第1章 3-1 土蜘蛛退治

 にぃなとはクラスは別。あたしがいつも図書室で本を読んでるから、図書局で図書委員のにぃなが話しかけてきた。どうも、狩り蜂やうちの道場のことに興味があるみたい。


 学校生活は、はじまったばかりだし、可もなく不可も無くってとこ。あたしのことはみんな知ってるし、ゴステトラで人間は襲えないから(襲ったら土蜘蛛になるし)べつにあたしのこと嫌ってるとか怖がってるとかじゃあないんだけど。


 いや、たぶんだけど。


 なにせ、ひいばあちゃんはここいらじゃ超超超超めっちゃめっちゃクッソ有名人だし、家もアレだし、イジメってえのはないわけ。いまんとこ。


 いや、みんな無視してんのがそうかもしれないけど。それは……こっちも望んでるし。


 「ゆすらぁ、図書室しめるよお」

 「うん……」


 先輩や先生にあいさつし、また二人で帰る。

 しょーもない世間話や、道場のことでそこそこ盛り上がりつつ下校してると、


 「お嬢」


 あたしに引けを取らないどころか輪をかけたぶっきらぼうな低い声。制服姿の眞が、コンビニの前であたしを待ってた。と、いうことは、つまり、あれだ。


 「どこ?」

 「芝浦……港湾地区です。いま、雷が車を回してます」

 「えぇえ、わるものたいじなの? 私も行ってみたいなあ」


 冗談。


 「ぜったいだめ!」

 「えーどおしてえ?」

 「危ないから」

 「ゆすらが護ってくれるでしょお?」


 そんな余裕はねえ!

 目を吊りあげて眞を見やる。眞が肩をすくめ、


 「僕が送って行くよ。家はどっち?」

 「えぇええ、いいんですかあ!?」


 しゃべらなければイケメンメガネ男子のしんがエスコートするや、顔をあからめてにぃながデレデレしだしたので、眞にまかせてあたしはらいを待った。


 何分かして、でっかい外車のSUVがやってくる。雷だ。ちなみに彼のクルマじゃなくて、本部道場のクルマ。すっげえエンジン音。うるさい。ランボルギーニの新車なんだって。知らないけど。おっと、左ハンドルだった。ドアがおもてえ。ふつうのクルマにしろっての。なんの見栄なんだか。


 「あれ? 眞は?」

 「ちょっと、野暮用で」


 見ると、なんか知らないけどノーネクタイで高そうなスーツだ。コロンもすごい。大学生でしょ? ホストのバイトでもしてんの?


 「じゃ、行くか。場所は知ってるし、後でくるだろうさ」

 ウィンクと同時に、狭い道をすごいエンジンとタイヤの音を立てて走る。


 「ちょ……っと、だいじょうぶ!? 警察につかまんない!?」

 「つかまっても大先生の名前だせばなんとかなるっしょ!」

 なるわけねーだろ!!


 あたしが目を丸くしているあいだに、クルマはなんとか警察に掴まらず、都道から橋を渡って海へついた。建物の合間から、レインボーブリッジが大きく見える。倉庫がたくさんあって、船もたくさん行き来してるのが見える。


 クルマをおりて、ひと呼吸……。潮のにおい。もう、仕事は始まってる。あたしも紙切かみきりをめざすけど、雷も目録もくろくを目指している。互いにライバル……というほどでもないけど、うかうかしてたら雷に全部持っていかられるのは確かだ。いくらあたしの補佐だからって……あたしのも雷の仕事だから。


 「どこ?」

 「あっちのでかい倉庫の影」

 「避難は?」

 「すんでる」

 「どんなやつ?」

 「さあ……そこまでは聴いてない」


 うそつけ。雷をにらみつけたが、ウィンクと爽やかな笑顔だけ返ってくる。ちくしょう、なんてやつだ。


 「これも修行……ってやつ?」

 「そういうこと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る