第2章 2-1 魂魄の相関因果と運命の相剋転移

 「この、バカ、バカ、バカ! 電柱ひっこぬいてどうすんのよ! めっちゃ停電になってんじゃん!」


 デンチュー? なに云ってんだかさっぱりわからねー。消えるに限るぜ。

 「あっ……消えやがった!」


 オレが消えるとユスラが急にうろたえて、逃げるようにその場を後にした。後ろを、あのメガネのアンちゃんがデンワしながら着いて行ってる。はなし変わるけど、あのデンワっていうで話しする道具はすげえよ。あんなのがあったら、そら便利だよ。素直にそう思う。誰でも使えるんだからな。ユスラですら持ってやがる。


 なんにせよ、これで十四匹め……と。オレは律儀だからちゃんとメモするぜ。ただでさえ、このあいだの鬼野郎が何匹分だかで勘定が曖昧だからよ。文句たれるやつが出てこねえようにな。グダグダ云うやつが出てきたら、オレが表に出てやってもいい。


 今日は、雨が止んでるぜ。

 日差しがまぶしいな。

 


 2


 昨日はちょっと珍しく晴れたが、雨ばっかりの天気が続く。こっちにも雨季があるんだな。


 ユスラは学校だ。出番のねえときは、オレもヒマだよ。でも、この裏っ側から、ユスラの世界をよく観察するんで飽きはしない。


 なんたって、珍しいよ。いろいろと。オレも長いこと生きてたけど、こんな世界はしらねえなあ。


 車輪はオレのいた世界にもあったけど、乗り物が自分で走るってのは、魂消たねえ。そういう発想がねーよ。生きてんのかって聞いたら、道具だから生きても死んでもいねえときた。オレのいた場所じゃ、生きてる道具もあったけど。


 それも、でかいよ。馬車くらいの大きさのやつもあるけど、何十人も乗れる。バスってやつよ。あと、デンシャってやつ。デンシャのやつは、鉄の車輪であらかじめ決められた鉄の線の上を走るんで自由度は少ねえが、そのぶん連なってたくさん走っている。そういや、デンシャの屋根の上にも石の木の上に生えてる蔦と似たようなもんがありやがるな。あの蔦は、切ったら火花が散ったし、ただの蔦じゃあねーんだろう。


 それから、船ですら自分で走る。風とか手漕ぎじゃねえ。ちっこいのは、そういうのがあるらしいが……。


 海は、こっちも青くて安心した。しかし、この街の船がでけえな! あんなでけえ船は初めて見た。しかも、鉄の船だっつうんだから驚きよ。


 しかも見ろよ、ひょろっちい船に羽がついて、空まで飛んでやがるぜ。たまんねーな。


 ああ、空も青いねえ。雲も白いし、なんか……違う世界に来た気がしねえ。


 それにしても、この街のでっけえこと。オレがいた国よりでかいんじゃねえかな。あの林立する塔も高いし、まあすごいね。なんであんなに高い建物が必要なんだと思ったら、人が住んでるっちゅうじゃねえか。蟻かよ。どんだけ人間がいるんだってえの。オレの世界の全人口がこの街に集まってるんじゃねえの。


 それだもの、土蜘蛛がちょっと何人か食い殺したって、大してニュースにもならねーわな。ユスラの見るテレビ、新聞、ノーパソにタブレットも、横や後ろからちゃんと見てんだぜ、オレは。自動馬車で事故って死ぬほうが多いじゃねえか。


 それにしてもよお。


 驚いたには違いねえが、やっぱり、なーんか、懐かしいんだよなあ。見覚えがあるっつうか。違和感がないっつうか。慣れた、ってのもあるのかもしんねえけど。どっか、覚えがあるんだよ。気のせいなのかどうか……。


 やっぱり、オレは大昔、こっちの世界に住んでた気がするんだよ。

 なにせほら、魂魄の相関因果と運命の相剋転移があるだろ?


 オレみてえな神レベルのクソチート超ツヨイドラゴンに生まれちまったってことは、その前は貧乏神レベルでヒンソーなゴミカス人生だったと思うわけよ。きっとこんな文明の進んだ世界で、逆に無職でなんにもしねえ海に漂ってる腐った藻みてえな生活を送ってたのかも、って思うんだ。


 むしろそれが哲学だったのかもしれねえ。

 でねえと、こんな既視感はねえと思うんだ。

 ま……いまとなっちゃ、別にどーだっていーけどよ。

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