第1章 5-2 解除

 「ゾン! 先手必勝! 全力でやって!」

 「…………」

 「ゾン!!」

 「…………」


 あー、まただ。叫ぶだけ喉が痛いんですけど。

 「動け! ゾン、鬼なんかぶっとばせ!」

 「…………」

 「ゾオオオオオン!!」

 「…………」


 バンバンバン! 地面をふむ。鬼が、さらにニヤニヤしだす。振り返って指をつきつけ、横で突っ立ってるゾンを見上げた。涙が出てくる。


 「ああああんたねえ、いくらアタマ腐ってるからって、ふざけてんの!? とっととホンキ出しなさいよ!!」


 「いーのかよ」

 「ハ!?」

 「本当にホンキ出していーのかよ」


 な、なに云ってんだ、コイツ……!!

 「ホンキに本当もへったくれもあるかあああ!」


 あたしはスカートをひるがえして、ゾンのふっとい竜の足を思いっきり蹴飛ばした。幽体だけど、土蜘蛛退治のときは実体化してる。土蜘蛛が人間の身体を得て、それを糧として実体化しているから、倒すためにゴステトラも実体化する。


 「いってえ!!」

 石みたいで、逆に足がめっちゃ痛かった。死後硬直か!


 「オレさあ」

 なに!? 今日はどうしちゃったの!?  


 「さいしょは……オレも来たばっかりで、わけわかんねーから、ホイホイと『解除』してたけど……なんか、マズイんじゃね?」


 はああああああ!? 


 「う、うッ、うううるッさあーい! 云うこと聴けえ! この、バカゴステトラ!!」

 鬼がへらへらしながら近づいてきたので、あたしも必死だった。死にたくない!


 「ほ……ほら! 来た! さっさと動け!」

 「…………」

 「動けっつってんだああ!!」 

 「……はいよ」


 ゾンが前に出る。とたん、また、あのでっかい腐りかけのドラゴンに変身していく。

 「えっ?」


 あたしはちょっと驚いた。これまでよりかなり大きい。倍……いや、三倍はある。旅客機みたな大きさだよ……?


 そのゾン、ちらっとこっちをむいた。死んで白濁した眼で、確かにあたしを見た。

 「……やっつけろ!」

 あたしが叫ぶ。


 とたん、鬼へ向き直ってゾンが吠えた。すげえ声だ。こっちまで衝撃波というか、ビリビリと波動が伝わってくる。幽気……いや、瘴気だ、やっぱりこれは……。全身が、とぐろを巻いてゆらめいている。こんな怪獣映画があったような。あれほどは大きくないけど。でも、今のゾンなら戦車くらいなら簡単にけっとばしてひっくり返し、踏みつぶすことができると思う。


 鬼がしかし、むしろ走る速度を上げて、まったくひるまないで突っこんでくる! ゾンの咆哮を浴びて、ぜんぜんこたえてない!?


 そしてバッタみたいに、目にも止まらない勢いでジャンプすると、ゾンの横っ面へ豪快にパンチをきめた。ウソみたいにゾンがバランスを崩し、なんとか踏ん張った。そして右手でまだ空中の鬼を叩こうとしたけど……おっそい! びっくりするくらい遅い。


 しかたない。ゾンビだもんね……生きたドラゴンだったらもっと速いんだろうけど……戦いかた考えろよ! でっかくなったのは不利なんじゃないの!?


 鬼も図体がでかいはずだけど、蝶みたいにひらりと空中で身をかわし、ゾンの攻撃を避けるとそのまま着地して……そしてまた、あたしめがけて突進して来る!!


 それも、まるで瞬間移動みたいにして、気がつくと目の前に立ってた。


 こいつら……このレベルの土蜘蛛ともなると、狩り蜂との戦い方を知っている。ゴステトラじゃなく、使い手のほうを先に倒しちゃう。そっちのほうが簡単だから。あたしたち狩り蜂はいくら格闘技が強くても、いくら機関銃とか持っていても、土蜘蛛には関係ない。やっぱり、土蜘蛛は守護闘霊じゃないと、倒せない。

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