第2章 5-2 中川の家
「ねえ、ちょっと家に来てもらえるかな」
「どうしてですか?」
「家のキッチンに……いるの……火が……」
「!」
おいおい、そんなもの、ガムねえちゃんの案件だ。知らせた方がいいと思う。
「鳥……ですか?」
「いや……小さいおっさんみたいの……」
「なにそれ……」
「わかんない」
センパイが涙目になる。ユスラの手を握って、
「おねがい……なんとかして……そういうの退治するんでしょう……?」
ユスラがうなずいた。待て待て待て。
「おい……ユスラ……ユスラ……」
オレはまた幽体として少し、姿を現した。うっすらと出ている状態だ。
「なに」
ユスラがセンパイに分からねえように、口パクで答える。
「ほっとけ」
「んなわけいくか」
「あの、ねえちゃんに知らせろ」
「だれ?」
「ガムのねえちゃんだよ」
「
「おまえなあ……」
「話を聴くだけだから!」
チッ。あーもう、しゃあねーな。珍しく二人がいっしょに帰って、あのぼんくらが不満そうな顔して二人を図書室の窓からみつめていた。
話をきくだけっつったって、こいつんちに土蜘蛛がいたらどーすんだよ。正式な出動じゃねえんだから……退治の数勘定に認定されねえかもしれねえ。余計なことにクチバシをつっこむのは嫌いだね、オレは。実力のねえやつに限ってそうするんだ。
とりあえず、行ってみるしかねえが、よ……。
ほとんど無言で二人は歩き、この前の狭い路地を曲がって、真っ直ぐ進む。ふうん……確かに、センパイは監視されてやがるぜ。そこここに、見張りがいやがる。
ユスラは……まったく気づいてねえな。プロだぜ。この連中。ガキの癖に、よくこのセンパイとかいうやつは気づいたな。
高い塔の集合住宅へ入って、二人は階の真ん中ほどの部屋に入った。センパイの親はまだ仕事から帰ってきてなかった。聴けば、祖父は死んで祖母も仕事をしているという。仕事熱心だねえ。
ごちゃごちゃした台所は、べつだん妙な気配も臭いもねえ。
「……あれ、今日はいないなあ」
「確かに……なんにも見えませんね」
ユスラがチラッチラッと空間を観る。オレか?
「なんにもいねえぞ。こいつの気のせいだって。帰ろうぜ」
また少し幽体となって、云ってやった。
「先輩、だいじょうぶだとおもいますよ」
「でも、ほんとにいるんだって。夜とか、このコンロの上に座ってるんだもの」
「小さい、火のおっさんが?」
「うん……」
ユスラが腕を組み、顎先へ手をやるガムねえちゃんと同じポーズで片頬をしかめて考えこむ。ばーか。おまえが考えたって、何もわかるわけねーだろ。
「ちょっと、待っててください」
ユスラが台所から居間へ移り、窓の外を見るようにして、
「どう思う? ゾン」
コソコソ声で聴かれたって、しらねえよ。ほっとけや。
「かえろーぜ」
「まじめにかんがえろ!」
「いねえもんはいねえって! あいつの気のせいだぜ」
「火事になったらどうすんのよ!」
わけわかんねえなあ……。オレはアタマをかき、嘆息した。ちょっと……魔力を使わせてもらうぜ。
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