第2章 2-2 メガネのあんちゃん

 どーせ脳みそ腐ってるし。これ以上は考えられねえ。唯一の救いは、もうゴーストなんで、いくら実体化してもこれ以上は腐んねえことだ。


 オレはそうして思考しながらユスラの学校の回りをウロウロして、風景を眺めるのが日課になっていた。


 あんまりユスラから離れられねえけどな。観察には充分だ。飽きないね。この世界。とにかく一から十までたまげるからな。


 それに……なんか、気になるんだよなあ、この学校。土蜘蛛ってわけじゃあねえけど。きな臭いっつうか。


 鼻もだいぶんバカになってるから、気のせいかもしれねえけどな。


 おっ、どれどれ、お嬢様のお帰りだ。またあのぼんくらっとした奴と一緒に帰るのか。仲がいいねえ。


 オレなんかも、若いときはドラゴン仲間が……いなかったな、そういや。


 ドラゴンなんて、孤高の生き物だからな。まったく、どうやって繁殖してたんだか。単為生殖かな。寿命も長いし、あんがい、分裂して増えてたりして。ハハハ。


 ……んなわけねえか。


 オレは、この、世界のすぐ裏っかわからユスラを見ている。どっちかっつうと、一緒に歩いてるつうより、ユスラが歩いてるのをホントにただ見てるって感覚だ。目の前に映ってるというか。だから、オレは別にすることはねえ。ただ観察だ。究極の観察者だよ、オレ達ゴステトラは。


 すると、道場へ通じる公園の入り口で、メガネのあんちゃんが待っていた。仕事か?


 「どうしたの?」

 「中間テストはどうでした?」

 「グッ……」

 「さ、お嬢さま、あちらにお席がございます」


 二人して、あの茶店に入る。ずいぶんとユスラがしおらしい。珍しいこともあるもんだ。


 「ちょっと、自分だって中間テストあったんでしょう? あたしなんかの面倒見てる余裕あるの?」


 「あるから来ています。大先生おおせんせいから学校の成績も頼まれているのですから、逃げようたって無駄ですよ」


 「うー……」


 茶と菓子と……茶店ってのはどこも変わらねえな。こっちのほうがうまそうだ。甘いもんなんか、久しく食ってねえなあ。いま食っても、オレは味が分かるんだろうか。


 「はい、報告。五教科で結構です。数学」

 「……」

 「数学」

 「二十三点……」

 「英語」

 「三十八点……」

 「社会」

 「それは八十七点!」

 「国語」

 「九十三点!!」

 「理科」

 「四十二点」


 呪文の話か? ……ああ、試験の結果か。こっちにも試験があんのかよ。学校だから、そらそうか。大変だねえ。オレの世界にも国によって魔法学院の試験やら、職人組合の技術の試験やら、騎士養錬所の剣技の実技試験があったなあ。


 で、ユスラの成績は……メガネのあんちゃんの顔を見る限り……あんまりかんばしくねえようだぜ。やれやれ。


 「見事に得意と不得意が分かれてますね。平均するとまあまあですが……不得意科目を底上げすることにより、平均点も上がってきますから……」


 「数学とか、ホンとまじでかんべん。意味わかんない」


 「数字と式に意味なんかありません。暗記です。私と同じ高校に入れとは云いませんので、まずは、全教科六十点以上をめざしましょう」


 「六十点!?」

 「はい、復習……テスト用紙を出してください。全問、見直しますよ」

 「どひぇぇ」


 いやはや、熱心だねえ。魔法だったら、オレが基礎から教えてやれるのにな。こっちにゃ魔法はねえときたもんだ。世の中、うまくいかないねえ。ままならねーよ。


 それよりもよ。

 このメガネのあんちゃんのゴステトラよ。

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