第1章 6-2 火の鳥
ゾンと二人で、通り過ぎたクルマの後ろを見た。分かった。まだ完全に実体化していない。この状態だと、本当に幽霊だ。見える人と見えない人がいるし、さわれない。
「わ、うわあァッ……!」
腰を抜かさんばかりに驚いて、倒れた自転車から転がって逃げたあの大学生くらいのお兄さんは、きっと見えてたんだろう……。
で、にぃなは。
「……どした? ゆすらぁ」
見えてない。あたしはゆっくり溜息を吐いた。なんか、マジでいろいろと疲れる……。
そんなことより、なんでゾンが?
あたしはチラチラとゾンへ目くばせして、何を考えてるのか云え! とやったが、ゾンビだからなあ。その前に、人間じゃないし。何の反応も無い。
(あーもういいや。無視無視無視)
あたしがそう決めた時、
「なんか、おかしいぞ」
突然、ゾンが云いだす。なに云ってんの。
「土蜘蛛じゃあねえな。でもなんだっつうと、オレにゃわかんねーけどよ」
だから、なに云ってるんだって。
すると、ゾンが勝手に歩き出した。別に、あたしから二、三百メートルくらいは離れることができるらしいのでほっといてもよかったんだけど、
「ちょ、ちょっと待ってて」
あいそ笑いでにぃなへ云うと、仕方なくゾンへついてゆく。
(ちょっと、どこ行くつもり!?)
とうぜん、無視される。だめだこりゃ!
「?」
にぃなが、ものすごく不思議そうなものを見る目であたしを見てる。しょうがないよね……。
でも、もともと狩り蜂に興味のあったにぃなはピンときたらしく、あたしの後をついてきた。
「いいから、あっち行ってて!」
「えー、おトイレなのぉ?」
「こんなとこでするか!」
「じゃあ、いいじゃん」
死んでもしらないぞ、こんちくしょう!
幽体のゾンはいつものドシドシ、ズシズシじゃなく、なんというか……ピョコピョコというか、キョッキョッというか、なんとも形容しがたいアニメみたいな足音で通りを進む。そして、とある路地の入口へ来ると、ひょいとそっちの方向を向いた。
「なんかあるの?」
あたしもそっちを見て、理解できずに固まった。これは……!?
「あれえ? くるみせんぱぁい」
緊張感漂う中、間抜けに路地へ響くにぃなの声。その二人がこっちへ気づき、先輩は振り返って、もう一人は踵を返して路地の奥へ走って行ってしまった。
「…………!!」
あたしは確かに見た。外国人だ。亜麻色の長い髪にアンバー色の眼をした、あたしたちよりちょっと上に見える女の子。でも外国人は老けて見える(失礼)ので、きっと同い年くらいだろう。
それより……その女の子の肩に止まっていた、三十センチくらいの、真っ赤というか、オレンジというか……とにかく、鳥が止まっていた。
間違いない。
火の鳥だった。
先輩はあたしたちを見て驚いたけど、あの外国人の女の子は明らかにゾンを見て驚いてた。土蜘蛛か……でも、ゾンは土蜘蛛じゃないと云っていた。じゃ、外国の狩り蜂なんだろうか。うちの会員に外国籍の人はいないし、外国出身者もいないはずだった。
そもそも、世界狩り蜂協会の規約で、外国で勝手に土蜘蛛退治はできない。その国の協会の許可がいる。ウチ……ひいばあちゃんが許可したんだろうか。それとも……?
それより、先輩だ。
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