第2章 1-2 化烏

 ちょっとあの鬼野郎は、ユスラにゃマジで負担が大きかったみたいだ。予想外の相手だったというわけか。緊張による疲れ……ってことになってるみてえだけど。そんな、生易しいもんじゃあねーぜ。


 ま、しかし、だとすりゃあ、こりゃ、リハビリだろうぜ。ユスラの。他の連中の手前、あんまり長いあいだ休ませてるわけにもいかず、かといって負担が大きいのもだめだってんで、本来だったらユスラが相手をするようなザコをちょっとあてがってるんだろう。


 「ゾン、行け!」

 「あらほいさっさー」

 とっとと片づけて、ユスラを休ませねえとな。


 「今日も本気でやりなさいよ!」

 バカ。だからよー。ぞ。

 「はいはい、ホンキホンキ」


 オレはとうぜん、こんなカラスごときで竜化なんぞしねえ。竜がカラスを退治するんだぜ? そんなんありかよ。最初っから分かってりゃ、虫だの下っぱ亡霊だのであんなホイホイ真の姿にならなかったのにな。真の姿ったって、あれでもまだ第一段だけど。へっへっへ、そんなもんだろ、ラスボスってのは。


 オレは、巨大カラスと化したカラス人間と竜人モードでやりあった。これでも充分すぎるんだぜ、ほんとは。


 そうらよっ! っと……カラスのくせに素早いな。なんせこっちはゾンビだし……生きてたときよか動きが鈍いよ。さすがにな。


 でも魔法なんて使ってらんねーよ。こっちの世界じゃ魔法は存在しねえ。存在しねえもんを使うってことは、それだけ元の世界から力や法則を引っ張ってこなきゃならん。つまり、ユスラにそれだけ負担がかかるって寸法よ。


 オラッ! っと、あれ……。そうりゃあっ! ……ちくしょう、あたんねえな。どっせい! っ……と。またはずれたぜ。なかなかやりやがる。


 「なあああにやってんだああ!!」


 あーあ、ユスラがキレそうだ……アタマから湯気出して地団駄踏んじゃって……まいったね、どうも。どうにかなんないのかね、あの性格は。将来モテねえぞ。


 でも、ま、確かに……こんなヤツにあんまり長引いてても、ユスラへの負担が大きくなるばかりだ。


 オレは、こっちの世界でそこらじゅうに生えている「石の木」を両手でむんずとつかみ、一気に引き抜いた。それをひねって固い路の真ん中へ戻ると、木の先端のほうについている何本もの蔦が引っ張られて切れ、バチバチと火花が散った。


 ……なんで火花が散るんだ?


 それに、ユスラが耳まで真っ赤にして、踊りみてえに手足を動かしながらわめいてやがる。ハハハ、なにやってんだ、こいつ。


 「この、クソバカ!! アホゴステトラ!!」

 っせーな。ハイハイ、いますぐ片付けますよ、っと。


 オレ並にでっかい大ガラスが、その真っ黒いクチバシに瘴気を澱ませ、上空でUターンして急降下してくる。こっちが地面にへばりついて、対空戦だけしてると思うなよ。


 オレの翼は飾りじゃねえ。ふだんは邪魔くせえから縮小してるけどよ……魔力が少ないから自在に飛ぶってわけにゃいかねえが、家の屋根より高いくらいジャンプするには充分だぜ。


 「そら、よッ……と!」


 何倍にも翼を広げ、脚と尾を使って一気に飛びあがる。ジャンプだけでも届くけどよ、翼を広げると威嚇にもなるだろ。


 案の定、カラス野郎はめんたまひんむいて急ブレーキだ。空中で硬直してやがる。ゾンビのオレでも余裕だよ。


 オレはその場で大きく石の木を振りかぶって、カラス野郎を思いっきりぶん殴り、地面へ叩きつけた。


 そのまま、もがくカラスの上に膝落とし気味に落ちる。


 ズゥン! ボグシャア! 骨の砕ける音がして、化けガラスはオレの足の下で黒い霧……瘴気になって拡散しちまった。


 へっへ、こんなもんだな。オレはまんざらでもねえふうで、折れ砕けてひん曲がった石の木をそこらへ捨て、パンと腹を叩いた。この木は石のくせに空洞で、石の部分には細い鉄の芯が何本も入ってやがる。変な木だな。……木なのか?

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