第一章③:一触骨砕(いっしょくこっさい)

 縄先生によって集結した真也達16人は、日々追って友好を募っているうちに溜まり場という頻繁に集まって遊ぶ場所が出来るのであった。彼らはとある団地の中央公園の端にある駄菓子屋へ頻繁に集まるようになった。


 そういった不良の仲間内では必ずと言って良いほど、虎の威を借る狐といったお調子者が一人は出てくるのである。そのお調子者は、真也のグループにも一人いたらしく、その仲間によってまた新たに問題が引き起こされるのであった。


 とある日の溜まり場で真也達が屯たむろってる中、一人が慌てて彼らの元へ駆けつけた。


「おい、北都ほくと中学(真也達の通う中学の近所の中学)の清水亮しみず りょうって奴がいるんだけどよ、そいつに“どこのどいつだろうがブチのめしてやるよ!”って舌タン(舌を前歯の裏にくっ付けて弾くことで音を出す威嚇行為で、周囲に甲高い破裂音を響かせて喧嘩を売る行為)されててさ、そんでその音の方に向いたら10人ぐらい居てさ……」




『てめぇ何処中だ! んのやろぉあああ!!』


『四区しく中の坂本だよ……』


『あ”ぁ”? 四区中? 知らねぇよ何処のどいつだよんのやろぉ……、こっち見たっつうことはヤんのかゴルァあああ!?』


『や、やんねぇよ……そんな戦いたいなら呼んできてやるけど』


『はっ、怖じ気づいて誰か呼ぶってか? 良いぜ誰でも良いからかかってこいよ!!』




「ーーって、10人いるし俺じゃ相手出来ねぇから逃げてきたんだけどよぉ……」


「ほ~、良いじゃん誰でも良いならやろうぜ皆」


「おう、けど俺一人で行きゃあ十分じゃね?」


「真也一人で行かせたら死人が出かねないから一緒に行くんだよ、他所で意気がってる奴いるのムカつくし俺らにも喧嘩売ったってことだからさ。喧嘩上等っつってる奴スルーすんのは男じゃねぇだろ」


「そうだな、まぁ創はじめがそう言うなら皆で行くか!」


「俺たちの事知らねぇっつうなら知らしめてやろうぜオラァ!!」


「「「「「ッシャアア!!」」」」




 翌日、午前の授業が終わった昼過ぎに、真也達は午後の授業をサボって1ー1の教室前に集まり、例の威嚇していた中学生のいる学校の在処を校内で聞き込みする。


「ねぇ、ちょっと良い? 聞きたいことがあるんだけど」


「ん、な~に? また問題?」


「まぁな、ちょっと変な奴が出てきてさ。そんで、北都中学の場所って知ってる?」


「北都中学……知らないなぁ」


「そっか、分かったごめんね。じゃあ、何かあったらすぐ俺達に言えよ」


「はーい、頑張ってねー」


 それから十数分後、何人かの生徒から聞いた情報を元に場所を突き止めた彼らは、早急に校門を出て北都中学へと走り去っていった。


「北都中学かぁ、何か校門から出ていく時すごい剣幕してなかった?」


「あぁ、校門の近くで集まってた知り合いが引いてたぜ」


「ということはやっぱ喧嘩かなぁ……」


「だろうな、まぁあいつらのことだからサラッと済ませてくるだろ」


「だな、あいつらに喧嘩売るたぁ……知らなかったとはいえ命知らずも居たもんだな」




 真也達は到着するや否や、彼らは校門前でデモンストレーションを行った。


「清水亮、出てこーーーいっ!」


「居るのは分かってんだ、いいから出てこーーーいっ!!」


「おっし皆、声合わせろ!」


「「「清水亮! 出てこーーーいっ!!」」」 


 彼らが暫く叫び散らすも、清水亮という生徒は一向に出てこなかった。そうしているうちに騒ぎを聞き付けた教師達が彼らの前に集まってきた。


「お前ら何中だぁーーっ!?」


「お、きたきたきたきたっ! っはっはっは!」


「おっし、作戦通り行くぞオラァ!!」


 彼らは昨晩、解散前に作戦として一連の流れを打合せしていた。その作戦というのは、まず校門へいびり立って中へ入らず叫び散らすことによって、必ず最初に教師達が出てくる。その教師達を炙り出し自分達の方へ向かってくると同時に、彼らは校門の塀を乗り越えて散開し、あらゆる角度から教師達に捕まらぬよう侵入するという云わば特攻だ。威嚇行為も兼ねて自分達の存在を知らしめることで、校内のざわつきを利用して当人の心境を揺らがせ怯む可能性を上げるのだ。


 彼らはそれぞれ本館へ侵入し教室やトイレのドアを蹴破るなりして、過剰行為による威嚇を続行しながら急いで清水亮を探し始める。そして見つけ出したら窓から叫んで合図を送る、これが清水亮の元へ遭遇するまでの作戦だ。


 そうして彼らは作戦通り遂行し、早々に一人が窓から叫んで合図を送ったのでそこへ皆で集合した。しかし、そこに清水亮の姿は見当たらなかった。


「おい出てこいんのやろぉおおおァ!!」


 一人が威勢と共にある教室のドアを蹴破って、仲間の数人が清水亮の名を叫ぶ。そうした行為を1年から3年までの全クラスで行うも、その教室内の何処にも彼の姿は見当たらなかった。


「ちくしょー……居ねえから解散!!」


 真也達が再び散開して探し回ろうとした途端、仲間の一人が教室の男子生徒の胸ぐらを付かんで吊り上げる。


「おい、清水亮って奴知ってっか?」


「は、はいぃ……い、1年の……」


「1年の何組だオルルラァ!?」


「い、今学校にいないんで……勘弁してくださぁああい!」


 胸ぐらを捕まれた生徒が泣き出す。


「知らねぇよんなもん、んじゃあ溜まり場教えろよ!」


 その男子生徒が言うには、とある公園の横にある駄菓子屋に1年と2年の不良が溜まっているらしい。


「おっし、皆そこへ行くぞぉおおお!!」


 真也達は学校から誰一人捕まること無く脱出し、男子生徒の言う駄菓子屋へ向かうのであった。走って数分、男子生徒が言っていた通り駄菓子屋に不良が集まっているのを目撃した。そこへ真也は堂々と笑いながらゆっくりと首やら手首やらの間接を鳴らして、身体を温めながら入ろうする。すると創が真也を走って追い越し駄菓子屋のドアを蹴破り叫び出した。


「おい清水亮どいつだんのやろおおおおぁ!!」


 店内に彼のとてつもなく大きな怒声が響き渡り、耳鳴りがするほどに空気が激しく揺らいだ。


「四区中の小林創だゴゥラァアアアアッ!!」


 すると当然、店内の客や店員はドン引きしながら創に注目する。そして客の中の男子生徒一人が創の方へと歩を進める。


「俺だよ」


 その男子生徒は清水亮と自白し、ゆっくりと歩み寄ってくる。しかし創は耐久力などに長けていない為、外見からして相手は舐めた態度を取り始める。


「んだてめぇ、俺四区中で一番強ぇ奴を呼んだんだけど」


 真也は喧嘩が即座に始まると予期し、ゆっくりと店内に入って創の肩を掴み、後ろに引っ張り軽く外へ放り投げた。


「俺が四区中の束岡だオラァ……」


 すると清水亮を含む向こう全員が、全身に電撃を受けたかのように震え上がる。真也は語尾に恫喝を入れながら相手に向かって威勢を放つ。


「てめぇか俺を呼んだのはぁあああああっ!!?」


 すると相手側全員が追撃を受けたかのように再び震え上がって怯みだし、清水亮は一変した様子で少し斜め後ろに上半身を傾け鏡ながら彼の目を見る。


「あの、すみません、あ、あの……あの、そうじゃなくてその……勘弁してください……」


「勘弁してくださいじゃねぇんだよ、分かってんだろ? お前が喧嘩売ってうちの坂本に、あっくんに昨日言ったんだろ? だから俺が来たんだよ」


「うっ……」


「誰でも良い相手してやるよ、誰だ俺の相手になるっつう奴は……んのやろおおお!!」


 真也が辺りを見渡すも、清水亮を含む全員が誰も目を合わせようとしない。


「んじゃお前でいいや、清水亮。ちと来い」


「勘弁してくださいよ……」


「だから勘弁してくださいじゃねぇんだよ……、お前が売った喧嘩を俺は買いに来たんだよ。売り物を買いに来たの!!」


 真也は清水亮の胸ぐらを左手で掴んで駄菓子屋から引きずり出し、裏路地まで連れていく。


「んと勘弁してくださいよぉおおぁああ!」


「うるせぇ……」


 泣きながら許しを乞う彼を、容赦なく路地裏に着いた途端壁に押し付ける。


「お前さぁ、やるっつったんだろ?」


「いや……はい、言いました」


「じゃあやるよな?」


「いや……ホント勘弁してください、やりたくないですホントごめんなさい」


 彼の言葉は真也の耳に入っても、心にまで伝わることはなかった。何故なら真也は縄先生や仲間と出会う前の、父親の件で荒れていた頃の感情が沸き立って自身でも抑えることができないからだ。


「今からやるからな?」


「いや……勘弁してください」


 清水亮は必死に同じ言葉で乞い続ける。


「勘弁してくださいとか言うくらいだったら、最初から喧嘩売んなよ! んで、俺はお前の売った喧嘩を買いに来たの。売り物を買いに来たの、お客さんなの、良い? いくよ? 3……2……1……よ~~いっ!? スタート!!」


 真也は合図を終えると同時に、上段正拳突きを彼の顔面に向けて一発打ち込んだ。清水亮はその勢いのまま奥に勢いよく飛ばされ壁に打ち身し、跳ね返って地に横たわわる。起き上がった清水亮の中段正拳突きで追撃する。そして右手で髪を掴んで軽く持ち上げ、地面に叩きつけようという意思が頭に過よぎるもコンクリートの上なので掴んだ状態で一旦制止しテキトーに放り投げた。


「……っうぉえええええええっ……えっ……えっ……」


 中段正拳突きを受けた清水亮は、肺の酸素が漏れ出てしまい呼吸困難に陥る。苦しみもがいて横たわる彼に真也はゆっくりと近づき、腰と膝の間の側面にある太い筋すじ、この筋は多々ある人間の急所の1つであり自分の親指でつつくだけでも結構痛い箇所に狙いを定める。そして真也は一本拳という、指一本で突き刺すように打ち込む攻撃を振りかぶり、全体重を乗せて真下に打つ。


 清水亮は人間の痛み4段階(1段階目に呼吸困難、2段階目に泡を吹き始める、3段階目に泡を吹いて痙攣する、4段階目は死に至る)のうち1段階目の状態になる。


「おい、聞こえてんだろ?」


 真也は軽く彼の頬を叩く。


「これで終わりにするから、勘弁してやるよこれで。んで、金輪際うちに喧嘩売るな、俺が出てくるから」


「……」


「それから喧嘩した者同士、今後も仲良くしていこうじゃないか。これ以上やっても仕方ねぇし、お前も俺とやりたくないだろ?」


「……」


「冷静に話しようや、まぁ今後また色んな敵が出てくると思う、お前らが売ってきた喧嘩みたいにな。んで俺が出てきてこうなるなんて思わなかっただろ?」


「……それは、そうなんだけどさぁ……っはぁ~いってぇ~……」


 清水亮は徐々に会話ができる状態になるまで、呼吸と意識が回復していく。


「っはっはっは、お前が俺に勝てるわけねぇだろうがー!」


「んとだよ勘弁してくれよぉ~……」


 当時のタイマンというのは、喧嘩した後に勝者と敗者は必ず温厚に話し合うフェイズに移行する。彼らも決着のあと立ち去らずその場で話し始める。


「だから、もうやりたくねぇだろ?」


「やりたくないっす……絶対にお前と戦いたくない……」


 やがて清水亮は泣きに入る。


「うちに何かあったら助けてよー……」


「いいよ、んなの全然。俺らはもう仲間だからな、それでいいな? 皆にも言っとく」


 真也はその場を後にし、創たちの元へ戻っていった。


「皆~、もう北都中のやつらとは仲間だから帰るよ。警察が来たらマズいからな、地元帰ろ」


 真也達は各々の自転車に乗って大声でバイクのエンジン音の真似して走り去っていった。しかし真也が仲間達の様子を見渡すと、いつもの人数より1人欠けていた。


「あれ? あれ、一人居ないんだけどどこ行ったんだよ……っはっはっは! まぁいいや、取り合えず地元帰ろ~」


 真也達は構わずそのまま地元のいつもの溜まり場に集合し、欠けている一人が戻って来るのを暫く待つことにした。


「……あいつ遅ぇなぁ」


「何やってんだよアイツ、迷子か?」


「っはっはっは、ならPHSピッチで連絡してこいってんだよなぁ?」


「違ぇねぇ!」


 仲間内で話している最中、欠けていた一人である坂本が戻ってきた。


「お前どこにいたの!?」


「何はぐれてんだよ、心配したんだぞ」


「悪い……、いやさぁ~最後に挨拶だけしといたわ」


「ん? 何、挨拶って何? 何をしたんだよ」


「いやいや、挨拶していただけだよ」


「あぁ……そう、分かったわ」


 少し疑念が残るも、真也達は気にせずいつも通り夜まで遊んで、いつものように解散しその日を終えた。




 翌日、いつも通り学校での生活を終えて、皆でそれぞれ自転車に乗ってダイサンというあだ名を付けた溜まり場へ、後々集まるよう言って一旦自宅へと解散した。制服のままだと喫煙などで警察に色々と言われかねないので、自宅で私服に着替えてからダイサンに集合する。豪地は父親の言いつけもあり警察沙汰になると面倒だと、普段からあまり参加できなかった。


 真也と創は警察もお構い無しで制服のまま二人でダイサンに向かった。




 到着すると、そこにはやたらと大人数が集まっていた。ジェイソンが被っているようなマスクをしていたり、金属バット持っていたり、警棒を持っていたりと武装集団がいて、その近くに金髪なり茶髪なり色々とケバいギャル達も集まっていた。金髪のリーゼントやオールバック、その他にも色々な厳つい連中がいてそれらは明らかに中学生ではない。そして格好がそれらよりは控えめな中学生っぽい連中なども集まって合計でおよそ100人。


 その光景からして警察が駆けつけてもおかしくないのだが、一向に来る様子が無いので真也と創は不審を抱く。


「あれヤバくね!?」


「ヤバイよな、何で警察来ねえんだ?」


「めっちゃ人集まってるけど、何かのイベントでもやってんのかな~?」


「ちと行ってみようぜ!」


 揚々と二人で突っ込んでいくと、向こうの何人が二人に向かって怒声を撒き散らしながら走ってくる。


「「「お前らが四区中の真也と創かぁあ”あ”あ”あ”あ”!!?」」」


「ちょっ、いやいやいやいやちょっと待て、ちょ待て……お前ら誰だ!?」


「待て待て待て待て、ステイ、ステイ、ステイ……」


 真也は向かってくる全員を相手にしてやろうかと心に意気込むも、一旦抑えて冷静に彼らと対面する。そして真也が少し離れた所に居る警棒持った男に向けて指を差す。


「えっと、あの人が頭ですよね? 警棒を持ってるあの人、ちょっと案内してもらっていいですか? 話があるんで」


 数人が囲った状態でその警棒を持った男の元へと案内され、真也と創はその男と正面を合わせる。そしてこの騒ぎの原因を男から聞き出した。


 まず、先日真也が打ちのめした清水亮には3つ歳上の姉がいた。清水亮はあの後仲間に介抱してもらったりとよろよろ帰宅し、その姉が驚愕した様子で駆け寄る。


「どうしたの!? 誰にやられたの!!?」


「いや、まぁえっと……」


「とにかく上がって、すぐ手当てするから!!」


「悪い……姉貴」


 姉の部屋に上がり、姉は救急箱を取りに一旦出て戻ってくる。そして清水亮の服を捲めくって怪我の容態を確認する。すると亮の鳩尾に中段正拳突きを受けた時できた痣あざを発見し、姉の顔色が青ざめる。鼻が腫れていて足も打撲しているため姉は一瞬だけ膠着するが、すぐに顔と鳩尾と足の手当てを始める。姉はもうブチ切れた様子で、しかし弟には優しい口調で問う。


「何これ……、誰にやられたの?」


「いやぁ、四区中の真也にやられてさぁ~。まぁ俺が喧嘩売ったんだし俺が悪いんだけど」


 亮の方は穏便な様子で自白していたものの、姉は弟を相当愛でていたため怒りが沸騰し同級生の仲間を連れて 徹底的に叩きのめそうと待ち伏せするに至った。


「お前が四区中の束岡つかおかか」


「はい、そうです。今回どういった件で皆さんお越しになったのですか?」


「いやぁ、うちの彼女がさぁ……」


 リーダーの男が差す指先の方を真也と創は振り向く。




「うぅおあああああああ!! 早くそいつ殺してぇええええええ!!」


 数人のギャルに羽交い締めされ、取り押さえられながら叫び散らしている亮の姉が真也を睨んでいた。


「早くそいつを殺せぇああああああ!!!」


「っぷ、クスス……ちょっと、あの人どなたですか?」


「いや、俺の彼女なんだけどさ……、弟がやられてブチ切れてんだよ」


 そう言うリーダー男は身長が約190cmの長身でゴツゴツした体格なので、真也は見上げながら話している。


「いやでも俺、あれですよ? 向こうが喧嘩売ってきて、俺はそれを買いに行って、“やるか?”っつって始めて、やったあと和解して別れたはずなんですけど……亮から聞いてないですか?」


「いや、そんな話はちょっと聞いてないなぁ……。俺らは別にお前らをボコボコにしに来た訳じゃなくて、ギャラリーとして来たんだよね~。中学生同士が喧嘩するって噂を聞き付けてさ」


「あ、そうなんですか!?」


 勢力的に2対100で、このままやれば大事おおごとになりかねない為真也は交渉に入る。


「このままじゃ警察来ちゃいますから、事を荒立てない為に早く済ませましょうよ」


「う~ん、アイツがさぁ……うちの彼女がさぁ、もう納得いかなくて凄ぇブチ切れてっからさぁ~、何とかケジメつける為に治まりつける方法ねぇかなぁ? お互いの妥協点を見つけ合おうや」


「じゃ、ちょっと待ってくださいね、原因となった理由が分かんないんで……うちの仲間全員すぐ呼びますから」


 真也と創はPHSでいつもの仲間14人を呼び立てる。


『今ダイサンですんげぇ事になってっから、今すぐ来い。んじゃ後でな』


 暫くして仲間全員がダイサンに急いで集合し、この騒動の原因が判明した。どうやら先日、皆より少し遅れてきた坂本が駄菓子屋から去る時に捨て台詞を吐いていたらしい。




“お前ら何人でも良いからよぉ……明日の○時にいつもの溜まり場にいるから、いつでもかかって来ぅいやぁあ!”




 亮の先輩達にそう言ったらしく、真也は納得する。


「てめぇふざけんなよ! お前昨日ちょっと話してただけって、全然話違ぇじゃねぇかよ!!」


「……」


「んじゃあどうしますか? こいつが暴走したせいでこうなってるんすけど」


「……う~ん」


 リーダー男は暫し頭を捻って悩み始める。


「ーーじゃあそいつに、あの~……うちの亮のパンチ一発受けてくんねぇ?」


「いやぁでも、こいつも悪気があって言ったわけじゃないんすよ」


 真也は坂本を庇うように一歩ずれて前へ出る。


「結局やったのは俺ですし、こいつは口が悪いだけであって……決して悪い奴じゃないんすよ俺の仲間でもあるし。だからそのパンチ、俺が受け止めますよ」


「おぉ~……お前凄いなぁ!」


「俺だったら、もう何発でも殴っていいっすから。俺がケツ拭きますから、こいつは何とか勘弁してやってくれませんか? こいつ弱いんで」


「っはっはっは! 分かった分かった、おい亮ー! 束岡が受けてくれるらしいぞ~!」


 所々に包帯巻いた亮がゆっくりと歩いて申し訳なさそうに真也の前に立ち、姉はそれとはお構いなしで亮に耳打ちする。すると亮の右手に何かジッポライターのような、金属の物を握りしめているのが見えた。真也はそれによる危機を察知する。


 パンチする時に拳に何か握りしめることで、その拳が折れようが粉砕しようが相手に確実に外傷を負わせることが出来るという、要は威力を底上げするためのやり口である。


 真也は対策するためにまず休めの姿勢で両手を後ろに組み、無防備の状態で待機する。


「いいよ~、いつでも。何発でもいいよ~」


 亮は助走つけるために数歩下がり構え、勢いよく真也の顔面に向けて走り寄って拳を打ち出した。そして被弾したと思われる炸裂音が響いた直後、亮は右腕を抑えて地面に転げ回り周囲は騒然とする。そして姉が真っ先に駆け寄って亮を抱き抱える。


「っあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ!! 腕がぁああああっ!!」


「亮!? しっかりして!! ……お、お前ぇえええ!!」


「よせ! 決着はついただろう、これ以上はやめだ」


 リーダー男は間に入って彼女をなだめる。




 外観からは向こう100人は皆は真也の殴り飛ばされる様を予想していたが、対する真也は一切外傷を負わずに平然としている。


 そうなった理由としては、真也日頃の武術の修行もあって相手がどの位置に打ってくるのかをスローモーションで見るかのように見切ることが出来る。その軌道を詠んで、誰にも気付かれないギリギリの位置まで引き付けてから顔をずらし、チョウパン(ヤンキーの間で流行っている技の1つで、至近距離で睨み合った際に額で思いっきり鼻に頭突きして鼻の骨を折るという技である)をかますことで被弾した腕の骨を粉砕骨折させたのだ。


 亮の粉砕した亮の右腕は垂れて動かず、全員が亮の元へ駆け寄る。真也は両手を後ろに組んだまま軽口で言う。


「もう、これでいいっすよね。その様子じゃ無理そうですし」


「あぁ分かった分かった、解散します解散~、皆場所移るから~」




 そうして100人は疑念や驚愕、恐怖等を各々に抱えながらその場を立ち去っていった。






つづく

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