第1章 3-4 鵺

 ゾンが云うのも無理はない。あんな怪物が雷のゴステトラ!? あれもモンスターじゃん。いや、妖怪……かな。


 大きな身体は虎、顔は凶暴な猿……尾は大蛇で、空中を舞い、稲妻を発する。妖怪、ぬえだ。知ってる。本で見た。鵺だよ、あれ。


 その、動物園のサイみたいな大きさの鵺が道路の真ん中へ陣取り、びくびくと暴れる人狼をくわえていた。口元にはバチバチと電光が見えた。電撃で麻痺させている。その向こうに、腕を組んでらいが勝ち誇った顔で立っている。


 メギシャア! 鵺が人狼を難なく咬み殺し、仕事は終了した。

 あたしは腰が抜けたように膝から道路へ崩れた。

 


 帰りのクルマで、あたしはしょげていた。

 雷も、仕事が終わったのでふつうに走ってる。

 後ろに、帰ろうとしたら遅れてやってきたしんも乗っていた。


 「……すごかったじゃないか。一度に三匹も倒してよお」

 「うん……」


 「でも、惜しかったな。四匹ぜんぶ倒してたら、あっという間に紙切かみきりだったのにな」


 そう。そういうことか。ババアー。やってくれるぜ。


 「じゃ、あたしはひいばあちゃんの期待に応えられなかったってことだ」


 アッ、と息をのむ気配がして、

 「い、いやっ! そういうことじゃないと思うぜ。……たぶん」


 眞が後ろから雷の肩を小突いた。さすがに口を滑らせたと分かったのか、雷はバツが悪そうに黙ってしまう。しかたないので、話題を変えた。


 「でも、なんで四匹も同じやつがいたんだろ? 土蜘蛛って、一人が一匹になるんじゃないの?」


 「そりゃあ……」

 「四人が四人とも同じ土蜘蛛になった、珍しい事例かと思われます」


 「四人とも?」

 あたしが振り返って眞を見た。そんなことってあるの。


 「四人組ってこと?」

 「まあ……そうなるんだろうなあ」

 「ふうん……」

 まあいいや。よくわかんない。


 「土蜘蛛が、増えているんですよ。ここ、一年ほどで」

 「ふえるもんなの?」

 「わかりません」


 眞でも分からないのなら、あたしにはとうてい分からない。夕方、クルマはそのまま道場の裏手へ回って門を通った。二人と別れて、母屋に入る。ひいばあちゃんからは特に呼ばれなかった。あたしはお手伝いさんが用意した夕食を一人で食べて、一人でシャワーあびて、パジャマになって一人でベッドへねっころがった。この春から道場が用意してくれたスマホで適当にネットを見たけど、クラスの人たちとはあんな感じだし、ラインもインスタも、なにから何まで登録してない。いまどき珍しいと思う。


 「あたしが退治した土蜘蛛の写真をあげてもねー」

 グロ画像でひっかかって一発BANだわ。


 まして、ゾンじゃふつうにグロだし。ふだんから死体なんだから、ふつうに死体画像だよ。記念写真もとれやしない。


 もっとも、ゴステトラがちゃんと写真に映るかどうかは知らないけど。

 「……つまんね……」


 ゲームをする気にもならず、スマホを机に軽く放り投げ、寝ることにした。

 唯一、にぃなから着信履歴があったけど、かけ直さなかった。

 


 4


 ウーーー ウーーーー


 あたしが顔を上げる。また消防車だ。図書室のすぐ近くを消防車が走って行って、ドップラー効果で音が低くなった。


 「火事、多いね」

 独り言のつもりだったが、同じ図書室の常連の名前も知らない人が、


 「春先から、もう七件目みたい。マジで、放火じゃないかって」

 「えっ?」


 その子が、学校備え付けのタブレットでネットニュースを見せてくれた。全国版だ。

 「……ほんとだ」

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