第46話
【見晴らしの良い丘の上で誰にも見えないようにして好き勝手にお泊りしちゃうぞ計画・草案】
プランA
・周辺を霧の結界で覆って視界を遮断する。
メリット ……コストが少ない。
周囲に悪影響を与える可能性が少ない。
デメリット……景色が楽しめない。
霧の中に入り込んだ人間が迷子になる。
プランB
・周囲の地形をまるごと異空間に引きずり込む。
メリット ……環境を自分で設定できる。 周囲に影響を与えない。
デメリット……さすがに魔王だとドルチェスさんにバレる。
プランC
・崖崩れを起こして誰もこの地域に入れないようにする。
メリット ……コストがほとんどかからない。
一応自然現象で説明がつく。
デメリット……街道がしばらく使えなくなって色んな人に迷惑。
「ふむ、ここは迷わずCですね。 ……痛っ!?」
クーデルスがいつものように邪悪な寝言を口にすると、次元の隙間から現れた虹色の触手がクーデルスの頭を殴りつけた。
「え? なぜ迷わずCを選ぶのかですって?
もちろん、私にもっともメリットがあるからですよ……痛いっ!
フラクタ君、貴方は私にもーすこし優しくしなさい! 今、本気で殴ったでしょ!!」
どうやら次元を隔てて触手と会話をしているようだが、事情を知らない者から見れば一人芝居のように見えるだろう。
あの派手な色合いをした触手は、クーデルスの副官の体の一部であった。
「いいですか、プランAは確実にアモエナさんから不満が出ます!
そもそも、この景色を楽しみたいという、根本的なコンセプトから外れているのです!」
穏便さと身内の少女のわがままを天秤にかけて、あっさりわがままを優先するあたりが実に魔族らしい価値観である。
そんなクーデルスの発言に呆れたのか、その見た目とは裏腹に実は良識のある触手がグニャリと曲がった。
「続いてプランBは、ドルチェスさんとカッファーナさんから怖がられそうなので却下です。
私が愛されない方向のプランは使いません」
あくまでも自分本位。
いっそ清々しいまでに全体の迷惑を考えない。
そんなクーデルスに向かって正義感にかられた触手の一撃が飛んでくるが、クーデルスはその展開を最初から予想していたのか、あっさりと平手でペチンと弾いてしまった。
「……と言うわけでプランCしか無いのです!
物事の優先順位を考えればほかに選択肢はありませんね。
どうです、完璧な理屈でしょう!!」
触手からのお仕置きをやり過ごし、クーデルスは拳を握り締めながら力説する。
どうやら、この世界のインフラや物流は、クーデルスにとってアモエナの機嫌以下の価値しかないらしい。
すると、まるで肩を竦めたかのように、触手がMの字を作った。
フラクタ君が諦めた、つまりこの街道が謎の崖崩れによってしばらく使用不能になる事が決まった瞬間である。
「え? 後始末はどうするのですかって?
それは
つまりこの男、やることをやったら責任をほかに丸投げするつもりらしい。
もっとも、自分で責任をとって片付けをすれば、それはそれで目立ってしまう。
そして、それだけの力があるならば崖崩れも簡単に起こせるということに気づく者が出るかも知れない。
いや、その可能性はわりと高いだろう。
つまり、モラルとしては最低であるが、賢いやり方である事も確かなのであった。
きっと、クーデルスのこの言動に良識あるフラクタ君はさぞ胃をいためている頃だろう。
そして仕方無しにその後のフォローを申し出たフラクタ君なのだが……。
「え? フラクタ君が後始末を?
いえいえ、そこまで人間の皆さんに気を使う事は無……痛い! また殴りましたね!?
……って、うわっ、本気で怒ること無いじゃない……あ゛ばばばばばばばばばばばば」
せっかくクーデルスの後始末を買って出たフラクタ君だが、クーデルスの神経を逆なでする言動にとうとう本気でキレたのだろう。
クーデルスは空から降ってきた無数の触手に押しつぶされて沈黙した。
そして撃沈したクーデルスに代わってフラクタ君が街道の閉鎖を行い、この美しい風景の独り占めに成功した頃。
あっさり復活したクーデルスがいつものようにデタラメな方法で居住空間を作り始めた。
やがて捩子花の咲き乱れる草原を見下ろすように巨大な屋敷が現れた頃。
あたりはいつのまにか夕日で赤く染まり始めていた。
「さて、今日もいい感じに野営地が完成しましたね。
さて、アモエナさんは……」
アモエナから賞賛の言葉をちょうだいしようと、クーデルスはアモエナの姿を探して当たりを見渡す。
だが、その姿がどこにも見えない。
「はて、どこに行ってしまったのか」
見晴らしのよい場所ではあるが、大きな岩などの遮蔽物がいくつかあってアモエナの姿を隠す場所はいくらでもあった。
「フンゴリアンの皆さん、アモエナさんはどこですか?」
クーデルスは手をパンパンと叩き、警備をさせていた元盗賊たちを呼び寄せると、アモエナの行方を尋ねる。
すると、彼らは一斉に大きな岩の向こう側を指差した。
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