


 いや、あいつ、? ……気のせいか?


 「先輩、今日は帰ります。でも、おかしいと思ったらすぐ連絡してください」

 「わかった」


 デンワの念番号とかを教えて、ユスラがセンパイの住む塔を出る。オレも幽体のまま、ユスラの横を歩いた。


 「ゾン、なんか分かったの?」

 「……いや、分からねえのが分かった」

 「はあ?」


 「待てよ。土蜘蛛じゃねえ。だけど、じゃあ、なんなのかっつうと……オレにゃあ分からねえんだ。それが分かった」


 「難しいこと云わないでよ……」

 「だから、ガムのねえちゃんに連絡しろって。悪いこたあ云わねえからよ」

 「うん……でも、なんて説明したらいいんだろう?」


 む。そう云われてもなあ。子供の通報じゃ、確かに衛兵は動かねえわな。いくらガムのねえちゃんがユスラの知り合いだからってよう。組織ってえのはそういうもんだ。


 「考えどころだな」

 「あんたも考えてよ」

 「脳みそ腐ってるオレに考えろってか。おもしれえ冗談だ」

 「都合のいいときだけそうやって……」

 「どっちがだよ」


 並んで歩いていると、また火事の時に走る赤くてでっけえ自動馬車が唸り声を上げて近くを通った。あの赤いのは、車体の中に水を溜めて火事へ向けて水鉄砲を撃つから驚くぜ。たいしたもんだ。


 ところが、その赤いのが何台も近くへ停まった。急速に焦げくせえ空気が漂ってくる。人も集まってきたようだ。住宅街ってわけじゃねえが、古い建物が密集している。


 「ゾン、行ってみよう!」

 「やめとけよ」


 ……行っちまった。行ってどうすんだか。いや……火の鳥だの、火の小っせえおっさんだのが関係してるってんなら、行かざるをえねえか。しょうがねえ。


 オレはとユスラの後をついて路地を進んだ。この場所からは、表通りを回れば正面へ行けたんだろうが、ユスラが表へ回らず裏道を通ったんで逆側の区画へ出た。火事は区画の対角線上にちょうど反対側くらいだ。煙がいよいよ本格的に上がっている。羽を回して空を飛ぶうるせえ小船も何隻か来た。何しに来てんのかはしらねえが。


 「ゾン、どうしよう、どこから行けば向こうに行ける?」


 しらねえよ。おめえの便利なデンワで地図を見りゃあいいじゃねえか。見れるんだろ?

 と思ったら、それへ思いついたようで、指でデンワをなぞっている。あんな薄っぺらい小箱が、なぞるだけで本みてえにめくれるんだから、デンキ魔法も大したもんだ。


 「ゾン、こっち。こっち側から回るよ」

 「へいへい」

 オレたちは、少し戻って角を曲がった。


 と、その時だ。


 「あっ」

 「あ」


 二人で、同時にマヌケな声をあげた。とオレ達の目の前に、オレンジ色に光る服を着た、姿勢の悪りぃ子供みてえなヤツが高いところから飛び降りて現れた。


 「……!」

 こいつぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る