第1章 4-5 火の鳥
「いや、
このありさま、と
「それでも、ゴステトラが護ってくれて……なんとか脱出しましたよ」
あの強そうな
「よく生きてたわね。さすが、私の弟弟子!」
「いやあ、倒しゃあ、いまごろ特進で師範代直前くらいになったかもですけどねえ」
「死んでりゃ世話ないの!」
「で……その火の怪物って、どんなやつだったか、覚えてる?」
「そ……それが……いきなりだったし、火の塊だったしで……でも、強いて云うなら、鳥みたいなやつでした」
「鳥……」
千哉さんが腕と長い脚を組んで、顎先をちょっとさわったまま、しばらく黙りこんだ。鳥……火の鳥。そいつが……もしかして、連続放火の……?
「ありがと。お大事に」
千哉さんが椅子を蹴って立った。そして、ガムを何枚も出してかむや、颯爽と出て行った。
「まだ禁煙してるんだ」
「けっこう続いてるな」
二人が苦笑まじりに云う。ストレスたまる仕事なんだろうなあ……。でも、いまはたばこ吸う人に厳しい世の中だし、しょうがないね。
それからちょっと世間話をして、あたしと
帰りのバスでも、二人で後ろのほうの席へ座って、無言だった。公共の場で、土蜘蛛の話はできないし。窓際の眞は憂いを帯びた顔で窓の外を見て、あたしも物静かに無表情でバスの中をみつめる。それが、なんか、ケンカしてるでもないクールなカップルにでも見えたのか、違う学校の生徒が何人か乗ってきて、ヒソヒソあたしたちのほうを見てささやいている。とうぜんガン無視した。
やがて代々木公園側にバスが近づいて、降りようとあたしが無言で立つと、そのどっかの学校の上級生らがまだあたしを見てヒソヒソ云ってたが、もちろん続けて無視。でも、眞も無言で着いてきたので、あたしもちょっと驚いて、
「ど、どうしたの」
「大先生へ報告を」
そうだよね。
二人で並んで夕暮れの公園へ消えてゆくものだから、バスの大人も、おばさんなんかちょっと問題あり気な眼でこっちを見ていた。無視無視無視。
こっちはそんなヘーワな世界に生きてるんじゃねーんだっつーの。
道場へ着いて、事務所に常駐している師範代の人へ取り次ぎ、眞がそのままひいばあちゃんの部屋へ向かった。あたしは呼ばれなかったので、そのまま自分の部屋へ行った。
「火の……鳥……」
あたしは雷の話が頭から離れなかった。
5
それから、五月中は火事が落ち着いたようだった。六月に入ったら中間テストで、火事騒ぎも忘れてしまった。テストが終わると同時に、仕事が来た。雷はしばらく……少なくても秋まで入院するので、眞が着いてきてくれる。
でも、眞は高校生だからクルマ運転できないし、あんまり遠くの仕事には行けない。自転車か、バスか、電車だ。どうしてもってときは、協会のお金でタクシー使えるけど。
その日は、放課後にまたいつものコンビニで待ち合わせして代々木公園下原から電車に乗った。そのまま小田急に乗り続けて……なんと多摩川まで来た。
「遠いなあ」
あたしは河川敷の公園を見下ろす堤防の上で、川と川向こうの街並みを見ながらつぶやいた。
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