第1章 4-3 深夜の事件

 「火事が……連続はまだよいとして、時に同時多発的に起こっているのです。いまのところほとんどボヤですが、これから推測できることは、まず、火に関係する土蜘蛛ということ。次に、同時に離れた場所で火を操ることのできるほどの強力な土蜘蛛か、複数の土蜘蛛が組織的に放火をしている可能性があること。あるいは、強力な土蜘蛛をボスとして、部下の土蜘蛛を使って同時に火を放っている可能性も。あるいは、籠目かごめ先生の出番なら、土蜘蛛と人間が組んでいる場合も」


 「とんでもねええ」

 らいが眼をむく。あたしは意味がわかんなくて眼をむいた。


 いや、最後だけ意味がわかる。土蜘蛛といっしょに悪いことする人間なんて……やっぱり土蜘蛛候補なんだよ。土蜘蛛になる前に逮捕して「除障」しないと……。


 「そんなん、前代未聞だぜ。オレたちみたいな道場生にゃ、とてもじゃないけど手に負えないわ」


 「あたりまえです。私たちは、少しでも雑魚を退治して……大先生おおせんせいや籠目先生たちが安心かつ集中してとりくめるよう、しっかりと他の土蜘蛛を倒してゆかなくては」


 「真面目だねえ……でも、そういうことだ。ゆすらも、しっかりやってくれよ。紙切かみきりになったら、まずまず一人前の狩り蜂として扱われるぜ」


 そうなんだろうか。不安だ。

 「でも、あたしまだ中一なんだけど」

 「歳は関係ねえよ。知ってるだろ」

 まあ……ね。


 そのあと、ちょっと話をして、

 「じゃ……おれは、夜にバイトだから」


 バイト? やっぱりホストでもやってるんだろか。あたしがきょとんとしていると、

 「夜に退治があるんですよ」


 そっか。未成年は夜の土蜘蛛退治は禁止だし、依頼も来ないもんね。

 「私も帰ります。本部まで送っていきますよ」


 「いいよ。ここからなら、暗くてもだいじょうぶ」

 「そうはいきません」


 しんは真面目だなあ……そういう眞だって未成年なのに……確かに、あたしたちは土蜘蛛に襲われたら対処できるけど、人間相手には、無理だからね。たとえ犯罪者に襲われても、ゴステトラで人を襲ったら……そのときはよくても、いずれその感触が忘れられなくて人を襲い続け……遠からずほとんどの人が土蜘蛛になっちゃうんだ。だから、道場では絶対禁止。即破門。ゴステトラを強制的に「除障」する場合もある。正当防衛は認められない。それこそ、千哉ちかさんとこの世話になる。


 家まで送ってもらって、眞と別れて、あたしはその日も一人でご飯食べてシャワー入って……ちょっとネットして寝た。


 つもりだったけど。

 夜中に、起こされた。



 「う……ん……?」

 ねっむ。子供だから、夜中に起きてもアタマがぐらぐらするよ。


 でも、道場がやけに騒がしい。母屋にまで人がドタドタドタドタ……珍しいよ。こんな夜中に人が道場を走り回るなんて。


 「蕗春ふきはるがやられた!!」

 ……なんだって!?


 「蕗春、しっかりしろ!! 蕗春!!」

 「救急車は!?」

 「もう呼んだ! 大先生に除障を!!」

 「道場へ、速く!」


 怖くて、襖を開けられなかった。少しだけ開けると、廊下がまぶしい。まだ、慌ただしく人が右往左往している。


 雷が、やられた!? 土蜘蛛に!?

 そんな……あんなに強そうなぬえのゴステトラだったのに……。

 足が震えてきた。


 土蜘蛛にやられた傷も、除障することでダメージの進行を押さえ、治りを速くする。バ……ひいばあちゃんが除障するんだったら、きっと……きっと大丈夫……。

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