第二章①:異争前線(いそうぜんせん)
先日、父親の容態が急変して視力の半分を失ったことにより、真也は再び荒れ始めた。それにより、父親が仕事出来ない状態に陥っている為、安定した収入を得られず次第に生活が困難になっていく。
しかし、今回は幼少期に真也が患ったマイコプラズマ肺炎の時のように、祖父母から資金面の手助けを借りる事が出来ない。その理由は、父親が完全にもう仕事に就けない状態で母親も看病に付きっきりになる為、収入を得られず車や住宅のローンも払えないので破産し生活保護を受ける形になる。その生活保護を受けるに当たって、身内から資金の援助を受けるとその保護を解除されてしまい、どちらか一方の援助しか受けられないからである。祖父母がずっと援助する訳にもいかず、束岡一家に元から選択肢など与えられていなかった。
生活保護を受けるも、生活は苦しくなる一方で真也もみるみる痩せこけていく。そのような状態でも真也は学校へ行き、週4日の空手にもしっかり通って鍛練を積んでいた。
そうして耐え続ける中、学校では色々なストレスがかかって内心が荒れ狂う彼を学年中の生徒が毎日のように心配し歩み寄ってきた。
「ねぇ、どうしたの?」
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「うるせぇ……」
「何かあったんじゃないの?」
「目が赤くなってるよ……?」
「何もねぇよ……」
一年前とは違い学年中の生徒と友人関係を築いている為、誰にも暴力を振るわず不機嫌にあしらうだけに留まっている。その真也を囲む十数人の男女生徒を掻き分けて、創はじめが彼の正面に立つ。
「ほうほい、ちょっとゴメンよ~通してくれ~っと……、おう真也! どうしたんだお前、その顔……」
「何もねぇって」
「……ちょっと来い」
「んだよ面倒くせぇな~、気分じゃねぇんだよ放っておいてくれよ」
「いいから! んじゃ皆悪いけど、ちとこいつ借りてくな~」
「うん」
「やっぱ創だなぁ」
創は軽く真也の手を引いて、生徒の群がりから離れるように歩いていく。
「もういいだろ、離せって」
「良くねぇよ、いいから人居ねぇところに行くぞ。そこで俺だけにでも話してもら……おい真也」
「何だよ」
「あれ見てみろよ」
「あぁ?」
真也は創が指差す方向にいる、頭に包帯を巻いた男子生徒に目を向ける。
「ほらあいつ、頭に包帯巻いて如何にも大ケガって感じだろ」
「んなもん、とっくに見慣れてんだろ。今更何言ってんだよ」
「いや、ここ最近あぁいう怪我した奴をこの学校でよく見かけるんだよ」
「知らねぇよ、どっかに喧嘩ふっかけたんじゃねぇの」
「んなあっくんみたいな奴ばっか居てたまるかよ、何十人も見かけてんだぞ? その中には喧嘩しなさそうな奴とか、女子までやられてんだぜ? さすがにおかしいだろ、ちょっと聞いてみようぜ」
「分かったよ」
包帯を巻いた細身の男子生徒の元へ二人で駆け寄ると、生徒は体をビクつかせながらこちらを見る。
「ひぃいいいっ!? 勘弁してくださいお願いします!」
{何もしねぇよ」
「悪いな、真也は今こういう顔なんだ。で、その怪我どうしたんだ?」
「え、あ……あの……」
生徒は胸を撫で下ろし、ゆっくりと一呼吸おいてから話し始めた。
「えっと……何か普通にその辺をフラフラ歩いてたら、いきなり片言で喋る連中に囲まれて……」
「片言ってことは外人か、顔はどんな奴だった?」
「確かアジア系というか日系人ぽいっていうか……いっつつ!」
「中国とか朝鮮とか、大体その辺ってことか」
「ん? おい確か朝鮮人の生徒といや~……」
「あぁ、確か去年卒業してった3年の先輩達が言ってたな」
彼らは中学1年生の頃、卒業していった先輩達の1人に在日朝鮮の中学から転校してきた先輩がいた。その先輩から、念を押すように1年間言われ続けていたことがある。その内容は、“決して、朝鮮人とは喧嘩をするな。何故なら奴等は、電話一本で100人単位が集まるからだ。そして人数の差で押し切られて、対日本人用に学んでいる武術もある。とにかくアイツらは簡単にそこら中から人が集まって徒党を組んでくるから注意しろ”とのことだった。
しかし真也達ちは直接関わりがなかったので、それほど気には止めていなかった。だが、日を追っていく毎に大怪我した生徒が増えていく今回の事態に至り、先輩の言葉の重さを実感しつつあった。
大怪我した生徒全員に聞いて回ると、揃って皆“在日の朝鮮人にやられた”と小声で呟くのだ。その内容を追って近場を調べていくと、『朝鮮第4中学校』ということが判明した。そこは真也にとってあまり敵視していなかったのだが、その聞いて回った話を帰宅して両親に話してみた。
「あのさ、最近理由は分からないけど、うちの生徒が片っ端からゲーセンとか裏路地でボコられてるんだよ。だから、今回はそいつらをボコしに行くよ。俺らが潰すって、心に決めたから行くよ」
「そこの高校と中学は、かなりやばい。俺らが学生時代の頃からいざこざがある」
「えぇ、かなり残虐な行為をしてくるので有名よ。例えばカミソリの刃を2本ずつ、人差し指と中指と薬指の間に握って斬りつけてくるとか……」
「あと鼻鉛筆だな。鼻鉛筆ってのは、尖った鉛筆と鼻に差し込んで下から思いっきり突き上げて鼻を貫通させる行為だ。耳をちぎったりな。そういった奴等だから、相手にするんだったら十分注意してから行け。俺もそうとうやられてやり返したけど、一度やったらそうやって延々と繰り返しになっちまう。それだけは覚悟してやるんだぞ」
「分かった」
覚悟を決めた真也は、翌日から創や仲間に伝えて各々分かれて探し始めた。当時は平成に入りたての時期だったので、流行っていた格闘ゲームをやりに不良達がゲーセン集まるのが定着していたので真也達はゲーセンを重点的に探し回っていった。しかし、その人海戦術による少数探索は失策であった。探し回っていた仲間も潰されてしまったのだ。真也達も各学校の仲間と手を組んで連合化していたので、何とかなると思い散開したのだが仲間がやられる一方でなかなか尻尾を掴めない。
相手の朝鮮人達は敵をボコしたら速攻で逃げるので、連絡が来て駆けつけた頃には姿を消しているのだ。警察も足を掴めず手を焼く程にその連中は厄介であった。
真也は周りの仲間達に支えられながら日々耐えるも、在日の朝鮮人である中学生や高校生によって仲間達を痛め付けられている状況もあって、真也の心に何重にもストレスがのしかかる。
そんな中、真也は夜中に個人部屋で一つ決意を抱く。
「(これは一人の力じゃ解決できない……。人間の壁を越える、そのくらいの修行が必要だな)」
中学一年生の頃、河迅太乙こうじん たいいつ氏から仕事について言われていた。
“お前は前に話したように体格も良いし気合い入ってっから、いつでも俺ん所に働きに来い”
そう言ってもらえた事を思い出し、深夜にもかかわらず電話一本入れず急いで河迅家へと一人駆け込みに向かった。
到着して何回かインターホンを鳴らすと、豪地ごうじの母親が応答した。
「はい、河迅ですけど」
「すみません夜遅くに! 束岡真也です、大事な話があるので入れていただけませんか!?」
「あら真也君? 良いわ、どうぞ入って」
「すみません、お邪魔します!!」
速やかに中へ入れてもらい、真っ直ぐと太乙氏が座って待っているリビングへと入っていった。
「おう、どうした真也? こんな夜中に」
「あの……実はうち今ーー」
真也が事情を1から説明し、時折僅かに驚いた表情を見せるも落ち着いた様子で相槌を打ちながら清聴する。
「なるほど、事情は分かった」
「お願いです! 俺をそちらの企業で働かせてください!! 夏休み、冬休み、休み全部使って頑張りますのでお願いします!!」
真也は必死に頭を下げる。すると太乙氏は、ニヤついた顔でゆっくりとしたトーンで即答する。
「お前なら大歓迎だ~、お前なら18で通るわ」
「ありがとうございます!!」
真也は鍛え上げられた体格で相当な老け顔な為、中学にして同学年や教育実習に来た人に自分が何歳に見えるか聞くと、大体いつも23歳と言われ10歳老けて見られる程に大人な外見であった。その為、後日14歳であるものの十分罷まかり通るということで18歳として登録してもらい、夏休み全日使って就労に励む地獄の修行が始まった。
従業員はおよそ40人の規模で、一番目、二番目、三番目に偉い人も全員現場に向かう大仕事に乗り掛かることになる。太乙氏と今回の仕事について話すも、太乙氏が冗談交えた言い方なので真也もツッコミに回らざるを得ない。
「今回の仕事はよぉ……2年かかんだよ」
「……、はい~ぃイイイ!? に、二年って、え……どういうことっすか!?」
「2年だよ……」
「いやだから、2年なのは分かってますけど! 今聞いたじゃないっすか2年かかるからって、分かりましたけど現場は何処なんですか?」
「横浜知ってっか……?」
「横浜知らない奴いませんよ!」
「横浜知ってんだろ……、横浜の国際展示場だ~! 今2号館を造ってんだ俺らが」
ミーティングを終えて現場へ行き、太乙氏が真也へ最初に割り振る仕事はもちろん雑用。
「まずは手元からの修行、荷物運びぃ……」
真夏の炎天下、床が全部鉄板張りで蒸し焼き状態の為彼らの体感気温は45度以上に及ぶ。A~E工区の5つに分かれてJAVが参加しており、熊飼組くまがいぐみ、竹中工務店、清水建設、大成建設といった大手の企業が参加している大規模の建設に取りかかっていた。
真也が現場に打ち込む最初のうちは、理不尽な事が多々起きてしまう。荷物を運んでいる最中に色々な物が落ちてくる中で“走れ、休むな、座るな、しゃがむな”と一時の休息も与えられず、ひたすら使いっ走らされて嘔吐しながら走り込んだ。
「(これはもう、空手とは次元が違う……。これが鳶とびの世界か……)」
そう思い知らされるも、ここでやっていけば人間を越えられると真也は確信した。その中でも支えになっていたのが、一緒に現場で働いてよく手元につけてもらっていた先輩達であった。その先輩達は、真也が小学生の頃に河迅家で、バーベキューした時一緒に居た人達だ。
現場で働いているうちに判明したのは、彼らはとある殺人部隊の初代、二代目、三代目であることだった。国籍は日本だが、日本人ではない在日の異国人で構成されたチャイニーズマフィアという凶悪組織だ。
周囲の情報を知れば知るほど、その人達を纏め上げていた河迅太乙氏の存在がどれだけ凄い人間なのかと真也は痛感させられる。
土日等の休みは基本的に無く、風邪引こうが熱出ようが太乙氏から直々に電話がかかってくる。
「明日○時に来い」
そう一言だけ言われ一方的に通話を切られるのだ。しかし、そういった厳しい仕事の中にも面白い出来事が多々あり、真っ当に仕事をする一方でふざける時はふざけるといったメリハリがきっちりとされていた。その中で最もふざけていたのが、太乙氏が携える中のナンバー1から3の3人である。その所業とは、まず600人いる現場の偉い人間にも関わらず朝礼に出席しない。そして3人は早朝から終業の17時まで一日中、詰め所で花札で遊んでいるのだ。しかし、監督の連中はそれに対し何も言えない。
何故なら、太乙氏が若い頃に面倒見ていた人達が全員所長クラスになっていて、その人達の下が現場監督等に就いている上下関係が出来上がっているので誰も文句が言えないのである。
そして花札のコイコイをやる為に、毎回4人目が選出され犠牲となるのだ。しかし真也は一応は中学生なので、そういった賭け事には選ばれなかった。
「あぁ、今日も犠牲者が決まったね……」
「今日はアイツが運の尽きだな」
彼らが犠牲者と呼ぶのは、四人目に選ばれた者は確実にボロ負けして日給巻き上げられるからである。なので、生け贄以外の皆がそれを話のタネにして盛り上がるのだ。
そういった談笑する反面、真也が最も恐怖を抱いた出来事が訪れる。現場の休憩は一日に3回あり、午前10時に30分、昼に1時間、15時の30分と割り振られている。そして一服の時には必ず40人全員でジャンジュー(ジャンケンで負けた人が全員にジュースを奢るというゲームである)が始まる。休憩時間になって皆が詰め所に入った後、凄まじいオーラを放ちながら太乙氏やナンバー1~3が気合い入れて詰め所に入ってくる。
「お~疲れぇ……、うっしやるかぁ!」
「ちょっと待ってください! 俺、金持ってないっすよ!?」
仕事始めたばかりでまだ一度も給料を得ていない真也には、当然そういったゲームに費やせる資金は持ち合わせていない。
「負けたら俺、払えないっすよ……!?」
「いいんだよ……やるんだよ……!」
「いやだから、払えないのにやれないでしょぉおおお!!?」
真也の大声によって周囲が笑声に溢れ返るも、結局やらされるのであった。そして、その月には2回ほど負けてしまうが、その際には太乙氏から支払われた。
「給料から天引きな」
彼らが今回の仕事においてまず行うのは、用意された巨大なタワークレーン5工区分で1箇所しか無い搬入口を使って、2台協力して何処にでも運べる状況にし、打ち合わせを早朝にやっておくことである。
「本日、鳶、○時○分、資材搬入があります。集荷があります」
といった打ち合わせを毎回行うのだが、何故かそのクレーンが使えないトラブルが多々起きるのだ。そうして搬入手段が断たれた時どうするか、考える間も無く太乙氏から真也に言い渡される。
「おい真也、手で運んでこい……」
「手で……手でぇええええ!!? 5km走るんすか……」
トラブルが起きる時に必ずこういった無茶振りをさせられるのだが、修行だと思って真也は嘔吐しながらも1枚10kgの板を5枚担いで何百枚、5mパイプと4mパイプ何百本と運んでいくのであった。
真也は一日の厳しい仕事を終えた後、豪地ごうじと共に月曜、水曜、土曜の週3日は欠かさず道場に通っていた。そしてとある日、今後の在日学生の連中との大きな戦いになるということで創はじめも道場に入りたいと申し立てる。
真也は日頃からダイサンでいつも仲間達に格闘技のイロハであるパンチの打ち方、重心の落とし方、蹴りの入れ方、蹴る時の腰の入れ方等をを教えていた。しかし、創は少し自信が無い様子であった。
「俺は、真也と何度も喧嘩してるしボコボコにされてるけど、あまりにも実力差があって今後の戦いに自信を失いかけてるんよね。どうしたら良いかな?」
創は軽く笑いながら問いかける。
「じゃあお前俺ん所に入門するしかねぇだろぉ~、豪地もいるよ? 3人でやらねぇか?」
「あぁ、いいねそれ!」
「まぁ未だにね、豪地は一本も俺から取れていないからね? 中学入ってからずっと一緒にやってるけど、一本も取れてないからね? っはっはっは! それで悔しい思いをして乗り越えていけば、強くなれるよ絶対!」
「じゃあ一緒にやろうよ!」
こうして夏休みからは創も加わり、3人での空手修行に励むのであった。創は最初の内は喧嘩慣れしているせいで寸止めが出来ず、組手となると相手をボコす事にしか意識が回らなくなる。そして相手が血まみれになっても手を止めず、周囲がやめるように言っても聞かないので真也が説教を始める。
「お前、ふざけてやっているのか? ここは空手だ、喧嘩する場所じゃねぇんだ。ここは空手を習う場所なんだ、分かってんのか?」
「ごめん……、頭に血が昇っちゃって……パンチとか蹴り喰らうと、どうしても血ぃ昇っちゃうよね」
創はサッカーのユースに選ばれる程に運動神経が良く飲み込みが早い為、石出師範から教わった真也に習う事もあって格段に成長していった。
そして3人で習った武術をダイサンに集まる仲間に教えて、皆で筋トレしたりと戦線を控えた戦力の引き上げに日々を費やした。
「腕立て伏せ何回出来るか勝負だ! 負けた奴ジュースな~」
「いいぜ、やってやる!」
筋トレの賭け勝負で盛り上がり、真也は無敗でいつも勝負の後はジュースを片手に持っていた。
そうした地獄のような仕事内容や、道場やダイサンでの修行の数々を休日無しで一ヶ月こなし、給料日に社長行きつけの居酒屋を貸し切って食事会が行われた。社長である河迅氏から手渡しで順番に受け取ってゆき、自分の番が回って受け取ると真也は分厚さの余りに驚愕すると同時に疑念を抱く。
「(すっげぇ分厚いな……、まさかこれ千円札が敷き詰められてんのかな? 給料って千円札単位で渡されるもんなのかな~)」
社長からの指示で皆が一斉に開封し、一枚手に取った真也は目を丸くする。
「(……え、一万円!? え、まさかこれ……うわ、ウソだろ!?)」
給料明細を確認すると、手取りで何と30万円も入っていたのである。中学生にして初めての給料に30万円は、あまりの大金に内心で躍動感が溢れんばかりに暴れ出す。
そうして周囲もアルコールが回り始めて、マフィアや危ない大人達は喧嘩を始めて店内が騒然となる。そして盛り上がっている中、1人の若い衆(わかいしゅう:鳶職では新人の若い人をこう呼ぶ)が先輩に向けてビールを運んでくる。
「先輩、ビールお持ちしましーーあっ!!」
若い衆は躓いて頭から思いっきりビールを溢してしまった。真也が笑いこけていると、先輩が若人に対し完全にブチ切れてしまった。
「てめぇ……んのやろ外出ろぉ!!」
先輩が怒声を挙げると、先輩の仲間6人が怒り剥き出しにして髪の毛掴もうとするも、ナンバー2が先に若人へミドルキックを咬して若い衆の顎が切れてしまう。周囲が飲み食いしている中で若人の口から血が溢れ出て食事の匂いに異臭が入り交じる。
「ぅ”お”ぉ”ぅ”う”う”う”勘弁してくださいぃ……!」
「てめぇ誰に何したか分かってんのかゴラァ!!」
血まみれの若い衆が髪を掴まれ厳つい数人に外へと連行される様を見て、真也は心底恐怖に震え上がった。
「(これが、この鳶の世界なのか……)」
連行された若人は強引に壁に打ち付けられ、道路のど真ん中にて仲間が通行止めしている状態で、身長190cmで丸太のような腕をした人が延々と若人にボディブロー入れていく。
少し経って若い衆がボロボロになった頃、いい加減やり過ぎだということで河迅氏が店から出てきて彼らの前に立つ。
「おいお前ら……、そろそろやめとけ?」
「「「はい!! さーせんした!!」」」
彼らは一斉に引き締まった姿勢になり、口を揃えてハッキリと応答し頭を下げる。
「せっかくの給料日で食事会まで上げてくださってるのに、申し訳ございませんした!!」
有名な殺人部隊でもある厳つい数人がかしこまる程に、河迅氏がとんでもない人なんだと、夏休みの終わりに真也は思い知るのであった。
そうして在日学生の連中から奇襲を受けて三ヶ月、真也は仲間達とひたすら修行の合間に散開して連中を探し回っていたのだが、見つかるのは毎回後の祭りでやられた仲間の惨状しかその場に残っていない。
「くそっ……力だけつけてもこれじゃ意味がない! どうすりゃいいんだよ……!」
特別教室に仲間と集まり深く思い詰めていると、真也は咄嗟にとある一人の仲間に思い当たった。
「……っ!? そうか、アイツなら朝鮮の奴等をおびき寄せられるかもしれねぇ!」
「ん、どいつだ?」
「悠也っつう口達者の奴だよ、そいつにちと頼んでくるわ」
「おう、俺も行くわ」
真也は創と二人で、口達者という事で学年中で知られている悠也ゆうやという仲間に作戦を申し出た。
「なぁ悠也、ちと朝鮮人の奴等をおびき寄せる作戦があんだけど、請け負ってくれねぇか?」
「えぇ、良いですとも」
「悪いな、じゃあまずそこで喧嘩にならぬよう、“私は、あなた達と友達になりたいです”ってなことを低姿勢で言ってくれ。違う学校に偽ってな」
「了解、では探してきます」
「おう、頼んだぞ。何かあったらすぐ呼べよ」
それから何日か過ぎ、悠也は何とかこぎつけることに成功した。連絡先の交換も出来たとの事を翌日、真也は報告を受ける。
「おし、奴等の尻尾を掴んだから、ヤるよ?」
東京都足立区と荒川区の間に聳そびえる『荒川かせんじき』へ、人数揃えて朝鮮人の連中を待ち合わせることとなった。その場所を選んだ理由は、橋の下ならば警察に目をつけられないからである。
真也の父親からの情報によると、相手は皆2つ歳上らしい。つまり中学を相手にするということは、こちら側にとっては高校生を相手にするようなものだということを忠告されていた。その為、人数集めただけでは勝ち目が無いと、真也は各中学での頭かしらを集め、運動能力に長けた人を集中的に集めて戦略に必要な人員を割り当て始める。
スパイ行動として悠也から横流ししてもらった情報によると、相手のボスの名前はキム・スマン。相手の連中は日本人に対して相当な敵対心を抱いているとの事。朝鮮では授業でテコンドーを習っている為、足技に長けている者が大勢いるらしい。
そのテコンドーというのは、剛柔流空手と精通している所がある。というのも剛柔流空手は、中国のテコンドーを宮城長順みやぎ ちょうじゅん先生が改良して日本に広めた武術という説がある。
真也達が選抜して集まったのは凡そ30人、対して相手は電話一本でパッと見50人が速攻で集まってきた。その人数差と召集力により、真也達は圧巻し小声で仲間達と話始める。
「これはやばいな……アイツ等みんな凶器持ってんぞ!?」
「マジかよ……こっち素手だぞ?」
相手の朝鮮人達は、手に刃物やバットを握っていてこちらに凶器をチラつかせていた。しかし、真也達も全員が素手という訳ではない。
中国人達が日本人から差別を受けて、それに対抗すべく結成した対日本人向けのとある組織から設立されていた。そこから派生した日本人によって形成された暴走族の人達も30人の中にいて、その人達は色々と武器を携えていた。しかし、彼らの状況は綿密に戦略を練らなければまず勝ち目が無い。
真也は先輩が前線でいがみ合っている背後にて、各々に役割を当てて戦術を練り始めた。
つづく
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