第1章 4-1 火事

 全然知らなかった。ニュースなんて見ないし、新聞も読まないから……。

 「どうも」

 タブレットを返す。


 「ねえ、あんたさあ、本が好きなら、図書局に入ったら?」

 「えっ?」


 常連だとは思ったが、図書局の人だったとは。ということは……もしかして。

 「せんぱぁい、来月の購入リストつくりましたあ」

 にぃなが書類を持って声をかけてくる。やべっ、やっぱり先輩だった。


 「す、すみません」

 「いいから。あたし、2年3組の中川胡桃。ね、どうだろ?」

 「でも、あたし、仕事があるときがあって……あんまり部活は」

 「せんぱぁい、ゆすらは……」

 「分かってるって。でも、毎日この時間まで本読んでるじゃん」


 それはそうだ。けど、

 「あたし、土日や祝日が……」

 「ああ、そっか」


 肝腎の、学校祭などの局の発表や、翌月の読書特集企画などのメイン活動ができない。ただ、本を読んでるだけなら幽霊部員だ。


 「人数合わせなら、入ってもかまいませんけど」

 「うーん、と……ま、なら、いいや」

 「すんません」


 チャイムが鳴った。部室を閉める時間だ。二年や三年の先輩がたは先生と打ち合わせをしてから帰る。お客さんと一年は解散。


 「かえろぉ、ゆすら」

 「うん……」

 また、にぃなといつもの道を歩く。



 帰り道、また消防車が通りを走って行った。マジで火事が多い。いままで気にしてなかったけど、気になるとやっぱりよく気がつくようになる。


 「放火かもしれないって、ほんとかなあ」

 「わかんないけど……」

 「先週末も仕事?」

 「いや……先週は休んだ……でも、来週はもしかしたら」

 「中間テスト、勉強する暇あるの?」

 「べんきょう!?」


 いきなりなんだい。そんなもん、適当だよ……。


 「ふうん。ゆすらは、進学しなくても狩り蜂協会に就職できるからいいよねぇ」

 「なに、それ」

 「おこった?」 

 「怒ってないけど……」


 やっぱ、そうやって思われてるんだろうなあ。公務員になりたかったんだけど……なんの因果かオバケ退治。


 それもこれも……いいや、もう。ゾンにあたったってどうしよーもない。

 「じゃ、またね」

 「うん……」


 あたしの家まで、歩いて二十五分くらい。坂を下りて代々木の方へ行く。にぃなの家は初台方面なので、途中で別れる。代々木公園を横切って……明心時代に造られた人工の森のど真ん中に本部道場がある。けしてばかみたいに広い敷地や屋敷じゃないけど、都内では巨大屋敷だ。ただし、住んでる人は少ない。


 「ただいま」

 「おかえりなさいまし」


 お手伝いさんたちにかしずかれ、制服のまま部屋へ行こうとしたけど、

 「よお、お茶でもしないか?」


 らいだ。こんな時間に本部にいるよ。珍しい。それにお茶だって。……お茶ってまさか、ババアーの茶室じゃないだろうな。そんな顔をしてたら、


 「ちがうよ。でかけようぜ。しんも来るんだ」

 「なんの風の吹き回し?」


 「中間テストが近いんだろ? 塾も行く暇ねえのに、本部道場の英才が学校の成績悪いんじゃ、体裁ってもんがな」


 「悪かったな!」

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