第101話
「さぁ、二人とも無駄な事してないで帰ります……よ!?」
クーデルスがそう言って二人を促したその時であった。
何か小さな影が突如として彼に襲い掛かったのである。
「なんですか、この猫は! おやめなさい。 怒りますよ?」
「フギャアァァァァァァ!」
クーデルスに摘み上げられたのは、かなり大柄な雄の虎猫であった。
首根っこを掴みあげられているにも関わらず、クーデルスを引っかこうとジタバタしている。
「この私に襲い掛かるとは、とんだ畜生ですね。
それとも、私に愛されたくて気を引こうとしているのですか?」
クーデルスが不快げな表情と共にそう尋ねると、虎猫はビクッと驚いて動きを止めた。
「ちょっと、猫ちゃんがおびえているでしょ!」
猫が動きを止める瞬間を狙っていたのだろう。
その瞬間、アモエナが横から猫を掻っ攫った。
そして、クーデルスからかばうように自分の胸に抱きかかえる。
「その猫が襲い掛かってくるから悪いのです。
アモエナさんは、私よりその猫のほうが大事なのですか?」
「だって、クーデルスは強いけど、猫ちゃんは弱いもん」
アモエナの台詞に、なぜかガックリと項垂れる猫。
おまけに、クーデルスの機嫌がさらに悪くなる。
「強いとか弱いとかじゃないのですよ。 誰が大事かと言う問題なのです」
「そ、そんなのわからないし……」
クーデルスが真顔で告げた問いかけに、アモエナは目を背けて言葉を濁した。
だが、クーデルスはその答えを追求せずに、別の提案を持ち出す。
「とりあえず帰りましょう。 どうせ。手がかりは何もなかったんでしょ?」
「ダメよ。 まだ話を聞いていない人たちがいるじゃない」
だが、そんなアモエナの言葉にカッファーナが疑問をはさんだ。
「え? 関係者はだいたい話をしてきたと思うけど?」
「ほら、あそこに……」
アモエナが指差す先にいたのは、王国の兵士である。
たしかにまだ話を聞いてはいないものの、それは彼らの業務を邪魔すれば罪なることを知っていたからに過ぎない。
「アモエナさん、兵士に話を聞くつもりですか? やめたほうがいいですよ?」
「そうよ。 かなり気が立っているみたいだし、やめたほうがいいわ」
「ここまで来て、手ぶらでは帰れないもん」
そう告げながら、彼女は兵士に近づいてゆく。
「ちょっと、アモエナちゃん」
「およしなさい、アモエナさん!」
クーデルスもカッファーナも揃って止めようとするのだが、アモエナは踏みとどまろうとはしなかった。
「なんだお前? 舞踏団の関係者か? リストにはこんなヤツいなかったはずだが……」
近づいてきたアモエナを、兵士は怪訝な表情で迎え入れる。
舞踏団の関係者でもないアモエナが、なぜこんなところにいるのか?
傍から見れば、不審に思わないほうがどうかしていた。
「あ、あの……私、ウフィッツィーさんを探しているんですけど」
「なぜお前がヤツを探している?」
案の定、兵士は警戒を強めて同僚に目配せをした。
目つきの悪い兵士が、二人ほどアモエナの後ろに回りこむ。
「私、あの人のファンで……」
「怪しいな。 おい、話は詰め所で聞いてやる。 一緒に来い」
「え? いえ、その、私はちょっと話を聞きたいだけで……」
「こちらの捜査状況を聞きたいと?
普通の奴がそんな事するわけ無いだろ。 締め切りに追われたウフィッツィーが失踪するのはいつもの事だし、ファンなら当然知っている話だ。
団員たちには緘口令を敷いてあるし、ヤツの失踪は公式に発表して無い」
失踪がいつもの事ならば、なぜ今回に限ってこんな大騒ぎに?
そんな疑問が頭をよぎったが、今重要なのは……自分が完全にヘマをしたという事実である。
「おい、詰め所に連れてゆけ。
ウフィッツィーの居所を吐かせるんだ」
そんな台詞と共に、アモエナの両腕を兵士が捕らえる。
「ちょっ、何かの間違い……た、助けて、クーデルス!!」
だが、振り返るとクーデルスとカッファーナの姿はいつの間にか消えていた
もしかして、見捨てられたのだろうか?
そんな最悪な想像と共に、アモエナの血の気がサーッと音をたてて引いてゆく。
いったい、自分はどうなるのだろう?
兵士たちに拷問されてしまうのだろうか?
アモエナがそんな自問を繰り返していると、ニャーと声がして先ほどの虎猫が擦り寄ってきた。
まるで彼女を励ますような行動に、アモエナは思わずその猫を抱き上げて縋りつく。
そして猫を抱きしめたまま彼女は、男臭い兵士の詰め所に押し込まれたのであった。
「単刀直入に聞く。 ウフィッツィーはどこだ?」
詰め所にある窓の無い部屋にアモエナを連れ込むと、兵士は真っ先にそんな言葉を叩きつけてきた。。
「し、知りません! そもそも、なんでウフィッツィーさんが兵士の皆さんに追いかけられているんですか?」
すると、兵士はフンと鼻を鳴らしてからこう告げたのである。
「白々しい……。
ヤツが隣の国の依頼で王家を批判するような脚本を書いていた事はわかっているんだ!
お前はヤツの仲間だろう」
「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
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