第1章 2-1 山桜桃子
「シャガアア……!!」
などと牙をむいて威嚇し返しても、ゾンの前ではしょせん虫ケラだ……。
「オオオオオ!!」
ゾンが走った。一歩、二歩、三歩……地震みたいに地面が揺れる。そのまま公園をつっきって車道に出るんじゃないかと思ったが、そうはならなかったのでほっとした。ただ、土蜘蛛を踏みつぶしたまま気づかずに車道の前まで出て、目標を見失ってキョロキョロしてる。
「はあ……」
つかれる。
2
というわけで、あたしは
この春から中学一年。八月生まれなんでまだ十二歳。小学校までパパとママといっしょに調布のマンションに住んでたけど、中学から狩り蜂として本部道場……つまりママの実家に住むことになった。おばあちゃんは、あたしが生まれる前……ママが高校生のころ、亡くなったって聞いてる。そう、土蜘蛛との戦いで。
それでママはひいばあちゃんに反発して、道場を出ちゃった……らしい。
それで、なんであたしがママの嫌ってる実家の本部へ戻ったかというと……よくわかんない。あたしは、云われた通りにしてるだけだし……。
ただ、どう考えてもゾンの存在というか発現が関係してる。そうでなきゃ……あのひいばあちゃんがあたしなんかを本部に入れるわけないし、ママがあたしを本部なんかへ出すわけないから。
「ただいま」
本部の正門には、大きな提灯があって丸に星のマークがある。五芒星ってやつ。
その通り、ウチの先祖は京都の陰陽師で、ウチは室町時代くらいに
日本のほとんどの狩り蜂はウチに所属している。ウチに所属してない狩り蜂も、中にはいるらしい……。けど、それって無資格ということだから、モグリの狩り蜂になる。仕事の依頼は無いわけではないみたい。裏社会っていうか……ヤバイ仕事は世の中にはちゃんとある。だけど、そういう狩り蜂は遠からず土蜘蛛になる運命なんだって。
だいたい、土蜘蛛は狩り蜂のナレノハテったって、ウチに所属してる狩り蜂たちがそんなたくさん土蜘蛛に「
ちなみに、世界狩り蜂協会の本部はイギリスにある。明心時代になって、イギリスからゴステトラの概念が入ってきた。それが、日本でいう狩り蜂の守護闘霊と同じだったんで、日本も近代化と同時に世界狩り蜂協会に加入して、世界狩り蜂協会日本支部兼日本狩り蜂協会本部になった。
日本狩り蜂協会も、全国に支部がある。いまは北海道と大阪と九州にあって、それぞれ江戸時代に別れた
いや、それ以前にウチの中でも……ね。ま、ウチは当主のひいばあちゃんがうんって云えば誰も文句を云わないけど。
「おかえりなさいまし」
道場の建物を回って母屋に行って、勝手口というか裏玄関から入るとお手伝いさんたちがあたしに挨拶する。初めて来たときは完全無視だったけど、正式に天御門家の人間として門をくぐったとたんこれだ。やだねえ。道場とか、お教室とか、家元とか、そういう空気。大っ嫌い。
玄関を上がって長い廊下を歩いて、自分の部屋へ向かう途中に、二人の男の人が待っていた。一人は大学生、一人は高校生だ。一人は明るくて、一人はあんまり明るくない。暗いというでも無いけど……対照的な二人。あたしのサポートだっていうけど、今の段階ではあたしの方がぜんぜん弱い。というか使えない。素人だもんね。子供だし。お目付みたいなもんだろうと思う。
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