第二章②:跋迴仙衝(ばっかいせんしょう)

 真夏から三ヶ月の捜索を経て季節が秋に移り変わり、時折り涼んだ風が体を過る真っ昼間。真也達は50人ほど集まっている朝鮮人の武装集団を前に、各地区から運動能力に長けた生徒をかき集めて選抜メンバーを結成した。サッカーでユースに選ばれた者、東京都の都内100m走11秒で1位を獲った者、関東大会5000m4位入賞した者、バスケットボール部で全国選出した者、喧嘩慣れした番格達といった様々な実力者を一ヶ所に集めたのだ。そして凶器を持った暴走族の先輩10人が加わり、真也達選抜メンバー20人と合わせて30人集結した。

 向こう側の頭角が凶器持って速攻で突っ込んできた為、前方遠くにいる先輩達が相手に怒鳴り散らしながら走っていく。


「危ねぇだろうが、んのやぅろぁあ”あ”あ”あ”!!」


 するとアドレナリン全開で相手方50人が一斉に走ってきて、先輩の頭角が凄まじい罵声でそれらの一時停止を要求する。相手が止まると、こちら側の頭角が懐(ふところ)からコンバットナイフを2本取り出し、その2つを思いっきり地面に突き刺す。


「おい、スマン(相手側の頭角の名前)てめぇゴラァ……!! 日本人を目の敵にしてんなオラァ!!」


「貴様ら日本人に舐められる訳にゃあいかねぇんだオラァ!!」


「だったらよぉ、うちらこのままのメンバーでやるけどよぉ。50対30か? いつでも良いぞ、もしくはこのナイフ2本でテメェと……俺で……殺し合いするか? どっちか選べ」


 真也は29人の一番背後に居た為、その頭角達の罵声が僅かに聞こえる程度だがメチャマン(乱闘の通称)になるのを確信していた。なので、それに備えて仁王立ちして威嚇している暴走族の後ろで、その仲間達に瞬発的な閃きでSRPGの如く一人一人に近寄って戦術を割り当てていく。


「おい竹島とヤス、まずお前らは肉壁だ。いいか覚悟出来てっか? 絶対倒れんじゃねぇぞ? 倒れたら顔を踏み潰されて死ぬかもしれねぇからな、絶対に耐えろ。肉壁としてお前ら二人で突っ込め。いいか、今は上の人間が話し合ってんだろ?」


「いいヨ~」


「任しとけ」


 真也は微笑しながら彼らに問いかけ、二人もそれに同調しつつ頷(うなず)く。


「おい駿馬(しゅんま)、お前100m超速ぇよな。お前は短距離相当優れてて、都内に追い付ける奴は誰も居ない。分かるか? 取り敢えず飛び蹴りでも、顔面パンチでもジャブでも何でも良いから“おいチョン校! お前ら来いよオラァ!!”っておちょくりまくりながら短距離で逃げ回れ!」


「あぁ、そんくらい余裕でやってやるよ!」


「おし、その意気だ。んで次、かーくん。お前も長距離じゃ誰も敵わない、だからお前も駿馬と同様に攻撃力とか無くて良いからとにかくおちょくりまくって、相手の攻撃を掻い潜りながら持久戦に持ち込め! 走り回れ! 危なくなったら必ず俺が助けに行く!」


「分かった、任せろ」


 そうして仲間各々の体型や能力に合わせた指示を順に飛ばしていくが、全員に行き渡るのを待たずしてアドレナリン全開でブチ切れてる創(はじめ)が、先輩同士話し合っている中に突っ走って行ってしまう。


「テメェかこらチョン校んの野郎ォルルァア”ア”!!」





「……ちょちょちょちょい待てぇーい!!」


 真也は創をストップさせるよう呼び掛けるが、創は一切振り向くこと無く叫び散らしながら直進する。


「あいつダメだわ、もう止めらんねぇし放っとこ……」


 創は先輩達を掻き分けて周囲に構わずスマンの髪の毛を掴み上げ、顔面に凄まじい勢いで凡そ30発程の鋭いパンチをブチかまし先制攻撃を喰らわせる。そしてスマンを殴り倒す勢いで地面に力一杯押し倒す。


「殺すぞゴラァア”ア”ア”ア”!!」


 創が暴言吐きかけるのをゴング代わりに、各々にスイッチが入り戦線の幕開けとなった。


        「「「「「ゴラァア”ア”ア”ア”ア”ッ!!!」」」」」

     「「「「「「「「ウラァア”ア”ア”ア”ア”ッ!!!」」」」」」」


「っしゃあお前ら作戦通り行けオラァアアアア!!」


 真也の指示で18人が動き出し、先輩方も同時スタートで動くがその人達は作戦外で連携取れないので、勝手にやらせる形で放置した。

 仲間内で作戦通り上手く立ち回っている中、能力がそこまで長けていない仲間は人数差に押し切られて10人程に袋叩きにされる状況に追い込まれてしまう。それを後ろから見ていた真也は部分的に判断し、応戦すべき箇所を見極めて突っ走っていく。

 ブッ倒れてる仲間を殴っているという事は、相手は屈んで低姿勢の状態になっている。その低い位置にある後頭部や延髄、腰などに目掛けて隙をついて思いっきり跳躍し、60cm浮いたところに全体重の78kgを乗せた踵落とし一発で相手を仕留める。そして、倒れた相手に顔面ストンピングで追い討ちをかけ戦闘不能にさせ、血まみれになった相手の顔面に勢い良く唾を吐きかける。


「んのやろぉチョン校が……、殺すぞァ”!!」


 そういった流れで真也は一人ずつ一撃で沈めて数を減らしていくのだが、その際に持久力に長けたかーくんが相手に取っ捕まえられてしまった。

 その捕まった理由は、足の速さと長時間走れるのに長けているとはいえ、人数差による壁の多さと凶器の幅によって広く囲まれてしまい、丸腰のかーくんは抵抗する間も無く殴り倒されてしまった。そして捕まったかーくんが複数に容赦なく速攻で打ちのめされてしまったのを見て、真也は殺されかかっているかーくんの身の危険を察知し早急に駆けつけた。そしてかーくんの顔面に凶器を振りかざしている相手の顔面に向けて、走った勢いを殺さず真空飛び膝蹴りを決め込む。そして蹴り飛ばされた相手の横にいた連中に、真也の得意技である側刀蹴りや金的蹴り、眼底骨折狙いで眼球目掛けて拳底(しょうてい)といった技で一撃ずつ決めて打ちのめし5人一気に撃破。そして起き上がってこないよう、倒れてる連中に顔面もしくは心臓部分にストンピングで仕留めていく。

 そうした勢いで徐々にまた数を減らしていくのだが、相手も気合い十分に入っているので凶器を振り回して突っ込んでくる。


 そして次に真也が向かったのは、指示通り肉壁に徹しているヤスと竹島だ。彼らは持ち前の優れた防御力で、常人ならばすぐに打ちのめされるところを、振りかざしてくる数々の凶器に対し必死で堪えていた。

 そこへ真也は、即座に応戦するよう側刀蹴りを決めに突っ込んでいった。その速さは50m走6秒を叩き出す駿足で、戦況の中で走り回る遊撃に最も適していた。その走った勢いに体重78kgを乗せた側刀蹴りで、背骨や脇腹狙って蹴り飛ばす。そしてまた倒れた相手にお決まりの顔面ストンピング。

 順調に応戦して回って数減らしてるところに、突如絶叫のような咆哮が聞こえてくる。


「(ん、何だ!?)」


 真也が咆哮の方へ振り向くと、真也に目掛けて間近で朝鮮人が青竜刀を振り翳(かざ)してきていたのだ。その様子が見えた瞬間から、真也は感覚的にスローモーションのような速度に見えたのだ。そして、その振り降ろした時の風切り音も実際は炸裂音のように一瞬なのだが、真也にはそれもゆっくりと引き伸ばされたようにエコーがかかって聞こえてくる。だが真也は素手にも関わらず、つい癖で左腕を上に構えて上段受けを繰り出してしまった。


「(ーーやべっ!! これは腕が飛ぶッ!!?)」


 青竜刀の刃先が腕に直面する寸前、真也は本能的に意識を突き動かされ初めてクロックアップに目覚めた。


 クロックアップとは、死に直面するような危機的状況に陥った時などにおいて、突発的な本能によって瞬発力と反射神経が急激に跳ね上がり、周囲の人間含む全ての光景がアニメーションのようにカクついてスローモーションに見える事である。そして、その状態は周りがそう見えるだけでなく、身体と意識も急速に動けるようになっているので確実に相手より先に立ち回れるのだ。

 その覚醒した瞬発力によって力一杯地面を蹴って、自分の身体を壁から跳ね返るピンポン玉のように後方へと跳躍させ、間一髪で刃先の直撃を避けることが出来た。しかし、腕を丸ごと持っていかれはしなかったものの、肘の間接辺りを僅かに掠(かす)めてしまった。その掠めた部分は薄らと触れた感覚だったのだが、まるでしっかり切り込まれたかのように傷口が、刃を掠めた直後に切り開かれてしまった。そこから流血が勢いよく地に注がれる。


「痛ってぇなァん”のや”ろ”ぁ”ア”ア”ア”ア”!!」


 怒りのボルテージが急上昇した真也は、刃の隙を掻い潜って喉仏に側刀蹴り決めて力一杯蹴り飛ばした。相手は勢いよく地面にブッ倒れ、口から泡が混じった血飛沫を吹き出し痙攣する。そして吹っ飛んだ相手に向けて跳躍し、鳩尾にストンピングで地面に叩きつけて唾を吐きかける。


「んの野郎ァ”ア”ア”ア”!!」


 真也が咆哮を咬ましているところ、今度は横からまた2mもある鉄筋を長槍のように持って朝鮮人が突っ込んできた。真也は青竜刀を持った相手に意識を向け過ぎたせいで、腹をブッ刺しに来た鉄筋に不意を突かれて気づいた時には至近距離まで迫っていた。


「(うわこれヤバっ!! 刺さったら死ぬッ!!?)」


 真也は迫り来る死線を、全ての意識と力を左腕に込めて思いっきり自分の腹の前に振り降ろしガードを構え、左の前腕中心部に鉄筋が突き刺さった。


「ッぁあ”あ”ぁ”あァア”あ”ッ!!」


 身体の内側から骨が砕ける生々しく痛ましい音が響き、悲痛の叫び声を上げた。その声を聞いて振り向いた真也の仲間達は、全員が蒼白の表情を浮かべた。


「し……、真也ぁああああ!!」


「オイ、なに余所見してんだオラァ!!」


「う”ぉへぁッ!」


 周りで凶器を振り回している残りの朝鮮人達は真也の様子を笑い飛ばして、大きな隙ができた真也の仲間達を一方的に痛めつける。


「いっ……つ……」


 突き刺さった真也の左腕は、前腕の中心部が折れてしまい自力で全く動かせない。鉄筋を引っこ抜かれ、見えた傷口は肉が丸ごと抉(えぐ)られ骨が剥き出しになっていた。その傷口と刃の切り口の二ヶ所から、絶え間なく流血が溢れ出てくるせいで左腕が次第に赤黒く染まっていく。


「……真也ぁあああ!! やり返せぇええええ!!!」


「負けんじゃねぇぞオラァ!!」


「……」


「うるっせぇんだよボケェ!」


「がァ”ッ……!」


 自分の赤黒い左腕、リンチされてる仲間達、そして鉄筋を握りしめた朝鮮人。真也は僅かな時間でそれらを見回し、一呼吸置いて気力を昂らせ、鉄筋持った朝鮮人へ凶器を回避しつつ、一気に距離をつめて金的蹴りを咬ました。


「う”ぅ”お”ぉ”ぉ”お”お”ぉ”お”ぇ”!!」


 朝鮮人が呻き声を撒き散らし、前方に傾き始める。そこへ転倒する前に剛柔流で習わない技の一つ、腰を入れてブラジリアンハイキックのように右上に振り上げ、足を真下に振り降ろすまでの遠心力を利用してつま先で力一杯跳び上がる。そして空中にいる間に片足を振り上げ、相手の顔面がミドルキック圏内に合わさった瞬間に上段回し蹴りを叩き込んだ。するとまるで格闘ゲームのように、回転しながら相手は後方へと吹き飛んでいった。


「舐めんじゃねぇぞゴラァア”ア”ア”ッ!!」


 叫び散らした後、真也は最後にスマンの元へと突っ走り顔面を踏み潰す。


「聞こえてっかゴラァ……!? てめぇら日本人を的にかけやがってんの野郎ァ……」


 その横で、朝鮮人の残党を暴走族の先輩達がニヤついた顔しながら朝鮮人の顔面に目掛けてバットで何度もフルスイングを打ち込んでいた。


「ッへッへッへェ……、超楽しいんだけどこのバッティングセンタ~!」


 その光景を傍らに、真也は耳を引きちぎる勢いでスマンの耳を掴んで引き寄せる。


「おいスマン! 聞こえてッかッルルルルァ……、おい聞こえてッかゴラァ!!」


「……」


「てめぇらが的にかけたのは俺らだぁ……、やられたのお前らだよなァ? 負けを認めろゴラァ……」


「……」


「今から言うことをよく聞けこらスマンてめぇ……、お前ら気持ち悪ぃスミダニダアムニダァ!! しょうもねぇ! っはっはっはっはァ!」


 思いっきり耳を握りつぶし、真也は立ち上がった。


「よし、解散!!」


 真也がそう言った途端、朝鮮人達は蜘蛛の子散らすような勢いで散り散りに逃げていった。


「うし、解散! 皆、デコ助(不良達の間で、警察をバカにして呼ぶ時に使われる通称)来っから俺らも逃げっぞ!」


 真也は仲間達と一緒に逃げていったのだが、その後すぐに警察が現場に駆けつけて何人も病院に搬送され、真也達はすぐに警察から保護者同行での呼び出しを喰らった。

 そして真也は母親を連れて、仲間達と一緒に保護者連れで警察署に集まった。そしてそこで、警察官が真也達に向けて告げる。


「あの~、これはね、国際問題にね、発展する可能性があるからね、学校側がね、解決してほしいね、これね」


 といった具合にふざけた口調で彼らに述べた。


「まぁ前科前歴とか、そういう傷害とか、そういった事件の扱いにはならないのでね、今回は学校同士でね、話し合ってください」


 それだけ言われ、すぐにその場からは解放された。そして、指示通り学校に行って、一斉に保護者共々会議室に集められ話し合いが始まる。そこでまず知らされたのが、“13人が集中治療室に送り込まれた”との事。そしてその中に、亡くなられた人がいるかもしれないと。現状その13人の状況は把握出来ておらず定かではない。

 そしてその13人に関しては傷害事件にはなっておらず、医療費は相手側の国民健康保険によって賄われ、残りの何%は自費で支払う事になるので、真也達の保護者がその13人分を支払うようにと学年主任や生活指導の教員から言い渡された。その中で真也は家からはその医療費を支払えないので、真也が働いて稼いだ資金から支払った。彼らが支払った請求金額は合計で凡そ400万円。

 そして学校側は向こうの教員の側の方々と話し合った結果、金輪際、在日朝鮮人の学校と日本人の学校は一切関わりを持たないことを約束した。そして真也達の間に関しても、向こう側が朝鮮人生徒を真也達と関わらせないようするとの事で、今後関わりを持たない形での収拾がつけられたのであった。




つづく

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