第1章 4-2 オレたちの案件
トホホ……また家庭教師か。二人ともいい学校行ってるから、あたしとはアタマの地がちがうんだよー。あたしがなんでわかんないのかがわかんないんだ、二人とも。
公園の隅にあるおしゃれなカフェで、二時間くらい二人で問題集を見てくれる。あたしは特に理数系がダメで……英語もだけど……
二時間もするとあたしの集中力が限界だった。二人は、それもよく分かってる。
「ケーキでも食おうや」
ケーキは雷がおごってくれる。いちおう、一番年上だし、大人だから。
窓が少し開いていて、五月の風が心地よい。碧のにおいがする。
また、遠くから消防車の音がした。今日、三回目じゃん。
あたしが風に乗って聴こえてくるその音へ顔を向けてると、
「気になりますか?」
メガネへ夕日を反射させて、眞が聴いてきた。
「放火かも、だって」
「放火だったら、警察の出番だなあ。オレたちには関係ないね」
雷は紅茶党だ。眞はコーヒー派。あたしは、ケーキにジュースでOK。子供だしね。でも炭酸は嫌い。よけい子供か。
「警察といえば、警視庁が大先生のところへ来てました」
「警視庁……籠目先生か」
「そうでしょうね」
「籠目先生のご登場なら……こりゃ、オレたちの案件かもな」
そう。
そもそも、なんで警察に狩り蜂がいるのかというと、土蜘蛛は出てきたらすぐに退治しちゃうんだけど、中にはふつうの人間の犯罪者と組んでる場合もあるから……あたりまえだけど、人間は退治しないで逮捕しなきゃならない。それに、もし逮捕した人が土蜘蛛になる前の状態だったら、ババアーみたいに「除障」ができる人に悪いゴステトラを祓ってもらえば、助かる可能性もある。その人がゴステトラ持ちじゃなくても、強いゴステトラの影響によって身体を壊す場合や、その「影響」が成長して……新しい土蜘蛛になる例もあるから、やっぱり祓ったほうが断然いいわけ。
千哉さんは、除障ができる数少ない狩り蜂の一人なんだ。
それより、オレたちの案件って……。
「放火犯が、土蜘蛛ってこと!?」
すぐ、二人が指を口へ当てる。
「あっ……」
ここは道場じゃない。一般人も多いのに、あまり不用意なことを口走るとパニックになるので、声をひそめるのが常識だ。忘れてたけど。
「ごめん……」
雷が咳払いをし、周囲を確認する。お客さんはそこそこ入ってたけど、気づかれなかったみたいだ。
「まだわかんないけど、籠目先生がわざわざ大先生のところへ何か相談、もしくは報告に来たってことは、よっぽどでかい案件と思っていい」
雷と千哉さんはみっつしか歳がちがわないけど、紙切と免許じゃ月とスッポン。とうぜん、千哉さんは「先生」だ。たとえ相手が年下でも、免許だと「先生」になる。
「でかいって、どういう意味?」
「土蜘蛛が、大物なんでしょう。もしかすると、組織犯罪かもしれません……」
「どうゆうこと?」
眞のメガネが光った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます