記念日

わんわん🐶

記念日

お客さん、今日はどこまで?

××区○○までね。了解しました。



...お客さん、どこかで見たと思ったら...もしかして千恵美ちゃん?あ、やっぱりそうだ!!

何年ぶりだろう?あの時以来じゃないか?いやぁ懐かしいなぁ。


せっかくだし思い出話でもしながら運転しようか。



千恵美ちゃんと最初に会ったのは中学生の時だね。俺、内気なもんだから全然友達が出来なくて、めちゃくちゃ焦ってて。そんな時一番に声掛けてくれたのが千恵美ちゃんだったね。いやぁ、あの時はほんと「女神っ...!!」って思ったよ笑。

それから橋谷や山口とかともはなすようになって、友達も出来るようになったし、本当に感謝してるよ。特に俺と大倉と千恵美ちゃんはいつも3人でいた記憶があるな。

こうやって俺が誰かと話す仕事出来てるのって千恵美ちゃんのおかげってのもあるよね。

ありがとう。あの頃は照れくさくて言えなかったけど。


夏休み、千恵美ちゃんと大倉と俺、いつもの3人で行った夏祭り楽しかったな~。あの時の千恵美ちゃん本当に綺麗で子供ながらにすげぇドキドキしたよ笑。

花火も凄かったよな。

そういやあん時ちょっとしたボヤ騒ぎあったよな。覚えてる?あれ、知らなかった?結構話題になってたんだけどなー。まぁ何年も経ってるし覚えてなくても仕方ないか。


△△高校に進学したのも千恵美ちゃんがいたってのも結構でかかったんだよね。気持ち悪いか??ははっそんなにハッキリ言うなよ、傷つくだろ笑。

これでも結構頑張ったんだぜ?千恵美ちゃんの行く学校頭良かったからさ。

あぁ、高校生の頃は毎日楽しかったな~。



...ごめんな、やっぱり気になるから聞いてもいいか?あの時のこと。



高二の時、委員会があって少し帰るのが遅れた日。委員会も済んで、家に帰ろうとしてたら千恵美ちゃんを見かけて、声をかけようとしたら千恵美ちゃんが知らないおじさんと...ラ、ラブホに入ろうとしてて...。驚いたよ。千恵美ちゃんはもっと純粋?というかなんにも知らないってイメージがあったから。

でも、なにか事情があったんだろ?だって、あの時千恵美ちゃん、ものすごく震えてた。


俺、なんとかしなきゃって咄嗟にそこにあった店の看板でおじさんを殴ってさ、「逃げて!!」って叫んだ。よく覚えてるよ、その時のこと。ショックだった。千恵美ちゃんは逃げるでも、ありがとうと言うでもなく、顔を真っ青にして真っ先におじさんに駆け寄った。本当に本当にショックだったよ。

そのあと千恵美ちゃんは救急車を呼んで。俺はなんだか悪いことをしたような気分...というか正直もうそこにいたくなくて家に帰った。

次の日も、その次の日もずっと千恵美ちゃんは学校に来なくて、結局そのまま千恵美ちゃんは引っ越したから俺が千恵美ちゃんを見たのはその時が最後だった。


千恵美ちゃん。千恵美ちゃんにとってあのおじさんはなんだったの?なにか、弱味でも握られてたの?俺、心配で心配で...。ねぇ、千恵美ちゃん答えてよ。


??!千恵美ちゃん??どうしたの???

いきなり声を荒らげて?違う違うって何が違うんだよ。本当に何があったの?


◇ ◇ ◇


私はごく普通の子だった。ごく一般の家庭で育ち、スポーツはあまり出来ないものの勉強が好きだったため一応優秀な生徒だった。友達もそこそこいた。何不自由ない生活だった。

どうしてこんなことになってしまったんだろう。


中学3年の夏休み明け、転校生がやってきた。無愛想で自己紹介も名前だけ言って終わりというような子だった。先生から指示された席は不運にも私の隣だった。良い気はしなかったが仕方が無いので隣に座った彼に「よろしくね」とだけ言う。彼は目を見開きこっちをじっと見ると目を細め笑顔で「うん、よろしくね。千恵美ちゃん。」と言った。私は少し困惑した。


それからというもの彼は私に毎日のように「千恵美ちゃん!千恵美ちゃん!」と話しかけてきた。私は困ったが無視するのも可哀想なので話に付き合った。

けれど、周りの友達にあいつはおかしい、関わらない方がいいと言われた。私は彼と距離を置くようになった。

しかし、逆効果だったようだ。彼から話しかけられることは無くなったが、その代わりに毎日のように届く「千恵美ちゃん、どうして?」と大量に綴られた手紙、いつも感じる視線、嫌がらせ、私はもう限界だった。親や教師に相談しなかったのは私の慈悲、というよりも告白して彼に何をされるかが怖かったからだ。


中学校が終わればこの生活からも解放される。そう思った。けれど私の行く学校にも彼はいた。愕然とした。頑張って、地域で一番の進学校に来たというのに。


高校に入っても彼の行動は変わらなかった。いや、エスカレートしたと言ってもいいだろう。私はとうとう耐えきれなくなり両親に話した。両親は私を抱きしめると怖かったね、辛かったね、もう大丈夫だから。と言った。私は壊れたようにずっと泣いた。


翌日から行き帰りは父が送ってくれることになった。それと一緒に学校にも報告しようとの事だった。あぁ、やっと私は普通に戻れるのか、そう思っていた。


翌日の放課後。私は父と手を繋ぎながら帰った。父と手を繋ぐのなんていつぶりだろうか。私は楽しくて腕をぶんぶんと振った。その時だった。ちょうど、ホテルらしいところの前を通りすがろうとした時だった。

彼がいた。

向かい側の道路。目は瞬くこと無くこちらを見つめ唇をはくはくとさせ何かを呟いている。肝心の脚は動かないのに心臓はけたたましく喚き恐怖心を煽るように皮膚を震わせた。そこからは早かった。彼はすぐにこちらへ来るとおもむろにそこにあった看板を持ち上げ父の頭を殴った。彼が我が物顔でなにか言ったが聞こえなかった。

私は一週間後転校した。


◇ ◇ ◇


仕事も順調にいってた。今日は私の誕生日で友達がサプライズパーティーをしてくれた。人生で1番幸せな日だった。どうして。どうして。

例の”彼”が思い出話をする中でぐるぐると頭にその言葉が巡る。

あぁ、そうか。彼がここにいるのも、私の携帯が突然紛失したのも、サービスで出されたお酒を飲んでクラクラしたのも全部偶然なんかじゃないのか。

こうして私が考えている間にも彼は千恵美ちゃん、千恵美ちゃんと言う。

うるさいうるさいうるさい!!


「違う!!!違う違う違う!!!」


彼が困惑する。


「私は千恵美ちゃんなんかじゃ無い!!私は小鳥遊みのりだ!!千恵美ちゃんはあんたが殺したクラスメイトでしょうが!!!」


「何を...言ってるの?」


「私は調べたのよ。転校した後。あんたが元々住んでた町のことやあんたが呼ぶ千恵美ちゃんのこと。びっくりしたわ。千恵美ちゃんは夏祭りの時に事故で死んでた。ついでに大倉くんや谷口くんも。町の人から聞いたわ。千恵美ちゃんと大倉くんは付き合ってて、それにずっと付きまとったり嫌がらせをしてたのがあんただって。その後転校したからあんたがあの時2人がいた屋台のガスを漏らして火事にしたんじゃないかって噂になってたらしいわよ。あの頃は半信半疑だったけど今ようやく分かった。あんたは私に殺した千恵美ちゃんを投影して馬鹿みたいに疑似恋愛楽しんでたとんでもないクソ野郎だったわけね。とっとと罪を認めて自首しなさいよ!!!!このクソ犯罪者!!!!!!」


言いたいことが一気に出てきた。なんだかスッキリした、解放されたような気分になる。流石の彼も、好いていた相手にここまで言われたら相当こたえたのではないだろうか。


「確かに...君の言う通りだよ。俺があのボヤ騒ぎを起こして結果3人が死んだ。最初こそ嘆いたさ。でもね、考えてもみてよ、俺はそんなに悪いことをしたかな?俺と千恵美ちゃんは確実に愛し合っていた。そう思える確証もいくつかあった。なのに大倉は俺から千恵美ちゃんを奪った。無理やりね。非情だと思わないか?だからボヤ騒ぎを起こして、そこで千恵美ちゃんを助けて、千恵美ちゃんには俺しかいないって証明しようとした。失敗に終わったけどね。でもやっぱり俺は正しかった!だって、転校した先に君がいた!君はまさしく千恵美ちゃんの生まれ変わりだ!!神様が千恵美ちゃんと大倉を引き離し、もとあるべき俺の元へ千恵美ちゃんを返したんだよ!なんて素晴らしいんだ!千恵美ちゃんが転校してからもこれは試練だと思って千恵美ちゃんの誕生日に千恵美ちゃんを迎えに行くって決めたんだ!俺マイホームもウェディングドレスも買ったんだ!似合うと思うよ!つまり、今日は千恵美ちゃんとの再会日、千恵美ちゃんの誕生日、そして結婚式が重なった日なんだ!!!最高の記念日だと思わないかい?」


初めて出逢った時のように目を細め、恍惚と微笑む彼に彼女は怯えた。

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