Japan48よ、歴史の証言者たれ
「2020年まで?いないよ。JAPAN48?邪魔でしょ、私がいたら?」
日刊スポーツ記者、有働留美の取材に指原莉乃はこともなげにそういった。
リオが終わったことで世間の目はもうTOKYOに向いている。
メディアからの取材でもそれにかかわる質問が徐々に増えてきている。
なのにAKB48グループは未だにオリンピックに対して何も態度を表明していない。
4年後、私達の見る夢はどんな夢なのか
そこから見える景色とはどんなものなのか
何よりも私たちは4年の時を経ても存在しているのか
4年やそこらで東京の景色はそうは変わらないだろう。
ただ景色は変わらなくても人は変わる。4年もあれば人の心もその有様も根底から変える事ができる。
3か月もあれば私たちは消えてなくなる、よく凛子さんがそう言っていたのを思い出す。
今日も数百人の人たちであふれる記者会見の会場。同じような景色を見て彼女が言う言葉はいつも決まっていた。
「彼らが潮を引くようにいなくなる光景を私は幾度となく見てきた。それを今でも頭の隅に焼き付けている、だから私は強くなれる。
あんたには思いもつかない事だろうけどね、横山総監督」
彼女は彼女なりのAKBの未来予想図があったのだろう。そういう意味では、ある一点に置いて、秋元先生と相いれる部分があったのかもしれない
「時代の移り変わりを俺たちは何も経験していない。よく宝塚歌劇をAKBになぞらえてくれるひとがいるが、冗談じゃない。我々のやっていることは歴史のほんのさわりを賑やかしているだけに過ぎない。オリンピックをあと5,6回、AKBから見れたなら、そのとき初めて我々は時代について語れるようになるのかもしれない。」
秋元先生の言葉を借りるなら私達はなにひとつ歴史を目撃していない。
だとしたら・・・
「見てみたい、みんなで見るオリンピックの景色はどんなものなのか」
4年後、許されるなら、やってみたい、
その決意を秋元先生にメールで伝えたその返信を私は何度読み返したのか、わからない。
───ここにきて今俺はお前たちに夢を与えていいのかを考えている
ここにきて敢えてリスクを取る意味を考えている。
四年後のオリンピックはAKBにとってはタフなものになる。
いろいろな意味で試されることになる。
お前たちの実力を、お前たちの正体を。
それをみんながしっかりと理解したうえで目の前の夢を選択しないとAKBは行く道を見失う
夢は大きいほうがいい、そんなことはわかっている
アキバのホーム、TOKYOでのオリンピック、だから参加は当然。そんなこともわかっている
ただ、お前たちにその覚悟があるのかどうかを俺は確かめている。
横山総監督と共にどれだけ結束できるのかを見極めている。
2020年はアキバの15周年と重なる。その年がAKBの終わりの始まりになるかもしれない、
それを理解しないといけない
そうでないと、俺もお前たちも前へは進めない
やる気なんだ、私はそう思った。
4年後に関してはマイナスイメージしかないAKBだけど、秋元先生はもう走り始めている、
私はその時そう思った。
「横山!」
「えっ?」
「なにぼーっとしてんのよ、聞いてなかったの、私のインタビューー?」
「私はどうなるか分かれへんから」
「うん、何?」
「そやから、あんたはどうであろうと、わたしは居てるから、4年後」
フフ、その事?小さく耳元に吹きかけるようなさしこの笑いが漏れる。
「本音だと思う? んなわけないでしょ。後ろから邪魔だ、どけって、言われないかぎり、私は居るよ、ずーっと」
ただ、それまでアキバがあるかどうか、それはわかんないよ、
最後に唇を少し噛みしめながら、さしこはそう言った
指原莉乃でもAKBのいく末は見えないらしい。
なんてみんな弱気なんだ。そう思うかもしれない、けれどそれは強気の裏返し。
解散の二文字を背負うこと、その覚悟が私達の前へと進む勇気、推進力に繋がってきたといっていい。
「全然いけるじゃん!ふたりとも27歳だよ!」 突然、ぱるるの声が後ろで弾ける。
「声が大きいって、ぱるる」
「もう誰もいないよ、まゆさんが全部連れてった」
見れば、会場の片隅で麻友の囲み取材が始まっていた。
2020年、もしAKBが東京五輪に関わるようになれば、それを見越してやめるメンバーも減るかもしれない。少なくとも去年から今年へとつづく卒業の連鎖はとまるだろう。
けどこの二人に限っては,やっぱり私には見えてこない。
ある意味、アキバの憂鬱、ぱるるとまゆゆ。
さしこと目が合う、何か言いたそうな彼女の視線をその緩んだ口元で私は理解する。
「じゃあ、あんたはどうなんや、ぱるる」
「どうって?」
「2020年の東京オリンピック」
「う~ん、いっぺんやめて戻ってこようかな、オリンピックの時だけ」
「フッ、なんでやろ、あんたが言うと冗談に聞こえへんもんなぁ」
「でしょ、ふふ」
辺りににほのかなオレンジブロッサムの香りが漂う、振り向けばその視線の先には有働留美がいた。
「その言葉は記事にさして貰うわよ、ぱる」
記者会見の席上を意識したのか、いつもの超ミニのジーンズではなくレザーのナチュラルミニ。けれど歩くたびに腰が左右に振れるタイトさはやはり留美姉ならでわ。視線を落とせば真っ赤なフェラガモのパンプスが目を引く。トップスはいつものライダースジャケット。その胸から覗く谷間はとても新聞記者とは思えない
「留美姉!」
ぱるるの声が弾む。今では彼女の第一信奉者のぱるる。菊地凛子を自分の前から消してくれたのも彼女だと信じ込んでいる。自分を必ず誰かが守ってくれる、そんな王子様願望を未だに捨てきれないでいる、姫ぱるる。(私も、その王子様のひとりなんだけど)
「いいけど、でも書くなら、4年後にしてね」
「4年後?あると思う?AKB」
「留美姉までそんなこと言うんだ」
ぱるるの表情が曇る。
だってしょうがない。みんなこの十年の奇跡を嫌というほどわかっているから。
アイドルが何者なのか、どれほどの者なのか。
痛いほど骨身にしみている人間ほどそんな言葉が口をついて出る。
アイドルなんて・・・
「例えばの話やけど、留美姉」
私は言う。
「うん」
「私の27歳での総監督、留美姉は見てみたい?見たくない?」
「由依の四年後か・・・」
留美姉の心の中を覗く、それで私はいつも救われてきた。私のここまでのAKBは彼女と共に歩んだ道と言っていい。 同期のなかでは最速の昇格、ご飯ものどに通らない状態だった私を当時私の神ヲタだった留美姉に助けられる。大阪での握手会、それは僅か十秒のはじめての出会いだった。
「あんたなんか誰も見てへん、だから安心してステージに上がったらええねん」
私ははがしの人に引きずられていくツインテールの女の子を呆然と見送った。
ジーンズのミニにライダースジャケット、すらりと伸びた小麦色の脚、ピンクのナイキのスニーカーがずっと目に焼き付いた。
のちにその子は運営の人たちのなかでは伝説になっていた子だと知る。三期のオーディション、三次審査まではゆきりんを抑えてダントツの一位。そして最終審査が病欠で落選。
のちに秋元先生の強い肝いりででAKB入りを打診するも親御さんの反対で断念した。
三日間布団の中で泣きはらした,後に留美姉から私はそう聞いた。
「怖いもの見たさで見てみたい気はする。けど、そこまでやるのはやっぱり由依やないような気もする。それに精神的にも物理的にも横山由依には負荷が多すぎると思う、四年後は」
「それでも私がやりたいというたら?」
「う~ん、それはその時になってみやんとわからへん。そやけど、それはそれで認めてしまうねんやろなぁ、結果的には。
気が付いたらもう無我夢中で由依の背中を押してる私がいるのかもしれへん。
けどこれだけは言うておく。あんたがそこまでとどまることは後ろにつづく子たちの夢を奪うことになる。総監督とはそういうもんや。たかみなさんがやめた訳、それを一番よくわかってるのはあんたなんやろ、由依」
「じゃあ、さっしーはどうなのよ?彼女も一緒じゃない」
まるで子供のようなぱるる。ぱるるは横山といると少女になる、島田がよくそんな事を言う。
22歳の少女は口を尖がらせながら私の援護に打って出る。
「さしこの四年後は・・・あるかもしれへん。それは人気や実力がどうのやなくて、自分を捨てられる子やから。その時々に応じていらん自分と必要とする自分を見極められる子やから。
由依ならわかってくれると思う、わたしの言ってることが。」
「4年は思う以上に長い、そのなかで上手に変わっていける人間だけが生き延びる
そいうわけ?」
「うん、4年の間、自分が嫌になる日がきっとある、その時誰もが選ぶのが卒業。
由依も例外やない。いや逆にあんたは一番それが強いと思う。
迷わず選ぶやろ、あんたなら」
「その点、さしこは自分の自我を俯瞰で見れる。彼女のなかで真実はひとつやない。ぱるる姫にはわからんやろけど」
「なら、どうすればいいの、由依は」
「綺麗ごとを捨てるということでしょ。簡単に言えば」
さし子が言う。「
「そうとも言える。けど、それは何もさしこが綺麗ごとを捨てているという意味じゃなくて・・」
「いいのよ、気を使ってくれなくても。綺麗ごとなんかくそくらえ、私の目指すところはそこにあるんだから」
悪役、わたしはそれでいいのに。さしこのそばに居るとそんな言葉は溜息のようにいつも聞こえてくる。二番手三番手が私の理想、そう研究生時代に夢を語っていた指原莉乃がまだ私の心のなかにはいる。それは遠い記憶でもなんでもなく今でもさしこの目指すところにある、少なくとも私と留美姉はそう思っている。
「ヒール上等なのよ、私は。上に立てばつぶされる、私の場合どこまでも落ちていくかわかんない。だから微妙な立ち位置で踏みとどまる、そう思ってたんだけどね」
「抜いちゃあ駄目だったんだ、あの人を、指原莉乃は」
留美姉の視線の先には、渡辺麻友。大勢の報道陣による囲み取材はまだ続いていた。
時折こちらを見て手を振るまゆゆをさしこは眩しそうに見つめた。
「敦子さん、優子さん、そして麻友。その流れを潰しちゃった私って何だろうね、留美姉」
さしこはいつでもまゆゆに白旗を上げている、それを世間はわかっていない。
まゆゆがいなくなるAKBを一番恐れているのは指原莉乃、それを誰もわかっていない。
それをわかっているのは私だけ。それが私にはすこし誇らしい。
「由依、見て。東京タワー綺麗だよ、いろんな色に光ってる」
ぱるるが指をさす東京タワー。会場の窓から五色に輝いて見えていた。
今日はリオの閉会式の日、それは東京へのスタートの日でもある。
それを祝っての点灯なのだろうか。
「覚えてる?由依がいつも東京タワーを見るたびに言ってたこと、
関西人は東京タワーを見て力を貰うんやって」
研究生時代、週末に東京と京都を往復していた私は東京タワーを見ると東京に帰ってきた自分を実感した。
そして東京に負けずに生きている自分に改めてエールを送った。
それは今にして思えば京都人の誇りを、なくしてしまいそうな自分の小さなプライドを東京タワーにぶつけていたのかもしれない。
「力を貰ってたんやない、東京なんかに負けるもんかって、言ってたんや、私は」
東京があの時わたしにくれたもの、それを今も、そしてこれからも私はメンバーにみんなに返していく、わたしの中の東京とはそういうことなんや、ぱるる。
そして4年後に向けて東京は進化を始める。あらゆる箇所がパワーアップしていくだろう、人も街も。そのとてつもなく大きな波に飲み込まれることなく私達はついていかなければいけない。その波を私達が乗り越えたとき、きっと彼は言ってくれるだろう。
JAPAN48よ、歴史の証言者たれと。
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