第1章 3-2 人狼
あたしが前に出る。雷が少し離れてついてくる。道路には誰もいない。広くていい。広くないとゾンが暴れられない。
と、いつのまにかゾンがあたしの横を歩いてる。竜人だ。竜人といっても……ゲームやアニメのリザードマンみたいな筋骨隆々じゃない。でっぷりと太ってて、どっちかというと……やっぱりお相撲さん。背中にドラゴンの翼……みたいなのがあるけど、ぜったい空なんか飛べないよ。こんなメタボ体型じゃ。ドラゴンになったら超スゴイのに、このかっこうになんの意味があるんだろ……?
「今日は早いじゃない。出るのが」
「……まーな」
「どんな相手だろね」
「…………」
あたしを無視してるわけじゃない。ゾンビだから……反応がにぶいだけ。脳みそ腐ってる。いや、バカにしてるんじゃなくて、ほんとに。
「ゾン? 何か感じる?」
「おまえは感じねーのか?」
「え?」
思わずゾンを見上げた。ワニより太い下顎のあたりが見える。ゾンビでも、その強靱さが伝わってくる。
臭いをかいだが、土蜘蛛特有の金属的な変な臭いはしない……今までは、スクラップ置き場とごみ捨て場を合わせたような臭いがしてた。海風の匂いしかしない。
ゾンは鼻を鳴らして首をゆっくりと海側へ向けた。臭いというか、幽気……いや、障気を嗅いでる。
「こいつは、人狼だ。まちがいねーな。こっちにもいるんだな」
「人狼……」
思わず、足が止まりかけた。ちょっとちょっと……いきなり敵さんレベルアップしすぎじゃない!? 入門が相手をするもんじゃないような……。
振り返って
(そういえば、雷のゴステトラってなんだっけ……)
思わず、そんなことを考えてしまった。
「ユスラ、こっちだ」
珍しく、ゾンが先を歩く。映画やゲームのゾンビっぽく、ちょっとガクガクしているけど、歩幅が大きいから歩くのは早い。車道の真ん中で交差点を曲がって、海へ向かった。一帯は避難がすんでて物音ひとつしないけど、遠くから都会の色々な喧騒が風へ乗ってかすかに聞こえる。
後ろから海へ向かって、カモメが飛んでいった。
そのカモメが、いきなり変な音を立ててひしゃげて落ちた。
ゾンが止まる。
あたしの心臓が高鳴った。
フウ……フウ……という大きな息がして、二十メートルほど先の道路の角より、毛むくじゃらの人間が現れる。いや……人間だったものだ。顔が長い。手はふつうだけど、脚はもう、犬みたいなやつになってる。尻尾が竹箒みたいにボサボサで……耳がピンと立っていた。眼が血の色に光っている。よだれがすごい。狂犬病の犬みたいに……。
あたしは知らず知らず、ゴクリ、とつばを飲んだ。なんか……これまでの虫人間や悪霊もどきとは迫力がぜんぜんちがう。なんか、なんかすごく異様だ……。
人狼が身を屈め、カモメを大きな爪の片手でひっかけるように拾って、その口へ放り入れる。飴玉でもかじるようにバリバリと咀嚼して、あっというまにのみこんだ。ああやって、人間もうまそうに食べるのだろう。その前に、片づけなくちゃいけない……。
「ゾン……」
「…………」
「ゾンったら!」
「…………」
「ゾンンンン!!」
「……………………」
「いいかげんにしなさいよ、あんた!!」
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