第1章 4-4 千哉
あたしは怖くて、ゆっくりあとずさった。そのままベッドにもぐりこんでふとんをひっかぶり、目をつむってるうちに眠ってしまった。
翌朝、嘘みたいに道場は落ち着いてて、お手伝いさん方は何も云わなかったしひいばあちゃんからも呼び出しがかからなかったので、そのまま学校へ行った。でも、昼休みに
よかった……生きてた。
眞の高校はちょっと遠いので、図書室で時間を潰してその日はちょっと早く一人で帰り、いつものコンビニで待ってると、少し遅れて眞が来た。そのまま二人でバスに乗って、代々木医科大病院へ行く。バスの中でも、二人とも無言だった。
病室に入ると、思ってたより元気そうな点滴だらけの雷がベッドで寝てた。土蜘蛛退治の協会公認の怪我だから、協会のお金で個室に入ってる。とうぜん、退治し損ねた土蜘蛛の聞き取りをするわけだから、一般人と隔離するという意味で。労わってるわけじゃない。
「いやあ~、死ぬかとおもったぜ」
「ばか」
へらへら笑ってそういう雷に、あたしは涙目でそう云った。
「全身火傷の重傷と聴いてましたけど、そうでもないみたいですね」
眞もホッとした声を出してる。
右頬と右耳にでっかいガーゼがあって、髪も焦げてて、あとは右肩から腕先にかけて厳重に包帯。右側をやられたみたい。
「肩から手首まで人工皮膚をごっそりはってもらって……麻酔がしてあるらしいけど、いてえのなんの」
雷が笑いながらも顔を豪快にしかめる。うう……マジでいたそう。
「全治は?」
「二か月くらいじゃねえかな。単位が心配だぜ」
「傷……一生のこりますね」
「おれたちゃあ、狩り蜂だぜ。名誉の負傷だろ」
そういう笑顔も、痛々しい。涙目だ。
「それより、火を使う土蜘蛛なんて、程度にもよるでしょうけど……少なくとも師範代以上が相手をするものでは?」
それだ。眞の言葉に、あたしも息をのむ。
「いや、それがよ……」
「私もその話、聴かせてちょうだい」
ドアが開いて快活な女性の声。濃紺タイトスカートに細縦縞ブラウスの制服で、見るからにキャリアウーマン然とした、自信にあふれかえった人が入ってくる。背が雷並に高い。すらっとして、眞より大きいんだ。長い波打つ黒髪を後ろでひっつめて、めっちゃさばさばしてる感じ。眉毛濃くて、胸は普通。メイクも超ナチュラルだけど地がいいからウルトラ美人……というほどでもないか。ま、ひとそれぞれ好みだよね。あたしは好きだから、超美人て云っとく!
「
「
籠目特現刑事。階級は……前に聞いたけど忘れた。眞とあたしが立ち上がって迎える。
「いいから、座ってて」
お花と、人数分のケーキも!
もちろんただのお見舞いじゃない。警察が動いてる……どんだけの土蜘蛛なんだろ。それに、そんなのをまだ
「イテテ……」
千哉さんが小皿に取り分けたケーキを無理にとろうとして、雷が顔をしかめる。あたしがすぐにかわってとってやった。だいたい、右手が使えないじゃん。
「食べさせてほしい?」
「え? いいんすか?」
「左手で食べなさーい、これも稽古!」
「まじで」
千哉さん、余裕……。
それはそうと。
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