第1章 2-2 ひいばあちゃん
「おつかれー」
テニサーみたいな日焼けした笑顔と白い歯で、明るい方が親指をあげる。
「お疲れさまでした。いよいよ正式に入門ですね」
もう一人が、無表情でぼそぼそと云う。イケメンメガネ男子なのに、この暗さはどっからくるんだろ。もったいない。こっちが
「
雷がえくぼを浮かべながら片目をつむる。自然にそういう仕種が出来るって、ちょっとうらやましい。
「マジで? いますぐ!?」
少しくらい休ませろよババアー。と思っても口には出さない。それくらいは、できるようになった。
二人に連れられて、ひいばあちゃんの待っている道場の奥の部屋へ向かう。長いすべすべの廊下を何度も曲がって……まだ慣れない。一人では絶対に迷う。
「大先生、お嬢が戻られました」
襖の前の、廊下の床板に正座して、雷が声をかける。
「入ってちょうだい」
中から凛とした声がした。ウチで
「ただいま帰りました」
「ごくろうさま」
若い。何度見ても若い。美ババアーだ。九十三歳にはとうてい思えない。シャンと立派な着物を着こなして、背筋もあんまり曲がってない。どう見ても七十代にしか見えない。髪は見事に真っ白だけど、銀に染めているかのようにきれいに光っている。
「難なく、倒したようですね」
お華を活けていたひいばあちゃんが、青磁みたいな笑顔であたしを見る。背筋が凍りつく。すげえ殺気だ。いや、ひいばあちゃんのゴステトラがそうさせるのかもしれない。
ひいばあちゃん。
「あ、はい……なんとか」
「…………」
慣れない。写真ですら見たことなかったし。ママがとにかくひいばあちゃんとソリが合わなくて……それでも結婚して、パパの名前にしなくて天御門の名前を残したのは、一人っ子だったっていうのもあるだろうし、やっぱり何か想いがあったんだろうと思う。それに、もしかしたらあたしがこうなることを分かってたのかもしれない。
「え……と……」
あたしが汗をダラダラかいて正座していると、
「入門を許可します。三戦三勝。三月から初めて二か月とちょっと。なかなかいないわ。おめでとう」
「え……」
思わずひいばあちゃんの顔をみつめた。見たことない笑顔があった。
緊張と照れで、赤くなって、うつむいてしまった。情けない……。
「蕗春、春風」
「はい」
また襖を開け、廊下で正座していた二人が礼をする。
「
「おまかせください」
二人して、大まじめな顔と声でそろってそう云った。
あたしはおずおずと礼をして、足が痺れる前に立ち上がるとまた礼をし、下がった。襖の前でちょっと振り返ったけど、ひいばあちゃんは、もうあたしを見ていない。
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